呪われていた俺のために、わざわざ大金を払って解呪の鱗と呼ばれる貴重な品を手に入れてくれた女の子
オードリック・バジル・アルヴィア。アルヴィア王国の第一王子。それが俺。
だが、俺は身体が弱かった。
婚約者候補である公爵家のお嬢様と会うこの日さえ、ベッドの上から動けない。
せめて笑顔で迎え入れようと、身体の気怠さを抑え込み顔を作る。
そして、ドアをノックする音が聞こえた。
「入っていいぞ」
「失礼致します」
そこには、可愛らしい公爵家のお嬢様。ベッドの上から起き上がれず、顔色も悪い俺を見ても嫌な顔一つしない。優しい女の子だなと思った。
「こんな格好ですまないな。俺はオードリック・バジル・アルヴィア。よろしく頼む」
「私はエリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌと申します。これからよろしくお願い致します」
バッチリカーテシーを決め、俺に近付く彼女はとても愛らしい。わがままお嬢様で有名らしいが、そんな雰囲気は全く無い。
「今日は私、オードリック様にお土産を持ってきましたの」
「はは、ありがとう。どんなものを持ってきてくれたんだ?」
「とりあえず、果物セットですわ」
「定番だな」
「あと、解呪の鱗ですわ」
その言葉に、俺は目を丸くした。
「そんなに貴重なものを?どうやって手に入れたんだ?」
「商人から買いました」
「それはまた。でもなぜ俺に?」
「とりあえず受け取ってくださいませ」
彼女がそう言うならと、俺は手を伸ばして解呪の鱗を受け取った。
瞬間、解呪の鱗は光を放つ。
そして、俺の身体から黒い靄が出て消えた。
「…今のは!?」
「解呪の鱗の効果が発揮されましたのよ。オードリック様、顔色も良くなりましたわ。身体が軽くなったのではありませんか?」
「…ああ、今は身体が楽だ。…だとすれば、俺は誰かに呪われていたのか?」
「ええ、そのようです。解呪の鱗の効果で、相手は呪い返しにあっているはずですわ」
「…そうか、礼を言う。助かった、ありがとう」
俺はとりあえず、彼女にお礼を言って微笑む。
彼女には、命を救われたようなものだ。本当に、心から感謝する。これで俺は、これから先この国の第一王子として国に尽くすことができるのだから。
しかし、感謝はすれども疑問をぶつけないわけにいかない。
「だが、どうして俺が呪われていると気付いたんだ?」
「…えっと、夢のお告げですわ」
「夢のお告げ…なるほど、エリアーヌはすごいな。特殊な能力を持っているのか。さすがは赤龍の獣人だ」
たまに特殊な能力を受け継いだ、先祖返りの獣人もいる。エリアーヌはそのタイプなんだろう。
「夢のお告げは他言無用でお願い致しますわ」
「ああ。わかった」
そして、この後すぐにわかったのだが…俺を呪っていたのは、父上の愛妾であった女だった。側妃にすらなれず、公妾という身分。その苛立ちから、俺を呪ったらしい。
なんとも身勝手な話だが、同情もする。
そして、彼女は呪い返しによって命を失った。
せめてもの救いは、呪い返しのことは俺たち以外知らず、病死として手厚く葬られることになったことだろう。