ヒロインの婚約
さて、なんだかんだで攻略対象である五人とはアナトールを会わせることができた。というかあちらから会いに来た。
「みんなアナトールの味方になってくれそうでありがたいですわ」
アナトールが社交の場に出るときも、これで多少は楽になるだろう。
「あと、一応エミリーともそろそろ会っておきたいですわね。出来ればアナトールも一緒に」
聖女への覚醒は防いだし、恩を売って仲良くもなった。とはいえ、いつまた聖女への覚醒の機会があるかわからない。もし、まだ聖女になる可能性があるなら仲良くしておきたい相手でもある。
あと、前回会ったとき純粋に良い子だったし数少ない女の子のお友達だし。まあ、女の子のお友達はこれから増えると思うけど。
そんなことを考えていたら、慌てた様子のお母様に呼び出された。
「エリアーヌ!今すぐ来て!はやく!」
いつも穏やかなお母様からは考えられない慌てように、急いでついていく。すると、応接間に何故かノーマークだった『隠し攻略キャラ』の隣国の皇太子がいた。
…なんで?
あまりのことに対応出来ない。すると、何故かそこに…というか皇太子の隣にエミリーが座っていて、私を見ると目を輝かせた。
「ティモテ様!この方が私を助けてくださったエリアーヌ様です!」
「え?…あ、お、お初にお目にかかります。エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌと申します」
「ああ、貴方が僕の婚約者を救ってくれた人だね。エリアーヌ嬢、お礼を申し上げる」
…僕の、婚約者。
「ええっと…」
つまり、エミリーは。
乙女ゲームの本編開始前のこの時点で、隠し攻略キャラクターであるティモテ・ステファヌ・サロモンを攻略したってこと…?
天才か!?
「あ、あ、いきなりそんなこと言ってもエリアーヌ様が困っちゃいます!あの、エリアーヌ様。この方はティモテ・ステファヌ・サロモン様という…隣国であるサロモン皇国の、第一皇子殿下です」
あ、そうかまだ皇太子にはなってないのか。
「ああ、すまない。つい気持ちが先走ってしまった。改めて、僕はティモテ・ステファヌ・サロモン。人族の治める国隣国の第一皇子だ」
「はい」
「先日、人族と獣人族が手を取り合って暮らしているというこの国に興味が湧いて遊びに来たんだ。我が国とこの国は、隣国だというのにお互いの行き来も少なくてもったいないよね」
「そ、そうですね」
たしか隣国の方が規制しているからじゃなかったかな…まあいいけど…。
「そうしたら、まあありがちな話で他の国…獣人の国からの刺客に襲われそうになってね」
「まあ!」
驚いた顔をしておくが、知っている。たしかゲームでは、ここで幸い深手を負わなかったティモテを聖女の力に目覚めたエミリーが治癒して助けたという裏設定があった。
そして本編の貴族学園で特殊コマンドにて出現。エミリーはあんまり覚えてなくて、人違いでは?という反応だったが、ティモテはそれでも君が好きだと迫っていた。
「そこを私の婚約者…この、聖女エミリーが助けてくれたんだ。刺客に今にも刺されそうになっている私を、エミリーは助けようとしてくれた。そこで聖女の力に目覚めたんだ」
「え、エミリー?そんな危ないことをしたの?」
思わず素で聞いてしまう。まあ、聖女の力に目覚めて刺客を退けたのは良いことだと思うけど普通に危ない。しかしエミリーは言った。
「あの時、エリアーヌ様が勇敢にも強盗犯に立ち向かってくださいました!そのおかげで私は助かったんです!エリアーヌ様に恥じないよう、ピンチの人は助けなきゃと思って」
「そ、そう。それは良い心がけですけれど、自分の命も大切にするんですわよ?約束ですわ」
「はい、エリアーヌ様!」
私は自分のことを棚に上げてエミリーを諭す。そんな私を見て、ティモテは笑顔を深めた。
「僕は獣人の国の刺客に襲われた時、やっぱり獣人族とは仲良く出来ないのかと絶望したんだ。そして人族のエミリーに助けられて、その想いは強くなった」
「そうですの…」
「けれど…エミリーはそんな風に獣人族への偏見を持ってしまいそうな僕に教えてくれたんだ。僕の命の恩人であるエミリーは、君に。獣人族のお嬢様に、命を投げ出すような真似をしてまで助けてもらったという」
「わ、私はただ放って置けなかっただけですわ」
「そう言わないでくれ。僕は、エミリーから君の話を聞いて再び獣人族への希望を取り戻したんだ。エミリーはもちろんのこと、君を心底尊敬している。すごいよ」
な、なんだか壮大な話になってしまった。
というか、乙女ゲームではこの後エミリーはティモテを忘れてティモテが隠し攻略対象になるはずなのに。
私が設定をめちゃくちゃにした副産物だろうか…。
「というか、そもそも。エミリー…いえ、エミリー様、第一皇子殿下。ご婚約おめでとうございます」
「え、え、そんな、エリアーヌ様はエミリーとお呼び下さい!」
「では、エミリーも私をエリアーヌとお呼びになって?」
「…え、エリアーヌ」
顔が真っ赤なエミリーが可愛い。そんな照れることじゃないのに。
「はは。二人は本当に仲がいいな。では、エリアーヌ嬢。僕に何かおねだりはないかな?」
「え?」
「褒美として何か与えたい。何が欲しい?」
「いえ、褒美はエミリーに…」
「エミリーには、僕との婚約を褒美として与えた。…ちょっと強引に」
ティモテは最後の方に小さな声で何か言ったけど、聞かなかったことにしよう。うん。
「君にも褒美を与えたいんだ。何かないかな」
「それであれば…」
願うことは、これ一つ。
「私や、私の友人達。…人族の子も獣人族の子もいるのですけれど、彼らとお友達になって下さいませんか?もちろん、エミリーも一緒に」
「ほう」
「え、エリアーヌ、いいんですか?」
「ええ、もちろん。そして、ティモテ殿下とエミリーにはサロモン皇国において獣人族とも仲良くなれるというシンボルになって欲しいんです。…わがまま過ぎますか?」
私の言葉にティモテは満足そうに笑う。
「もちろんいいとも!よろしく頼むよ」
「頑張りますね、エリアーヌ!」
ということで、エミリーとティモテが婚約した。おめでとう。
そして、この後アナトールを紹介して四人で短い時間だけどお茶会をした。
なんだかんだで全てが上手くいってくれて、結果的に良かったとほっとする。




