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転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?  作者: 下菊みこと


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36/50

愛してくれる婚約者のため、俺も頑張ると決めた

僕とエリアーヌに、新しい家庭教師がつけられた。義父上と義母上には、感謝しかない。


今、隣ではエリアーヌが新しい家庭教師と勉強しているのだろう。


俺も、新しい家庭教師を待つ。


…ドアをノックされる。


「えっと、どうぞ」


「失礼する」


目の前には、まだ若いが見るからに気難しそうな男。胸に掲げる教会のシンボルはピカピカに磨かれている。大事にしているのだろう、敬虔な信徒だとわかった。


「えっと…初めまして。アナトールです。よろしくお願いします」


頭を下げる。


「ふむ。スラム街育ちの野生児と聞いていたが、礼儀はある程度弁えているようだな」


偉そう。でも、その声はやけに優しく響いた。


「まあ良い。私はラファエル。ラファエル・ヴァランタン・チエリーだ。ラファエル先生と呼ぶが良い」


「はい、ラファエル先生」


「それで…」


ラファエル先生は言った。


「お前、正気か?」


「え?」


「我々獣人族は、運命の番を感じられる。そして、本能のままに愛おしく思う。だが、人族の方はなにも感じないんだろう?」


「…はい」


「平民が公爵家に婿入りする。その大変さを自覚しているのか?いっそここから逃げて平穏な日々を平民として過ごす方が楽だぞ」


投げかけられる言葉は厳しい。けれど、なんだろう。嫌味とか、攻撃的な雰囲気ではない気がした。


「…それは、分かってます。俺はスラム街育ちの野生児ですから、人の醜い部分は他人より多く見て来ましたから。俺が…平民がエリアーヌの婿になれば、当然嫉妬されるでしょう。攻撃も受けるでしょうね」


「逃げたいのなら、力を貸してやっても良い」


そんなことをしたら、自分がデルフィーヌ公爵家に睨まれることになるのに。やっぱり悪い人じゃない気がする。…口は悪いみたいだけど。


「俺…エリアーヌが好きなんです」


「は?」


「人族の俺には、運命の番とか分からない。でも、エリアーヌが確かに好きです。だから、誰になにを言われてもそばに居たい」


「…ほう」


「でも、その為には俺には何もかもが足りない」


俺は、ラファエル先生を見据える。


「俺には、教養を身につける必要がある。俺には、武術の稽古をする必要がある。俺には、貴方の力が必要です。ラファエル先生」


「…!」


「お願いします。俺をあらゆる意味で鍛えてください。精神面も、教養も、武力だって。俺は、努力しか出来ない。でも、努力なら出来る!俺は、エリアーヌを守れる男になりたい!!!」


ラファエル先生が目を見開いた。


「…ふん。なかなか見込みのある生徒だ。良いだろう。この私が、お前を鍛え抜いて世界一の良い男に育ててやる!」


「ラファエル先生…!」


「その代わり、私は厳しい…らしい。そのつもりはないのだが、よくそう言われる。それでもきちんとついてこれるか?」


「もちろんです!」


「よろしい。ならばまずは、そのなよっとした身体をどうにかしろ。もっと食え、肉をつけろ。そしたら身体を鍛えてやる。それまでは勉強からだ。…本来の私の責務は、教養を身につけさせることだしな」


なよっとした身体。うん、確かに。ここに来てからお腹いっぱい食べさせてもらっているが、まだ痩せっぽちだから。


「頑張って食べます!」


「よろしい。じゃあ、まずは勉強…お前、読み書きは?」


「…まだ無理です」


「正直なのは良いことだ。その素直さを大切にしろ。分からないことは分からない、出来ないことは出来ない。それは決して恥ずべきことではない。伸び代があるということだ。分かるか?」


「伸び代…はい、わかりました」


孤児院の院長も言っていた。俺に成長の見込みがあるという意味らしい。


「では、まずは読み書きを教えてやる。ここに座れ。始めるぞ。居眠りは許さないからな」


「はい!」


言葉がきつい割に、ラファエル先生の教え方はすごく丁寧で優しい。俺なんかにもよくわかる。


一つ一つの文字の読み方、書き方を時間をかけて丁寧に教えてくれて、俺がつまずいたところを根気よく解説してくれる。


書き方の練習の間も、その間サボってもいいだろうにずっとつきっきりで見てくれる。間違えれば、その場で指摘してくれてもう一度教えてくれるから間違って覚えることもなかった。


知らないことを知る、出来なかったことが出来るようになる。それはすごく楽しいことだと知った。


そして、ラファエル先生との授業はとても楽しいとも知った。時間を忘れて授業に集中する。


「…ふむ。よく頑張ったじゃないか。初日でここまで出来るようになるなら、今後も期待できるな。あまり詰め込みすぎると逆に覚えが悪くなる。今日はここまでにしておけ」


「え、でも」


「もう、いい時間になってる。あまり勉強にかまけていると、愛おしい婚約者を寂しがらせるぞ」


そう言われて時計を見た。時計の見方は、孤児院で習った。俺が間違ってなければ、たしかに勉強を始めてからもうかなりの時間が経ってる。


「…そうですね。今日は色々教えてくださってありがとうございました。明日もよろしくお願いします!」


「ふん。生徒を持った以上責任を持って教えてやるのは当然だ。今日はしっかり食べて、寝て、休め。明日もまた読み書きの習得から始めるからな」


「はい!」


思ったより良い人でよかった。正直、家庭教師に虐待される可能性も覚悟していたから。この人の元でなら、きっとエリアーヌを守れる男になれる。エリアーヌに相応しい男にだって、なれるはず。死ぬ気で頑張ろう。俺には伸び代があるんだから。

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