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第1話 邂逅

今日は少し早い時間に目が覚めた。

カーテンの向こうには眩しい陽光が差し込んでいる。時刻を確認すると午前6時過ぎを示していた。部屋の窓を開けると海の香りが鼻腔を刺激する。夏の匂い。青々とした空が広がっている。

(天気が良いなぁ……。暑くなりそうだ、それに風も気持ち良い)

夏を感じさせる風が髪を撫でていくのを感じる。


どうやら母親はまだ起きていないらしい。リビングに降りるとラップに包まれた昨日の夕飯の残りが置かれていたので、早めの朝食を摂ることにした。

(美味いな……。やっぱり料理上手なんだなぁ母さんって)

少し寂しさを覚える朝の時間、一人で食事を終え食器を片付けて家を出る。日課でもなんでもないけど、いつもの様に僕は海岸へ向かった。


[海岸へ向かう]

潮騒の音と強い風。波飛沫が上がる海岸線はとても綺麗だった。

(……相変わらず広い海だよな。見渡す限り水平線で……空の色も濃い)

太陽が少し低い位置に浮かぶ夏の海。朝日に照らされた海はキラキラと輝いているように見える。何時までも見ていたくなる光景だった。……この海には何もいない。ただ海と、遠くに広がる水平線が在るだけだ。

この浜辺はあまり人が来ない。海水浴を楽しむには遠すぎる場所だし、観光地としての価値があるわけでもないからだ。僕にとってはこの場所がとても気に入っていた。誰にも邪魔される事のない自由な空間に思えたんだ。


***

防波堤の上に腰掛けてしばらくぼんやりと海を眺めた後、ふと砂浜に目をやるとそこには見慣れない人影が立っていた。

(あれ?いつの間に……。あんな所に女の人いるぞ?)

朝日に照らされて輝く透き通るような銀髪に、人形のように精巧で整った顔立ちの少女の姿があった。彼女は静かに海を見つめている。まるで何かを待つように。

(うわぁ……。外国人かな?可愛い子だけど日本人離れした容姿してるよなぁ。)


少女の華奢な身体を包むワンピースの裾を優しく海風が揺らしている。彼女の横顔を太陽が照らし、銀に輝く長い髪をより一層幻想的に見せた。景色も相まって現実味がない美しさに、少しの間みとれてしまっていた僕だったが 不意に少女がこちらへ視線を向けてきたので慌ててそっぽを向くと 彼女は小走りに僕の方へと近づいて来た。


「こんにちは」

日本語だ。少し安心しつつ僕は挨拶に答える。

「えっと……どうも。君は……」


そこで言葉が止まる。目の前に立つのはとても綺麗な女の子だった。多分年齢は同じ位だろうか? 少女の肌はとても白く、淡い金色の瞳に吸い込まれそうで一瞬息をするのを忘れてしまった。


「良かったら、お話しませんか?」

彼女の澄んだ声を聞いて初めて自分が呼吸を止めている事に気が付き我に返る。

「えっ!?あ……いや……。あの……僕なんかと話しても面白くないと思うんだけど……。」

焦りつつ返事をすると、少女は首を横に振る。そして微笑んで言った。

「私は、貴方と話したいと思ったんです。それに、面白いかどうかは私が決めます。駄目でしょうか……?」


真っ直ぐな言葉を受けてたじろぐ。


「いっ、いや!別にダメとかそんなんじゃないよ!!ただ何ていうか……。人と話すのあんまり得意じゃなくて……。君みたいに可愛い子に話かけてもらえたら嬉しいっていうのもあるけど……。」


自分で言ってて凄く恥ずかしい。顔が熱い。きっと今の僕の顔はかなり赤く染まっているのだろう。

彼女はクスリと笑って言った。


「大丈夫ですよ。緊張する事はないのです。私達はお互いに名前も知らない、ただの他人同士です。もっと気楽に接してくれて良いんですよ。」

彼女の言葉を反すうして少し落ち着いた気がしたので深呼吸をして、なるべく冷静に返事を返す。

「そうだね。確かにお互いの事は良く分からないよね。……えっと、君は僕に話しかけてきたって事は何か用事があるのかな?もしかして道案内でもして欲しいとか……?」

「ふふっ、違うのですよ。私は宇宙と海が好きなんです。」


そう言って彼女は海を見つめながら、続けて言った。

「人は宇宙に出て、新しい場所を探索しているでしょう?だけど、宇宙は広いので全ての星や生命が見渡せているわけではありません。海もそうです。海の中には、海の底には何があるのか、どんな生物が暮らしているのでしょうか。」

海を見る彼女の瞳には純粋な興味と希望が満ちていっている気がした。まるで、無垢な子供の様に輝く瞳で語る彼女はとても美しく見えた。

「だから、海をまっすぐに見つめてるあなたを見つけて、お話がしたいと思ったんです。それだけじゃ理由になりませんか?」


微笑みながら彼女は問う。

不思議な子だと思う。見た目は何処にでもいる普通の少女なのに、纏っている雰囲気が明らかに他とは違う。そして、僕の想像以上に海を真っ直ぐ見ているこの子は、どこか純粋さが溢れている様に感じた。僕には、それが不思議と心地よく感じられた。


「全然駄目なんて事はないよ。僕で良かったら、話相手になるよ。」

そうやって不思議な彼女との交流が始まった。

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