⑤
「美嘉!!」
その時視界に映ったのは、『異形』その言葉では形容しきれないものだった。パッとのシルエットは人間と言えるかもしれない。ただ、その人型の何かの全身を蠢く虫蟲。皮膚に根を張る、植物。なんなんだよ、コイツ!!
美嘉を守る。そうだろ? なぁ、動けよ! 俺!
美嘉の机の上のハサミが視界の端に映るのに気がついた。俺はそれを掴み咄嗟にその異形の喉元に向かって、その刃を突き立てた。今まで見てきたゾンビ物の映画からの知識のおかげか、はたまた火事場の馬鹿力的なものか。
とにかく、思考より先に身体が動いた。そして、運良くその異形の首を掻っ切った。
瞬間、飛び散る鮮血。こんなにも目の前で血が噴き出すのを見たのは初めてだ。だがその時、俺の脳裏には、10年前の事故の凄惨な嫁の現場写真の記憶が過ぎった。
「あぁ! クソッなんだよ!コイツ!……美嘉、大丈夫か?」
「ッ痛。ちょっと噛まれた……でも大丈夫。」
美嘉の腕にはえぐれる程に深い歯型があった。
学の無い脳みそがフル稼働しているのがわかる。よくあるパンデミック映画と似た状況。だがここは映画の世界じゃない、現実だ。そうだろ。ありえないだろ。だが、もし、
政府の施設での問題。感染。現れた異形。人間を噛んだ。感染。感染。感染! 感……染……
「美嘉! 来い! 直ぐに洗おう! 」
俺はすぐ様、美嘉の傷口を洗った。洗った後、美嘉の腕を強く縛って血を絞り出す。
「パパ……痛い」
「ごめんな、でも、ちょっと我慢してくれ!」
その後、美嘉の腕に酒をぶっかけた。消毒液なんて置いてない。その些細なことに自分を呪った。
「何があった!」
玄関をピッキングして雄一が入ってきた。いつも綺麗ななりをしているのに、汗だくで髪も乱れている。
「あぁ、なんか変なやつが入ってきたんだ。」
言いながら、タオルで美嘉の傷口を塞ぐ。俺は何故か雄一に美嘉が噛まれたことを隠した。
「 雄一、用意は出来てる。」
美嘉には小声で「後で病院に行こう」と伝えた。俺は自分のデカいカバン2つと、美嘉のリュックを担ぎ、空いた手で美嘉の腕を引いた。
「じゃあ、すぐ車に乗れ!表に停めてある!」
言われるがままに雄一の車に美嘉を連れて乗り込む。雄一が運転席、俺が助手席、後部座席に美嘉を座らせ荷物を詰め込んだ。
えぐれる程に噛まれたんだから当然かなり痛いはずだが、それでも、この数分で異常に美嘉の腕は腫れ上がり、汗も異常なほどに流していた。
俺は今日この日まで、嫁が死んだあの日以上に後悔する日はないと思っていた。
※作者から大切なお願いです。
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