婚約
中庭で奇跡の再会を果たしたレジーナ(アシュリー)とノエル(ノワール)は、しばらく生まれ変わってからの生活や状況について語り合った。
その途中、感極まって特に何も考えず口づけをしてしまったが、今はお互い婚約しているわけではないことに気づく。しかし、まぁいいかという結論に至った。
ノエルを失ったことによるレジーナの暴走については、お互い思うところもあり話題に触れづらかったのだが、同じことが起きないようにお互いがお互いを守れるよう強くなろうという意見でまとまった。
「黒炎ですが、再現しようとしてもうまく具現化出来ないのですのよ。やはり絶望などの負の感情が必要なのではないかと推察しておりますの。ノワール様はどう思いますか?」
「アシュリー…。急にお嬢様口調になられても反応に困るのだけど…。ただそうだね、魔法に詳しくはないからいまいちピンとはこないけれど、思い当たる節がないわけではないよ。ほら思い出してみてごらん?君が白炎を生み出したときのこと。リアリスの花の色をまねようと必死に思い描いていたよね?魔法はイメージだと言われていたけれど、実際その通りなんじゃないかって思うよ。」
ちょっとふざけてみたくて伯爵令嬢のように振舞ってみたけどノワールには不評だった。納得できない!こうもっと照れてくれたりなんかこう可愛い反応が欲しかった!!
と、私個人の話は置いておいて。ノワールに指摘されてしっくりきた。むしろなんで忘れてたんだろうって思う。なので今度は前世を思い出しながら黒炎をイメージする。
すると、ボボボッっと、周りに3つの小さな黒炎が生まれた。
「ノワールありがと!お陰でまた一歩魔法がうまくなった気がする!!イメージだけではダメなのよ。こうイメージと感情が組み合わさって魔法は生まれるのだわ。単純なようで奥が深いわね。」
「あめでとうアシュリー。イメージと感情か…なるほどね。次から僕も意識して魔法を使ってみるよ。もしかしたら魔法もうまく扱えるようになるかもしれない。魔法と剣が使えたらなんか最強!って感じがするよね?」
「えぇ、剣と魔法を使う人を相手にするのって想像しただけで難しそうだわ。私なら1撃でも当てれれば消し炭にできるけど。」
「ふむ、単に攻撃魔法に剣術を組み合わせるつもりだったけど、その意見を聞いたらむしろ身体強化魔法を組み合わせるほうが強そうだな。」
「身体強化かぁ。当たらないと意味ないものね。それは大変だわ。」
何故か途中から戦いの話に移り変わっていたけれど、私たちは時間を忘れて2人の世界に入っていた。
その後、パーティーが終わったようで迎えに来たアルジェント家のメイドに連れられて私たちはそれぞれの家へと戻った。ノワールに関してはすでに家にいるのだけれど。
パーティーから数日後、アシュリーは父に書斎…ではなく、第二応接間という名目だが実際には家族で会話をしたりする部屋に呼ばれていた。かつて夜中に書庫に盗み入ったことがばれた後に集まった部屋であり、それ以降来客を通すことがほぼないということから家族で過ごす部屋として認識されている部屋である。
さて、では何故そんな部屋に呼ばれたのか…呼ばれたということから何かしらの話があるというわけで、アシュリーは一体何を言われるのだろうか?と今まで起こした数々の出来事を思い返していた。
「さて、アシュリーを呼んだ理由だが…。実はな、大変ありがたいことにルチアーニ家から、長男であるノワールをアシュリーと婚約させてみてはいかがという打診をもらってな。確かに魔法の才能はあるが実際クレーターをいくつも作る問題児だ。そう簡単に婚約の打診が来るはずがないんだ。アシュリーいったい何をしたんだ。」
最初は、ノエルと婚約できるの?やったあーと心の中で喜んでいたのだが、徐々に雲行きが怪しくなり終いには何をしたのか?と問われる。だが実際何もしていないので何もしていないとしか答えようがないのだが……
「本当に何もしていませんよ?あの日はルチアーニ家の中庭に珍しい花が咲いていたので鑑賞していたのです。紫と白の2色が美しく咲いていて、ちょっと火の魔法を白くして、白と赤の火の玉を手の平でクルクルと回して遊んでいたくらいです。その時にノワール様から声をかけられてお話をしていただけで…。」
「ん?白い火の玉とはなんだ・・・」
「あー、実際に見るほうが早いでしょう。これですわ。」
説明するのが面倒とかそういうのでは決してなく、見たほうが説明が省けると思い白と赤の火の玉を出す。もちろん安全を考慮して手のひらサイズです。
「白い炎など聞いたことがない…。アシュリーいつからこんなことができるようになった?」
「先ほども申し上げた通り、昨日、ルリアーニ家の、中庭、ですわよお父様。」
「嘘ではないのだな?いやしかし、そうするととんでもない才能…才能なのか?」
「もう、あなたってば!魔法の色を変えるのは前代未聞。すなわち物凄い才能ですわ!!まったく…どうして火力で物事を推し量ろうとするのかしら。それよりもアシュリー。凄いわね、思った通りに魔法を出せるなんてすばらしい才能よ。それにとても美しいわ。クレーターを作るような魔法はあまり認められないけれど、このような美しい魔法でしたら私は大歓迎よ。まだほかにあるかしら?みたいわ~」
お父様はなぜ意味のない魔法を…と頭を抱えていたが、お母様はとても大喜びだった。しかしこれは前世で編み出した魔法。ほかに使える変わった魔法はないので、今はこれしかないと告げる。お母様はそれで納得してくださったが、また面白い発見や魔法を生み出したら教えてねとも言われた。親孝行だと思い時間のある時に少し考えようかと思う。
話は大きく脱線してしまっていることに両親は気づいていない様子。本来であればそのままスルーするところだが、相手はノエルだ。絶対に受けるに決まっている。
「それでお父様?婚約の件ですが、私受けようかと思いますの。もちろんよろしいですわよね?」
「あぁ、すっかり忘れていた…ん?いいのかアシュリー?いつも断ったり逃げたりしていたのに……」
「はい、ノワール様でしたら私謹んでお受けいたしますわ。」
「まぁまぁ。アシュリーは結婚が嫌なのかと思っていましたが、ふふ、やっぱり女の子ですわね。」
「どういうことだ、アンジェ?」
「恋ですわ。こ、い。ノワール様の話をするときのアシュリーは恋する女の子の顔でしたわ。」
「ほう…」
カァァ…と顔が熱くなるのを感じる。お母さまったらなんてことを…。恥ずかしくて顔を上げられない。
その後、お母様はよほど嬉しかったのか、はたまた私のことだから話したいのか、使用人に会うたび話をするものだから、1日も立たず私とノワールが婚約することと、私がノワールのことが好きだということが屋敷中に知れ渡った。もうヤダ、恥ずかしい。部屋から出たくない……
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