再会と誓い
ルンルン♪と私はいつも魔法の練習をしている場所に移動する。
「お嬢様、どちらへ行かれるのですか?」
「んー、実験?」
「また、焼野原にするのですか?」
「大丈夫よ、今回はそんなに火力のある魔法じゃないから!」
「そうおっしゃって前回も結局地面にクレーター作ってましたよね?」
「うぐっ」
前世のように魔法を使うためにはどうしても今の体の魔力に慣れないといけないのだが、前世よりも魔力の流れがいいのでうまく扱えていないのである。
「今度は本当に大丈夫だから。アルベルトに魔法を教える練習方法を考えたの。それが理論通りうまくできるか試すだけだから危険なんてないわ!」
「そうだとよろしいのですけれど…」
全く信用されていない。でも試すといえば試すのが私だ。
「それと、今夜は公爵家の長男であるノワール様の誕生パーティですから、本当に、程々に、しておいてくださいませ。魔力切れで不参加ですと大変失礼ですので」
「ぁ、そそうね。わかっているわ。もちろんじゃない!」
ジトーと私を見つめてくるが知らない振りをする。忘れてましたとも!えぇ、忘れていましたとも。パーティーに興味なんて全くないんですもの!
魔法の練習では、私の考え通り暴走する気配もなく、また”魔力のコントロール”の練習においてはかなりいい練習だということが分かった。……これ毎日朝起きたらやろっと
そして今夜はパーティなので、お風呂に入りドレスに着替える。
今回は主役ではないので、薄い青のドレスを着ている。
でもやっぱり、この私もかわいい。目立っちゃうなー。これは目立っちゃうなー。えへへ
公爵というだけあって立派な門の奥、木々超えた先に美しい屋敷が見える。
その門にて招待客の確認を門番が行う。
「ロンド様、確認いたしましたのでどうぞお通り下さいませ。」
門番に許可をもらい私たちは奥へ進んでいく。やがて屋敷の前にたどり着く。馬車を降りれば周りにも同じくお祝いに来た貴族の方々がちらほら目に入る。
それに、前回のパーティーと違い私のような子供も多くみられる。
「アシュリー、どうしたの?」
「ごめんなさい。ぼーとしていましたわ。」
「そう?あなたと同じくらいの子もいるし気になっていたのかしら?ふふ、パーティーが始まればお話しする機会もありますわ。さぁ、行きましょうアシュリー」
「えぇ、お母様。」
会場では入り口にいたよりも多くの人が集まっていた。お父様たちも挨拶をしているようだけど私には関係のないこと。呼ばれるまで何をして時間をつぶしましょうか?
それからしばらくして今回の主役であるノワール様が登場された。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。我が息子ノワールも今日で5歳になりました。子供の成長は実に早いもので…」
ノワールの父親である、クロノス・エル・ルチアーニ様の挨拶は長く、私は早々に飽きてしまっていた。そんな私が考えていたこととは、”レジーナであればここに攻め入るときどうやって侵入する”かである。
そうやって時間をつぶしていると少し場の空気が変わった…様に感じたので視線を戻す。
「本日は私の為にお集まりいただきありがとうございます。公爵家の人間として、皆様の見本となれるようこれからも日々精進していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
ノワール様の声を聴いたとき私は何か懐かしいものを感じた。これは……なんだったかしら?嬉しいような寂しいような…。うーん、分からない。
その後もパーティーは続き、特にやることもない私は前回同様中庭へ逃げ出すことにした。
「流石侯爵家ね。私の家の庭より美しいなんてすこし悔しいわ。…あら?」
中庭にでた私はそこで、見覚えのある花々を見つける。美しく咲く花々の中で一層際立って大事に育てられていることわかるその花を私はよく知っている。この花は前世、婚約者であったノエルが好きだった花で、私も好きな花だからだ。
「侯爵様もこの花がお好きなのでしょうね。でもこの花が好きだなんて少し変わっているわね。」
そう、この花はリアリスといい暖かい時期に咲く。赤紫と白色が存在しており、この2色が交互に咲いていると、その見た目はとても美しいものになる。前世はこの花が好きだったノエルに勧められ実際に育てたこともある。そうしているうちに私もリアリスが好きになり、ノエルと少し遠くにお出かけした日には、炎と白炎をだして空中でクルクルと回して遊んだりしていた。
昔のことを思い出したらなんだか懐かしくなり、またノエルが恋しくなった……しかし、この世界にはノエルはいないのでこの胸の苦しみが消えることはないだろう。
それでもこの気持ちが少しは和らぐならと思い、白炎を出せるか試したくなった。
炎は基本赤から朱色で、黒や白といった炎をだすにはかなり技術と才能が必要である為、アシュリーに出来るかどうか不安だった。
しかし前世は出来ていたし、そもそも白炎は趣味でしか使用することはなかったが、よく使っていた魔法だ。趣味として使っていたため他より意識して使っていた分、感覚は鮮明と言っていいほど正確に覚えている。失敗するとは思っていなかった。
その自信を裏付けるように、すんなりと白炎を生み出すことができた。上空に掲げるとほかの人を驚かせてしまう可能性もあり、手のひらより小さいサイズで両手の中でクルクルと回して昔を懐かしんでいた。
「その炎はっ!?」
「っ誰!!」
昔を懐かしんでいた私は背後に人が来ていたことに気づけなかった。これが誘拐犯などの犯罪者であれば大変なことになっていた。自分の不甲斐なさに軽蔑する。
「ぁ、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。えぇと、僕はノワール。ノワール・エル・ルチアーニです。知ってると思うけど」
「えぇ、存じ上げています。ノワール様。私はアシュリー・ラ・ロンドと申します。」
「しかし、君のその手の平にあるものは、炎だよね?」
「えぇ、しかしどうしてこれが炎だと?」
「それはだな…その、笑わないでくれるかい?」
「約束いたしますわ」
「ありがとう。アシュリー嬢は前世というものは知っているかな?私には前世での記憶があって、その記憶では当時婚約者であった女性がよく使っていた炎なんだ。私も彼女もある花が好きでね。それを模した炎を見せてもらっている時はとても楽しいひと時だったんだ。」
ノワールの話で、もしかしてと思うアシュリー。でも人違いかもしれない。こんな奇跡はあり得ないと自分に言い聞かせる。それでも聞かずにはいられない。平静を装い尋ねる。この返答次第では…
「ノワール様、失礼ですがその婚約者様のお名前をうかがっても…?」
「構わないよ。ただこれを両親に話し時にはよくできた妄想だといわれてね…。本当に笑わないでくれよ?」
「えぇ、決しては笑いませんわ。」
(いいから早く言いなさいよ!こっちは心臓ばっくばくなんだからっ!)
もしかしたら!もしかしたら!と思うアシュリーはノワールの出し惜しみする言い方にすこし苛立ちを覚えるものの、表に出さないように平静を保つが限界は近い。
「とても有名な人なんだ。君もきっと知っている。彼女の名はレジーナ・デル・アルジェント。黒炎の魔女なんだ」
「っ!?」
ノワール様はノエルなんだと。奇跡なんてものじゃない。こんなことが起きるなんてと、様々な想いがアシュリーの中で駆け巡る。その嬉しさに、その悔しさに、その驚きに、アシュリーは涙を流した。
「アシュリー嬢?どうして泣いて…。」
「ノ、ノエルなの?本当にノ、エル…なの?」
「っっ!?まさか君はレジーナだというのか!」
「えぇ、えぇ。私も前世の記憶を持っているの。レジーナとしての。こんな、こんな奇跡って。うぅ。ノエル…ごめんね。ごめんね助けられなくて、ごめんね」
「本当にレジーナなんだね…。僕のほうこそ、死んでしまって申し訳ない。」
「もっとはやく気が付いていればきっと助けれたの…。でもまた会えた。あえたよぉ。うぅ…」
出会いは突然というけれどこんな出会いがあるなんて。アシュリーは今日ほど神様に感謝したことはない。
それからしばらくアシュリーは泣き止むことはなかった。
2人はお互いを愛おしい人としてアシュリーが泣き止むまで抱き合っていた。
やがてアシュリーは泣き止み、ノワールと向き合う。至近距離だが前世の記憶がある二人だ。初恋のような空気は流れない。
「ノエル。今度こそどんな災いからも、どんな悪意からもあなたを守るわ。前よりも魔力が溢れているのよ。もう絶対にあなたを殺させたりなんかしないわ。今度こそあなたを守り切ると誓うわ。」
「レジーナ…。前世の戦う力のない私を恨んだものだ。私はレジーナに守ってもらう存在ではなく、守れる様になりたくてね…苦手だった剣を使えるようになったんだ。前世と違って体力もあって体が軽いんだ。魔法のほうは平均くらいだけど、それでも君だけに負担をかけさせないと誓うよ。」
‐そうして二人は誓いの口づけをした‐
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