アシュリー・ラ・ロンド
「赤ちゃんは手がかかるというけど、この子必要な時しか泣かないから少し心配だわ。」
「そうだね。でも必要な時は泣くのだから大丈夫なんじゃないかな。将来は物静かな子になりそうだね。」
「えぇそうね。それなら絵本とか多めに用意しておきましょうか。」
「あぁそれはいい考えだ。今度仕事帰りに選んでくるよ。」
「ふふ、お願いね。」
神聖歴1875年。とあるそれは仲のいい伯爵夫婦は子供を授かった。夫婦は彼女を「アシュリー」と名付けた。お腹が空いた。用を足した。等何かを訴える時以外泣くことのないアシュリーは、問題があるのでは?と夫婦を心配にさせるくらいに大人しかった。
しかし、アシュリーはすくすくと育つ。
‐そして3年が過ぎた‐
(ここは・・・)
アシュリーはいつもより半刻程早く自分のベッドで目を覚ました。
(体が重い…どういうこと?)
アシュリーは体を起こそうとするが、力が入らない。
(手足が短いような…。鏡はないかしら?)
手をついてなんとか体を起こしたアシュリーは鏡を探す。
しかし、3歳児であるアシュリーの部屋にはまだ鏡はない。身の回りの世話は専属のメイドがしているからだ。
鏡はなかったが、ふと自分の手足に視線を向け…
「っ!!」
そして“レジーナ”は気づいた。自分の手足が縮んでいることに。
それと同時にわずかな記憶を取り戻した。自分が、伯爵家の長女”アシュリー・ラ・ロンド”であることを。
3歳までにあるわずかな記憶から”自分”を理解したアシュリーは、レジーナの記憶を探る。
最後にある記憶はノエルの死によって絶望し地下を火の海にしたあたりまで。その先は憶えていない。
(司祭には悪いことをしたわね…。悲しみで理性を失った私に殺されるなんて)
ここはどこで、今はいつなのか。今日からどうやって過ごそうかなど考えていると、いつもの時間になっていてメイドがやってくる。
「お嬢様朝…あら?今日はもう起きていらっしゃるのですね。」
メイドはいつもならまだ眠いとぐずるお嬢様が起きていることに驚く。しかし成長の表れだと思いうれしく思った。それも束の間。お嬢様は反応を示さない。
「お嬢様?もしかして座って眠っていらっしゃるので?」
まさか、あの体制で?とおもいつつアシュリーの正面へ立つメイド。
アシュリーは考え事をしているためにメイドの接近に気づかない。
ーそして意図せず事件は起きたー
「お嬢様?起きてますか?」
「へ…きゃああああああああああっっ!?」
突然目の前に現れたメイドに意表を突かれたアシュリーは、甲高い悲鳴を上げる。
何事か!?と執事や両親。さらにお抱え騎士数名がアシュリーの部屋に駆け込んだ。
アシュリーの悲鳴を聞いて駆け付けた者たちは、「え?本当に何事?」と困惑し、メイドはアシュリーの正面で固まっていて、悲鳴を上げたアシュリーは「あはははは・・・」と苦笑いを浮かべているのだった。
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