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勇者も魔王も要らない世界  作者: はじめアキラ
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<第十六話・生き方の選択>

 アレスタウンを出て、一気に森へと侵入する。

 ナスカの森の奥地へと進めば、もう古城はすぐそこだ。中ボスバトルを挟むことさえなく、一気にラスボスに到達して自分達の旅は終了ということになる。アシュリーも、そこは少々不思議に思っていたようだった。普通に考えるなら、勇者が派遣されてくる魔法学校から遠い場所で隠れたいと思うのが当然であるはずだというのに、と。


――まあ、大体俺には想像がつくんだけどな。


 ジョシュアは目の前に現れたダークスネークを見ながら思う。二匹の紫色の蛇は、長い舌をちろちろと覗かせながら威嚇してくる。ナスカの森のモンスターは、魔法学校のある近辺と比べれば一段二段は上手だ。耐久性もあるし、攻撃力も馬鹿にならない。下手に喰らえば一撃死もありうるモンスターが出没してくる。特に、ダークスネークのような縄張り意識の強いモンスターが多いのも特徴だ。何が面倒かって、縄張りに一歩足を踏み入れただけで攻撃を仕掛けてくるのである。


――ダークスネークは闇属性だ。魔法攻撃こそ殆ど使ってこないが、その牙による攻撃はかなりの脅威。下手を打てば、毒を貰って相当苦しむことになる。


 闇属性のモンスターに、闇魔法を放っても効果は薄い。同属性に対して耐性を持つのは、モンスターも人間も同じなのだから。効果が高いのは反対属性の魔法や属性攻撃だ。つまり、光属性であるアシュリーの攻撃は非常に高い効果を与えることができるというわけである。反面、向こうの闇属性の攻撃もアシュリーには大ダメージになりやすいので、慎重に動く必要はあるのだけれど。


――俺の魔法では、さほど高いダメージは与えられない、が。それ以前に……。


 街を出発する前に、ジョシュアが告げた言葉。




『そうだ。……それが、この世界の裏側の現実だ。お前の理想は立派だが、簡単に叶えられるだなんて夢は見ない方がいい。そいつらを一人二人救ったところで自己満足にしかならない。全員救おうと思ったら……敵は結局、国王と政府そのものになる。そいつらが、この世界の仕組みを決めて、俺達に強いてきたわけだからな』




 綺麗事ばかりを並べようとする彼女に、それでも信念を貫けるのかと問いかけた、言葉。




『それでもお前は、世界を変えるために……全てを賭ける覚悟が、本当にあるのか?』




 そんなもの、容易く持てる筈がない。ジョシュアはそう思っていた。

 確かに、彼女はここ最近で想像以上に多くの現実を知ったのかもしれない。それは貴族として生きてきて、その幸せを当然のように享受してきた今までの彼女を変えるには、十分に足りうるものであったのかもしれなかった。でも。

 彼女の世界は、ジョシュアの世界とは違う。

 いや、ジョシュアの世界でさえ今は――今の時点では、すぐに変えなければならないほど切羽詰ったものではないはずである。

 自分か、誰かが脅かされて初めて人は現実をリアルに思い知り、そこを打破しようと本気で足掻くようになるものだ。アシュリーはそうではない。自分自身が、世界の歪みに飲み込まれている本人ではない。そして、彼女の大切な人が現在進行形で苦しんでいるかといえば、正直そんなこともないのである。

 そんな彼女が、命を賭けて世界を変えなければならない理由は――何処にもないだろう。

 理由がないならば、例え決意してもその信念は脆いもの。貫き通せるほど、固く持ち続けるのはあまりにも困難であるはずで。




『……わかりません。私はまだ、真実の全てを知ったわけではありませんから』




 そんなジョシュアに、彼女は言ったのである。




『ただ、怒りがあるだけです。……目の前にいる貴方を、こんなにも苦しめて追い詰めた世界に対しての。きっと私一人の力では、世界を変えることなんて出来ないんでしょう。もしかしたら、どれほど頑張っても私が寿命で死ぬまで世界は決定的に変わることなどないのかもしれません。……それでも、どれほど無謀でも。最初に誰かが、石を投げる勇気を持たなければ。世界は永久にこのまま、何一つ変わることがないまま……正しく歪んだまま、回り続けることでしょう。それが、私にはどうしても我慢ならなないことなんです。ただ、それだけなんですよ』




 どうして、と思った。

 彼女が本気でそう決意したのだとしたら、そのきっかけを作ったのは確実に自分である。だが、自分と彼女はまともに会話をするようになったことさえ最近だ。お互いそれまでは、むしろ嫌いあっていた仲であるはずである。

 そんな自分のために、どうしてそこまで決意を固めることができる?

 尋ねれば彼女は、少し困ったように笑って、そして。




『それこそ、一番の謎なんですよね。……何ででしょう。旅を始める少し前から、やっと貴方のことが少しずつ見えてきて。思っていたよりずっと冷たくなんかない、優しい人なんだって知ったら……なんていうか、ほっとけなくなっちゃったというか。……貴方がいなければ、私はこれからもきっと間違った正義を信じて、綺麗事しか言わない人間になっていた。貴方が私を変えてくれたんです。その恩返しがしたい。きっと、そういうことなんじゃないでしょうかね』




 何を言っているのやら、こいつは。

 しかも彼女は直後に、ジョシュアに“闇魔法はよっぽどの危機にならないと使用禁止でお願いしますね”と言ってきたのである。お願いしますね、とは言ったがそれは実質命令と大差ないものだった。よほど、前の戦闘で自分が自傷を繰り返して敵を倒したのが腹に据えかねたらしい。


『ジョシュアは回復魔法が得意でしょう?だったら補助魔法も人並み以上に使えるはずです。今後は私の後ろに下がって、回復と補助に徹してください。前衛は私が引き受けます。それで十分、今後も戦っていけるはずです。そもそも、今までは勇者は一人しか選ばれなかったわけで。一人でやりくりしてきたわけで。せっかく二人いるなら、役割分担しっかり分けた方がいいに決まってますし。ね?』


 いくらいけ好かない相手でも、普通の少女より遥かに頑丈だと知っていても。いくらジョシュアとはいえ、お嬢様に盾役になってもらって、安全圏から回復魔法ばかり唱えるのは正直気が進まないことではあったのだが。

 彼女の言う事に、一理あるのも事実ではあるのである。闇魔法を使うため、自力回復を繰り返せるようにと副次的に覚えた回復魔法だったが。基本、どんなパーティであっても白魔道士が必要とされないケースはそうそうない。彼女の方が腕力も体力もあり、剣技も得意であるというのなら。自分が後ろに下がって、適宜サポートに走るのもけして悪い選択ではないのだろう。

 その状況に、ジョシュアのプライドが耐えられるかはまた別問題であるけども。


――……ちっ。余計な気、回しやがって。


 少しでも危なくなったら、闇魔法をぶっぱなしてやるからな――と思いつつ。そこまで啖呵を切るなら見せてもらおうか、とジョシュアは後ろに下がった。


「“Protect”!」


 物理防御力を上げる魔法をアシュリーにかけると同時に、ダークスネークの一体がアシュリーに襲いかかっていた。補助魔法をかけるといっても、一度にかけられる魔法には限りがある。そして、多数の効果を持つ魔法であればあるほど詠唱に時間がかかるのは間違いのないことだ。適宜、どの魔法を最優先でかけていくべきか?実は回復役&補助役というのは常に頭を回して動かなければいけないので、大変と言えば非常に大変なのである。

 大半のモンスターの特徴は、自分もアシュリーもしっかり頭に入っている。なんせ魔法学校の必修科目の一つが“モンスター生物学”だからだ。基本モンスターの名前と容姿、特徴は熟知しなければテストで思い切り転ぶことになる。勇者を目指す者が集う学校なのだから当然と言えば当然か。きちんと覚えておかなければ赤点、最悪留年もさえも有りうる厳しい世界だ。ゆえに、ダークスネークなんて珍しくもなんともないモンスターなど基本中の基本知識として頭に叩き込んであるのである。

 モンスターは、属性がそのまま身体の色に出る事が多い。闇属性は、多くが紫色か黒色と相場が決まっている。そして、ダークスネークは魔力を僅かしか持たない、ほぼほぼ物理特化のモンスター。ならば、魔法防御をかける意味は全く無い。そして、彼らが非常に高い俊敏性を持っていると分かれば、当然こちらも通常の回避が困難になってくるのは必至だ。

 素早さを上げる魔法か、物理防御を上げる魔法か。どちらが優先かを考えて、ジョシュアは後者を取ったといわけだ。アシュリーは長剣や大剣を使うだけあって、動きがそこまで速い戦士ではない。素早さを上げる魔法を使っても、回避力はそこまで飛躍的に上昇しないのが目に見えている。ならば、低い回避力を上げるよりも、確実に防御できるように防御魔法をかけた方が得策だと判断したのだ。


「ギァッ!」


 案の定、アシュリーの頭に噛み付こうとした蛇は防御壁に阻まれて弾かれ、小さな悲鳴を上げる。どれほど速い敵であっても、攻撃を受けた直後はどうしても対応が遅れるというものだ。

 そこに、アシュリーが光をまとった剣の一撃を叩き込む。


「はぁっ!」


 下級魔法の力しか宿さない剣であっても、アシュリーの高い身体能力で振るえば十分に必殺の域だ。ダークスネークの頭が思い切り切り飛ばされて、血飛沫を上げながら宙を舞う。

 それを見た仲間のもう一匹が、鋭く怒りの雄叫びを上げた。だが。


――ダークスネークは縄張り意識も強いが、同じだけ仲間意識も強い。特に、番と決めた存在への執着心は非常に強い……!


 番がやられて、怒り狂ったその瞬間こそ――最大の隙。

 アシュリーは素早く振り返り、その腹に思い切り魔法を叩き込んでいた。


「“Holy-Ray”!」


 弱点属性である光の魔法が、矢のごとく突き刺さりダークスネークを引き裂いていく。哀れなモンスターは穴だらけになり、切ない声を上げながら倒れていった。

 剣を振るった直後に、あの速さで魔法を打てるとは。思っていた以上のアシュリーの実力に驚かされるジョシュアである。なるほど、勇者に選ばれたのは伊達ではないということか。


――だからこそ。……“警戒”もされてるんだろうけどな。


 す、とジョシュアは目を細めて――自分達が歩いてきた道を振り返った。

 背中に感じてきた、幾つもの視線。

 果たしてアシュリーは、何処まで気づいているだろうか。


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