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003日本の神々

0003日本の神々

 

 

 時は流れて、十月末日の事である。

 出雲に八百万の神々が集まっていた。

  

 神無月、すなわち十月。

 旧暦に合わせて集まった神々は少し騒がしかった。

  

 神無月の間、神々、特に各地の土地神は出雲に集まり、縁結びの話し合いをするのだ。

 主に自分の地域の縁結びの話を他所の土地神や近所の土地神と話し合う。

 または、結ばれた縁を各神々に報告する。

 これによって縁が結ばれたり、結ばれた縁に神の承認が与えられたりするのだが……


「神社で式挙げる若者減っとるしなぁ……」

「披露宴を結婚式と勘違いしとる奴が多すぎるんや」

「同棲とか、デキ婚とかややこしいわ」

「日本にあるよその教会で挙げている式て、あっちの神様の管轄になるんか?」

「国際結婚も調整しんどい」


 などなどと神々がボヤく程、仕事が減り、そして難しくなっていた。

 

 そんな中、今年は別の話し合いもある。

 

「靖国から陳情上がってきたて。アマテラス姐さんびっくりしてはったで」

「これホンマかいな?」


 宇宙人との接触は八百万の神々にとっても驚きの展開だった。

 

「世界規模の問題だろ? 他所の神様とかどうしてるんだ?」

「それがな、宇宙人めっちゃアホらしいねん。他所だと酷い目に会うかもわからんて」

「今んとこうちの子らが頑張ってるわ」

「靖国の子らもえらいなぁ。子孫のためにアマテラス姐さんとこに陳情て」

「ちゃうねん。最初スサノオ兄さんとこに行ったらしいんやが、宇宙人と戦争するなら手を貸す言われて姐さんとこ行ったらしいねん」

「難儀やな。ほなら、兄さんこの事知っとるいうことか?」


 スサノオは現在出雲を根城にしている。

 しかし、会議には出てこない。


「兄さん気まぐれやからなぁ」

 スサノオは子供っぽい所があり、その時々の気分で暴れん坊になったりするが、基本的に人間には優しい。

 上の者には噛み付くが、下の者には厳しくも優しい兄貴分なのである。

 上の神や兄にも結構嫌な目にあっていて、気が緩むと暴れる事があった。しかしそれを哀しんでアマテラスが岩戸に隠れてしまったのはショックだったらしく、現在は自制心を大事にしている。

 絶賛引き篭もり中だった。

 とはいえ、まだまだ危険視されており、外国の神々の中にはスサノオより歳のいった神が結構いるため、なるべく国から出さないようにされている。外交問題になってしまう。

 そんなスサノオだが、さすがに宇宙人がどうのこうのという事に対してはどう反応したものかわからず、とりあえず戦になるなら力を貸すとだけ答えた。

 そもそも陳情の内容がぼんやりしていた。

 

「子らに力を貸して欲しいって言われてもな……」


 現在、ゲヒルンフレームを開発中の者達と、宇宙人の対応に追われている一部の者達に対して加護を与えて欲しいというものだった。

 

「神の加護はもうおいそれと使えるものではなくなってしまっておるし」


 いろんな所から横槍が入ったり文句言われたりするのだ。

 人々の交流で神々の社会も色々面倒になっていた。

 

「しかし、やらんと日本…… 地球が滅びるかもしれんというぞ」

「なんだったか? ブルック?ポーラ?」

「誰やねん」

「ブラックホールですよ。あの黒いやつです。星が死んだ時たまにできるやつ」

「ああ、あの黒い玉か」

「そのデカイのが地球にぶつかってしまうそうです」

「あんなもん、ぽーんって放ったらええやん。ぽーんって」

「子らにはまだその様な力はありません」

「難儀やなぁ」

「はあ? うちの子らまだ数に触れんかったんかい」

「せやから算だけはしっかりせーよ言うとったのに! 道真ちゃん来とるか? いっちょこましたるわ!」

「落ち着けや! 道真ちゃん文系やし!」


「ほいで、そのブラックホールはいつ来るん?」

「およそ1000年後らしいです」

「すぐやないか!」


「地球がなくなったら儂らどうなるんじゃろか」

「死ぬんじゃないですか? 上の方々はともかく、私達は人間がいなくなると存在できない者が多いですよ?」

「死ぬ…… あまりピンとこないねぇ」


 いつも誰かが喋っている会議場が、ふと、静かになった。

 自分達にも関わる事だと分かった。

 しかし、やはり加護を与えたものかどうか悩みどころであった。

 

 そんな中、一柱の神が声を出す。

「私は、力を貸したいと思います」

 小さな猫の姿をした神だった。

 彼女は小さな村の山道の神である。

「私の社を毎日気にかけているキクちゃんという子がおりまして。孫と一緒に時々掃除してくれたりお供えしてくれたりするんですよ。その子孫が宇宙から来る得体の知れないもののせいで死ぬかもしれないというのはちょっと……」


 子猫神に続いて、声が上がる。

 今度は仔牛の姿をした神だった。

 彼は家族経営の小さな牧場の塚に祀られた神である。

 生き物を育て、殺し、売る。その業に許しを与えるために祀られた神であった。

「それなら、僕も賛成します。僕自身は畜産どうかと思うんですけどね、家族揃って手を合わせて、小さな子供達は泣いてくれるんですよ。その子孫が苦しんで死ぬというのはちょっと嫌ですよ」


「若い連中はまだ感傷的なのが多いんかね」

 という声もあるが、特に反対したりする者もいなかった。

 

「みなさん……」

 小さくしわがれた、しかし、重みのある声が響いた。

 皆の視線を集めたその声の主は、痩せこけた小さな老人の姿をしている。

 厠神かわやがみ。

 すなわち、トイレの神様である。

 

 彼は皆がトイレの神になるのを嫌がる中、自らトイレの神様になった。

 神々の世界で尊敬されている神である。

 縁結びと関係ないこの会議に出席しており、いつも物静かな厠神が、口を開いたのだ。

 神々はじっと、厠神の続く言葉をまった。

 

「ブラックホールですか…… 加護については私が責任を取りましょう。もしもダメで、ブラックホールが来たなら、私がなんとかしますから」


 しわがれた声で、シワだらけの顔でにっこりと笑顔を作る。


 厠神は冗談を言わない。

 

 本気でやるつもりだ。


 神々がざわついた。

 

 厠神は片手で小便を受け、もう片手で大便を受ける。

 もしも本来入ってるはずの無い、ゴミなどを捨てられると、口で受け止める。

 それによってケガレを受けて具合を悪くするというのに、本人は職務を全うしようと全力で受け止めてしまうのだ。

 ここにいる本体の分霊達は各地で今も仕事を続けている。夜に起きている子らが多くなり、24時間働いている神としても名が知れていた。

 それを知っている子らはトイレを大事に使ってくれるが、このご時世、知らぬ子らも多く、ゴミや毒物を受け止めているせいで最近厠神の調子は良く無い。

 

 だというのに、今度はブラックホールを受け止めようというのだ。


 超質量の物体である。

 胃がもたれるのは必至。


 両手の戒めを解き、神としての力を振るうなら簡単にどうとでもできるはずだが、厠神は絶対にそんな事はしない。

 

 仕事熱心な神の言葉に、他の神々は奮い立つしかなかった。

 

「厠さんにやらせるわけにはいかねぇ! 俺にまかせろ!」

「待て待て、お前じゃ格が合わん。私がやろう」

「落ち着け! ここは儂に任せてもらおうか!」


 かくして、誰が加護を与えるかで神々は騒ぎ始めた。

 

「おい! 尻洗い! いるか? 尻洗いー!」

「ちょっとぉー! その呼び方やめて下さいよー」


 尻洗いと呼ばれて出て来たのは、中性的な美少年だった。

 彼は尻洗い。水洗浄便座すなわち、ウォシュレットの神である。

 

「お前は外国でも顔が効くからな。もしも他所にバレたらお前がまず盾になれ」

「ええぇー…… そんなぁー」

 ウォシュレットの神が肩を落とすと、

「てめぇは他所の子らの、特に有名な子らの尻子玉握ってんだ。いざとなったら…… わかるな?」

「外交問題になっちゃいますよぉー」

 ウォシュレットの神は半泣きであった。

「お前さんは厠さまのお陰で成れたのだ。厠さまのためだと思ってきばりなさい」

「うう…… やりますよぉ…… やりますけどぉ……」


 古き神々には乱暴な神も多く、新参者のもやしっ子であるウォシュレットの神は、古き神々をちょっと怖がっていた。

 とはいえ、自分の上である厠神のためになるとなれば、やはり奮い立つものがある。

「あー、もう。わかりましたよー! いざとなったらやってやりますよ!」

 振り上げた拳から、ぶしゅっ、水を飛ばす。

 人の尻などザックリいく勢いである。

「おうよ! その意気だぜ!」

 

 

 出雲に集まった神々は力を合わせ、久々に子らへ加護を与える事を決定した。


 なお、ここから一年間、婚姻届の届け出数が例年の半分以下となり、マスコミが騒ぐ事になる。


 神々は神無月に出雲に集まる本来の目的を忘れて、厠神のために頑張ろうと誓い合った。

 

 

 

 

 

 

 




 

 □

 

 

 


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