002職人達
0002職人達
「これイタズラとちゃいますか?」
「……多分イタズラちゃうで……」
大阪の小さな町工場だった。
聞いたことのない会社からの発注があったのだが、その内容が明らかにおかしかった。
「これ、ゲヒルンフレームて、ガン◯ムですやん。完全にイタズラですよ」
「ガン◯ムいうたら、あのアニメのか?」
工場長はガン◯ム世代ではなかった。
「でもな、やっぱイタズラちゃうで……これは多分やらんとアカンやつや」
技術力のある小さな町工場には、色んな仕事が入ってくる。
9割は普通の部品発注。もちろん、高い精度での注文だが。
そして、たまにこういう注文が入るのだ。
どこの誰も分からない所からの発注である。
それは、どこぞの外国であったり、非合法団体であったり、様々である。
そして今回は、
「これは多分お国からのもんや……」
工場長は感覚的にそういうものが分かる様になっていた。
発注してきた会社は聞いたことのない会社だが、これを持ってきたスーツの男の佇まい、そして、異様な金払いの良さ、何か巨大なものが蠢いている感覚。
むしろ、こうやって微妙に分からせてくる圧力の掛け方が、明確にそれを示していた。
「国からて……」
まだ若い彼は、いまいち信用できない様だった。
二人は応接室に戻った。
そこには「ちょっとうちのと相談してきます」と断って退室した時と同じ姿勢のまま、黒いスーツの男が座っている。
工場長は短く「受けます」と応えた。
スーツの男は1つ頷いて、支度金がみっちり詰まったスーツケースを置いて去っていった。
「工場長、これどうするんですか? 無理ですよ」
「無理なら無理でいい言うとったやないか。金だけ貰って何もしないわけにもいかんし。とりあえずやってみようや」
工場長の言葉に、さっきまで眉を歪めていた若い男はニヤリと笑った。
騙されているかもしれない。そもそも実現不可能である。
しかし、彼もまたガン◯ムが好きなのだ。お金をもらって好き放題やられるなら、こんなに楽しい事は無い。
「とりあえず出よか」
「和歌山の名産ってなんでしたっけ?」
渡された書類には、他の提携工場が書かれていた。
力を合わせてやれ、という事らしい。これは珍しい事であった。
・・・・・
「これ河村さんは信ぢはったんだすか」
「これは、間違いなく本気のもんですよ」
大阪から来た河村工場長達を迎えた横縞鉄鋼の上田社長はため息を吐いた。
「確かに、持って来た人みたら本物やと思いますけど。しかし、これうちには無理ですよ」
河村の仕事は、高精度でのフレーム製作だった。
そして、上田の仕事は、その素材を作る事。
かかる問題は上田の方が難しかった。
「うちのもんに聞きましたけど、これアニメのもんや言うやないですか。なんでも細かいコンピュータを金属に溶かし込んでるいう…… そんなもん無理ちゃいますか?」
「無理なら無理でええ言うとったやないですか。多分これ「無理」やいうデータ欲しがってるんやと思いますよ」
上田工場長もそういうフシがあると思っていたので、なんとなく納得してしまう。
無理なものを無理だと証明しろという仕事はなかなか受ける機会が無い。
二人の胸の内には、何やらモヤモヤしたものが燻っていた。
「ほなら、とりあえずやってみましょか」
上田が少しさっぱりした表情で言った。
・・・・・
廃棄パソコンをスクラップ場から大量に買い取ってきて、分解した。
基盤を溶鉱炉に投げ込むと、ぽふっ、と間抜けな音を立てて燃えて溶けた。
「燃えましたね」
「せやな」
次に、脳波玩具を幾つか買ってきた。
脳波を感知してボールを浮かせたり、脳波を感知して猫耳が動くアレである。
脳波を増幅する装置と聞いて、思い付いたのがこれだった。
溶鉱炉に投げ込まれたそれらは、やはり燃え尽きた。
猫耳に火が付く音は、なんとなく「ニャン」と聞こえた。ちょっと可哀想だった。
「燃えましたね」
「せやな」
一応、記録として映像も撮っている。
これで、コンピュータチップを金属に溶かし入れるなんて無理だと分かるだろう。
だが、
「そもそも、ゲヒルンフレームってなんやろ。上田さん知ってますか?」
「いえ、私も若いのから聞いただけでして」
かくして、上田と河村、そして数人の職人達は、「逆襲のロット(伏字)」と「ガン◯ムUC」の上映会を始めた。
その頃、総理官邸の一室でも上映会が行われていた。
・・・・・
異星人との接触に居合わせたSPの私用パソコンをプロジェクタに繋ぎ、ちょうど「ガン◯ムUC」を観終わったところだ。
「逆襲のロット」は「やっこさん、あの展示してるもんからUCを知って、そこからこっちに遡ったんだろうぜ」と麻宗に勧められて先に観た。
阿部総理は困惑していた。
面白いアニメーション作品ではあったし、逆襲のロットの方は主人公や登場人物が自分の知っているキャラクターでちょっとワクワクした。UCについても現在のアニメーションのレベルはここまで凄かったのかと関心した。
しかし、それはそれとして、
「麻宗さん。あれ、小惑星どうやって押し返してたんですか?」
「そういう力場が発生するらしいぜ?」
「ビーム砲を防御していたんですが……」
「そういう力場が発生するらしいぜ?」
そして二人とも黙ってしまった。
「これは…… アニメですね……」
「……そうだな」
また、二人とも黙ってしまった。
壁際に突っ立っているSPの内、二人は一生懸命笑いを抑えている。
「なぁ、思ったんだけどよ」
麻宗がまず口を開いた。
「この、にゅーたいぷとか、強化人間とか、そういうのをまず用意しねぇといけないんじゃねぇか?」
SPの一人が盛大に吹いた。
激しく咳き込んでむせるSPを放置して、
「うちの超能力者で、あんだけできるやつっていたか?」
麻宗の言葉に、
「我が国の保有するESP能力者では無理です。せいぜいが板壁の向こうの人間を当てられるとか、テレパシーで目の前の人をちょっと気持ち悪くさせる程度で、あの距離で鉄の塊のロボットの中にいる人間を特定したり、精神波での会話やイメージを送るなんてできません。まして、あの威力のテレキネシスなんて……」
「ゲヒルンフレーム作って増幅すりゃなんとかなるかもしれねぇよ?」
「しかしそれはアニメだからで実際にゲヒルンフレームなんて……」
うなだれる阿部総理。
もちろん最初からできるとは思っていない。
だが、麻宗とのこの会話から、異星人にこのことを説明する難しさを感じて、気分が重くなった。
そんな阿部総理に、麻宗は楽しそうな声で言った。
「ま、もうスタートしちまってるんだから。とりあえず結果が出るまではやってやろうぜ」
「……そうですね」
やはり思惑が違う二人は、それぞれの政務に戻る。
上映会、会議のスケジュールはなんとか確保してある。
麻宗は次の上映会を楽しみに、阿部総理は胃の痛みを感じながら総理官邸を出ていった。
・・・・・
二人の工場長、社長、そして職人達を交えた上映会は終わった。
皆んな、時折涙を流しながら作品を楽しんだ。
「これ、無理じゃないですか?」
上田が一言つぶやいた。
「せやな……」
河村もそれに応える。
無理なら事を証明するための注文だと二人とも分かっていたが、こうやってアニメを観ても、なんだか胸のモヤモヤしたものが取れない。
「溶かし入れんでも、脳波がちゃんと通る仕組みのあるフレームを作って、それに脳波を増幅したり脳波で動くコンピュータチップを入れればいいんちゃいます?」
「せやな」
脳波はいわゆる電気信号である。つまり、電気信号を増幅すれば良い。
そう考えると、二人ともできそうな気がしてた。
はじめちょろちょろと始まった話だが、若い職人も交えて、どうやってゲヒルンフレームを作るかの話になっていた。
もちろん劇中で登場するものは作れないだろうが、脳波で操れるロボット、というのが職人達の心を刺激した。
「俺の同窓生が大学残って筋電義肢の開発してます。ちょっと連絡してみますか」
「ちょい待ち。発注元に確認してからや。勝手に他所に漏らしたら家族ごとドナドナやで」
なんだかんだと話が進んでいく。
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