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世界を旅した少女の話  作者: 空猫このは
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第20話「旅人少女と猫族の少女」


結局、宿は割高な所を取るはめになった。

ケルト帝国から、半日馬車で移動すれば付くという立地を得ているヴェデルティア王国だ。確かに安い宿はあれど既に満室。結局国営のお高い宿を取るしか方法はないと言った状況だった。


部屋の一番グレードを低くし、サービスを全て断る事で、なんとか泊まれるレベルだ。

次はもう来ないと心に誓う。


ため息をつきつつも、どうにか宿を確保したシャルルは、出店がある方へ足を運ぶ。

色々買った後だ。残金はまたまた心許ない。


国営のお高い宿には、一応ご飯を食べれるレストランが存在するが、ドレスコート必須。

しかも値段が書かれておらず、総額いくらかかるのか全くもって未知数だった。


当然節約のため、夕飯探しに屋台街に来たのは良いものの、時間が遅くなってしまったために、もう店仕舞いを始めているお店が多かった。


「はぁ...順序が逆だったなぁ...先にやっぱり宿よ宿。相も変わらず成長しないわね、私も」


そんな事を呟きながら、シャルルはパンの屋台があるのを見付けた。最大半額を割引!と書かれた札が目に入る。


まだ灯りは付いている。しかもまだ店員さんがいるっぽい?!店が閉まる前に、早く行かなきゃと小走りで店前まで走った。


「あの!パンが欲しいんですけど!」


滑り込みセーフ...なのだろうか。

屋台の店員さんは、少しびっくりした様子でシャルルを見た。


「おぉ、びっくりしたなぁ。もう店じまいを始めようと思ってた所だ。それで?何にするんだ?」


ケースに並ぶパンを覘くと、然程美味しそ、うなパンは並んでいない。コッペパンや食パンなど、少し味気ないパンばかりだった。


「取り敢えず、コッペパン二つ頂戴?」


「なんだ、それだけで良いのか?見たところまだ食べ盛りだろう、どうせ店仕舞いだ。これも持って行きな」


袋の中に、余っていたコッペパンを三つほど追加で入れてもらえた。どうやら買い物運は良いようで、グラシアの実しかりパンしかり。オマケを入れて貰える事が多い。


「ありがとうおじさん!朝ご飯もなんとかなりそうだわ」


「こんな時間に買いに来る奴は、大抵金に困ってる奴か変人だからな。でもまぁ困ったときはお互い様だ」


「...あの___」

シャルルがお金を支払おうとした時だ。シャルルの隣から声が聞こえた。しかし隣を見ても誰も居ない。


「あ、あの...私にもパンを売って下さい」


そう。シャルルの隣には小さな子供が居たのだ。フードを深く被った子供は、小銭を手渡そうとする。しかし手が届かないのか背伸びをして渡そうとしていた。


「ん、おじさん。子供がパンを売ってくれって__。」


「あぁ?子供だと?こんな時間だぜ?」


店員がシャルルにパンを渡し、お金を受け取ると、カウンター越しから子供の姿を見て、表情を変えた。この時間に子供がパンを買いに来るのが不思議なのかなと、キョトンとした表情でシャルルは見る。


「わりーが、お前に売るパンはねーよ。さっさと帰んな」


「え、ちょっとちょっと。まだパンも余ってるんだし売ってあげても__。」


「そうはいかねぇな!こいつの正体は_!」

店員が子供の被っていたフードを乱暴に剥がす。するとボロボロの服を着た小さな女の子だった。しかしただの子供と違うところをあげるとすれば__。


「け、ケモ耳?しかも尻尾まで付いてる!」


そう。この少女は人間では無く、猫族のビーストだったのだ。人通りの多い中で、正体を曝け出された少女は、必死にフードを取り戻そうとジャンプしていた。その様子を見て、シャルルは思う。


何だこの可愛い生き物はと__。


しかし店員の態度は変わらずだった。睨みつけるように少女を見ている。シャルルからしてみれば不思議な光景だ。こんな可愛い子なのだ。パンの一つや二つ売ってあげるべき。いや無料であげても良いのでは?と心の中で呟いた。


「___そう。こいつはビーストだよ。こいつにパンを売らねぇ理由が分かったろ。ほらもう店仕舞いだ。帰った帰った!」


小さなビーストの女の子は、怯えながら周りを見渡す。周りからヒソヒソ話す人が沢山居る。少女は更に怯えた様子だった。そして店員に乱暴に投げつけられたフードを被り直すと、そそくさと走って逃げてしまった。


「もう、そんな言い方しなくても。それにフードだって投げつけなくたって良いじゃない。...あの子が可哀想でしょ?まだ小さな子供だよ?」と店員に話すのだが、店員の睨む表情は、シャルルに向けられた。


「お前、ビーストの味方するってのか?!はぁー全く。とんでもねぇ奴にパンを売っちまったもんだぜ。」


「えっ?それってどういう意味?」


「お前さん、何処の田舎から出て来やがったんだ。ビーストは汚らわしい劣等種族、しかも奴は猫族だぞ?!それが何を意味するか分からねーのか?」


「なっ!田舎娘なのは認めるけど、そんな酷い言い方しなくても良いじゃないの!可哀想じゃない。まだあんなに小さいのに!」


「...分かったもういい。何にも知らねえ田舎娘相手に何言ったって無駄なのはよく分かった。....さっきのは聞かなかったことにしてやるから早く帰りな。まったく...どうして夜に来る客は変人が多いんだ...」


ぶつぶつと言いながら、店員はカウンターの奥へと消えてしまった。シャルルはと言うと、腑に落ちない気持ちが膨れ上がっている。姿を消した店員に向かってべーと舌を出してシャルルは周りを見渡した。あのビーストの少女を探すも、見当たらない。


「はぁ...あの子かなり痩せてたもんね...」


シャルルは自然とあの少女を探し始めたのだった。



_______・・・・。。____


路地裏や空き地を探して回り、ようやく猫族の少女を見付けたのは探し始めて数時間が過ぎた頃だった。空き地にあるドラム缶の中で、小さく身を丸めながらボロボロの毛布をかぶり姿を隠していたのだ。まぁ尻尾が毛布から出てしまっていたために、見付けられたようなものなのだが...。


シャルルは、ドラム缶から覘きながら猫族の少女に声を掛けた。


「やっと見付けた...ねぇ、大丈夫?」


声を掛けると、猫族の少女はビクリと身体が跳ねた。毛布からチラリと顔を出しシャルルの姿を見る。そしてまた毛布にくるまってしまった。


「...そんな怯えなくても。私は何もしないってば...」


「....」


「私パン持ってきたの。一緒に食べよ?」


またチラリと毛布から顔を出した。じーっとシャルルの顔を見詰める。シャルルは変わらず笑顔のまま、少女を見詰め返す。すると少し警戒を解いたのか、ゆっくり毛布から身体をだしドラム缶から出て来た。


その容姿は、人とそんなに変わりはないようにも見えたが、猫耳が付いている所と尻尾がある所をみれば、やはり人とは違うんだと改めてシャルルは認識した。ゆっくり手を伸ばし、頭を撫でようとすると、少女はまたビクリと体を跳ねさせ怯えた表情でシャルルを見る。


そして小さな声で言った。


「....ぶ、撲たないで...ごめんなさい...ごめんなさい...」


その言葉を聞いて、シャルルはもう1度少女の身体を見た。ボロボロの服の隙間から、痣が有るのが見える。よく見ると腕にも痣が残っていた。こんな可愛い子になんて事を...。



「....大丈夫、そんなに怯えないで?私は絶対あなたを傷付けたりしないから...。」



手を広げて、こっちにおいでと少女に語りかけると、怯えた表情を浮かべてはいたが此方に近付いてくると、シャルルの腕の中に収まった。シャルルは弱々しい少女をゆっくり抱き締めると、頭を撫でる。



「...大変だったね...もう大丈夫だから...」



詳しい事情はシャルルには分からない。

でもこの小さな少女が、壮絶な体験と痛みを伴っていた事は分かる。


「にゃぅ...うにゃぁぁ...」


猫族の少女は泣いた。


今まで痛みと苦しみしか受けてこなかった少女が初めての温もりと優しさに触れたのだ。毛布の温もり以上の、シャルルの優しさと温もりに、少女は安堵した。


シャルルは小さな少女を抱き締めながら思う。たとえビーストと呼ばれても、劣等種族だと言われても、この子は一人の女の子なのだ。小さな子供に、人もビーストも関係ないじゃ無いかと。


「...辛かったね...」


「....痛かったの...辛かったの....うにゃぁぁ...」


ゆっくりと頭を撫でながら背中を摩る。

猫族の少女は、母親に慰められる子供のように、シャルルの胸の中で今まで辛かったと小さく訴えていた。


シャルルは、小さな猫族の少女が泣き止むまで、抱き締めながらあやし続けるのだった。





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