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世界を旅した少女の話  作者: 空猫このは
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第1話「始まりの森」

赤い帽子に赤いコート、そして腰には小さな小瓶をぶら下げ、小さな皮の鞄を背負った青い瞳をもつ一人の少女の姿があった。一応ではあるが、腰には剣が装備してある。



「確かこの当たりだったような...」


と、小さく呟きながら木の根元を見渡しながら歩いている。手に持っていた羊皮紙を開き、捜し物である薬草を確認すると、また探し始める。


そう。少女は今依頼を受けているのだ。

依頼とはいえ、そんな大層な物ではなく。少女の師匠である自称伝説の旅人からのお遣い、といった方が良いのかもしれない。



__全ての課題、もといワシの依頼を全て終わったら、この飛行艇チケットをやろう。



と言う口約束の元なのだが。そんな口約束の依頼を必死にこなそうと、少女は必死に薬草を探していた。一応ではあるが、これが最後の課題...らしい。



「確かにこの当たりなんだけど___」

と少女が立ち上がろうとした時、何処からか悲鳴が響き渡る。咄嗟に悲鳴が聞こえた方へ振り返ると、その方向へと少女は走り出した。


森が開けた場所に出ると、魔物に襲われそうになっている少年が一人。腰を抜かして動けなくなっているようだ。


__旅人たる者、冷静であれ。

と言う自称伝説の旅人の助言は呆気なく頭から消えていて、少女は剣を引き抜き一気に魔物へと距離を詰める


「はぁぁぁ!」

気合いの一撃...なのだが魔物は一瞬だけ怯むだけで、倒し切れてはいない。踏み込みが足りないのか、太刀筋が悪いのか。



そんな事はさておき、一時的に魔物のターゲットは少女に変わった。


「大丈夫?怪我はない?」


少年は助けが来たと安堵したのか、ゆっくり立ち上がると、「だ、大丈夫...」と小声で返した。それでも足は震えている。襲われる寸前だったのだ。無理もない。


不意打ちにより、蹌踉けていた魔物が、また体制を立て直して威嚇の咆哮を森へ響かせた。少女は剣を構え直す。


「じゃあ少し離れてて。」


その言葉に少年は木の陰に隠れ、魔物と相対する少女を見守る。少年には、今目の前で戦う少女はヒーローに見えているだろう


「うーん...どうも剣術は苦手なんだけど...まぁ仕方ないかぁ...」


小声で呟く少女は、ヒーローには程遠く、苦笑を浮かべた。その束の間、魔物からの先制攻撃が始まった。身構えていたお陰か、なんとか剣で攻撃を受け流す。


体制は悪いが、それは魔物も同じだ。

受け流した攻撃の反動を利用して体をひねらせ、カウンターを魔物の胴体へと打ち込むと、魔物を見事引き裂く。


その一撃が決め手となり、パラパラと音を立てながら、魔物は崩れ去ると小さな結晶を落として消えてしまった。


戦闘終了、報酬は小さな結晶の欠片である。

人前での戦闘に勝利して、嬉しそうにしながら剣を鞘へと直すと帽子をかぶりなおす。にやけ顔を少年には見せないように。


「うわぁー、凄い!魔物を倒しちゃった!」

少年は目を輝かせて走り寄ると少女に抱き着いてきた。


「私にかかれば楽勝よ!」

と胸をはり、得意気な笑顔を浮かべた。少年の頭を撫でると、「もう大丈夫よ」と優しく微笑みながら告げた。


少女は先ほど倒した魔物の結晶を拾い上げる。それを小さな小瓶に仕舞う。


「ねぇ、お姉ちゃんの名前は?」

少年の問いに、にっこりスマイルとともに名を告げた。


「私の名前はシャルロット!気軽にシャルルって読んでね__!」





始まりの森。

それは旅人達が、旅に出る為の所謂訓練所。そんな場所の魔物位は、勝てないと旅にすら出られないのだが...。



旅人見習いシャルルの旅は、まだまだ小さい旅だ。



________________○______○___。


魔物を撃退し、見事少年を救い出したのだが、肝心の薬草は見つからない。その現実から目を背けるように、シャルルと少年は森の中を散策していた。一応、少年の護衛としてだが。


旅人たるもの、困った人は助けるべし__。


と言う旅人としての極意を守っていることにはなる。というシャルルの思惑があった。その極意は旅をしていく上では必要不可欠になる。シャルルは人を守る事が初めての経験だったために、気合いも入る。


だが始まりの森は平和だ。魔物は居るには居るが、殆ど姿は見せない。そんな平和な森を雑談しながら二人で歩く。シャルルは素朴な疑問を少年に問いかけた。


「そういえばだけど、なんでこんな場所に来たの?ここは村からも街からも、かなり離れてると思うんだけど」


少年は少し寂しそうな顔を浮かべながら、問いに答える。

「この森にある薬草を探しに来たんだ。うちのお母さん、病気だから...。この森の何処かにある薬草があれば治せるかもって、お医者さんも言ってたんだ、だから...」


「一人でここまで探しに来たと。なるほどねぇ...」


シャルルは少年の言葉に少し困惑していた。捜し物が同じと言うこと。しかもこちらの方が、事態は深刻だと言うこと。


旅人見習いとはいえ、今目の前に困っている人が居る。それを救わずして何が旅人か。

シャルルの心の葛藤は、ものの数分で解決していた。


コートのポケットから羊皮紙を取り出すと、少年み見えるよう屈みながら見せる。


「もしかして、探してる薬草ってこれのことかな?」


「そう!それだよシャルルお姉ちゃん!この図鑑に載ってたやつと同じ!」

そう言うと、少年は図鑑を取り出しシャルルに見せる。


「僕、字があんまり読めないんだ。だから始まりの森って事しか分からなくて...。」


シャルルは図鑑を手に取ると、探していた薬草のページに書かれているであろう自生している場所の項目に目を通した。


「はぁー...どおりで見つからない筈だよー...!師匠も酷い!何日も何日も探し続けたのに...!!」


そこに書かれていた場所は、なんと森ではなかったのだ。始まりの森の一番奥にある洞窟の最深部だった。シャルルの師匠である自称伝説の旅人は、シャルルに図鑑などのものは一切渡していなかったのだ。


旅人たるもの。己の力で知識を深めるべし___。



に乗っ取った物なのだろう。しかしこれはあまりにも酷いとシャルルの怒りは燃え上がっていく。


少年はキョトンとしながら、一人騒ぎ喚くシャルルを見ていた。少年に見られていると分かると、あっと声を漏らし、少し顔を赤らめ恥ずかしそうにしながらシャルルは一言お礼を告げて少年に図鑑を返した。


「薬草の生えてる場所が分かったけど...うーん...君を連れて行くのは流石に危ないかなぁ...」


少年はまだ子供だ。洞窟へ行くにはまだ危なすぎる。始まりの森にある洞窟は魔物の巣窟としても有名で、うっかり迷い込んでしまえばすぐ餌食となってしまう。平和なのは、あくまでも森の中だけだ。



かといって此処に置いていく訳にもいかない。数が少ないとはいえ、また魔物に襲われる可能性は十分にある。


「シャルルお姉ちゃん...?」

難しい顔をしながら考え込むシャルルのコートを、少年は引っ張り話しかけた。それはそうだ。少年からしてみれば、今まで笑顔で話していたのに、急に黙り込んで難しい顔をしていては不安にもなる。


「あぁ、ごめんね?それじゃあ行こっか。」


「う、うん」

シャルルは少年の手を取ると、ゆっくりと歩き出した。洞窟までの道は、さほど離れてはいない。それまでに少年の保護をどうしたものかと、シャルルは頭を働かせる。




「___あ!そうだ!女神の加護があるんだった!」


洞窟の前に着いた時、シャルルはやっと思い出せた事があった。洞窟やダンジョンの前に、必ず女神の加護と呼ばれる魔法石があるのだ。


この魔法石を起動すると、洞窟やダンジョンと呼ばれる危険な場所の入り口周りは一時的にセーフティーエリアにする事が出来る。結界のような物で、一時的に魔物から身を守る事が出来るのだ。ダンジョンの攻略前や攻略した後、冒険者達がキャンプする時等に用意られる。



数日間。

薬草を探しに探し続けていたせいで、基礎知識が抜けてしまっていたようだ。


シャルルは女神の加護の前に立つと、膝をついて祈りを捧げる。するとゆっくりと魔法石はゆっくりと白く輝き、当たりを包み込むように結界を張ってゆく。


魔法石は、まるで女神が舞い降りたかのように、白く美しく光り輝いている。少年は初めて見る光景に、歓声を上げていた。


シャルルは祈りを終えて立ち上がると、少年を見て微笑みながら言った。


「ここから先は、私一人で行くから待ってて。君にはまだこの洞窟は危ないからさ...私が薬草を採ってくる」


少年はその言葉に少し不安そうに答える。

「う、うん...。大丈夫...?この洞窟って、危ない場所なんじゃ..」


シャルルは心配させまいと、胸を張り腰に手を当てて微笑んで見せた。大して大きくも無い胸なのだが__。


「大丈夫大丈夫!さくっと見つけてくるから!


「うん...でもやっぱり心配だよ...。」


「うーん、困ったなぁ...。そうだ!そんなに私の事が心配ならこれを預けておくね?」


シャルルは腰につけていた小瓶を一つ手に取ると少年に手渡した。中には虹色に輝く砂が入っている。


「それね、私の一番大切な物なの。薬草を採取したら、必ず取りに戻るからそれまで預かってて?」


少年はまだ不安そうにしていたが、大切なものを預かると言う使命を受けて頷いた。シャルルは最後まで不安にさせまいと、手を振りながら洞窟へと足を踏み入れてゆく。少年はシャルルの姿が見えなくなるまで見守っていた。



___その手に虹の砂の入った小瓶をしっかり握りしめて。




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