レナの燻製肉スープと精霊
「私、馬車は操縦出来ないわよ。」
「俺の田舎の学校では、獣人は馬に触らしてもらえませんでした。」
なんだと。
「おい二人とも御者台に座れ。
教えるからさっさと覚えろ。」
「えー、私も馬車の操縦するの?」
「返事〜。」
「イエス、フレズ。」
「そういえばブルーノの村まで何日かかるんだ。」
「15日くらいです。」
「片道1週間くらいか、結構遠いな。」
「いえ、片道15日です。」
「あっ、うん。知ってたよ、きっと知ってた…。」
やばい、思ったより遠かった。
6時間後街道沿いに小屋が見えてきた。
「あっ、今日はあそこで泊まりです。」
馬車の操縦ができない二人のせいで、ずっと御者台に座っている俺の尻は限界だった。
レナに夕飯の支度をしてもらい、俺はブルーノの為に精霊を召喚する。
俺の手のひらの上に黄色い精霊が現れた。
「ハーイ、なんか用ですか?」
「新しい使用人の回復補助魔法の覚醒を頼む。」
「ハーイ、任せて。」
彼女は精霊のケーマ。
実力はあるがおっちょこちょいで、空腹で倒れていた所を俺が助けた。
ドーヘンタイーナド家には家付きの精霊も居るが俺はこいつを使う、俺専用の精霊だ。
「あの、何なのでしょうか?」
ブルーノははじめてみる精霊に驚き、恐怖していた。
「動くなよ人間、説明は後でするから動くな。」
ブルーノ身体が光りはじめる。
「体内を流れる魔力がわかるか?
そのまま30分動かないで魔力を感じていろ。」
俺は持ってきた水筒に魔力を込めて精霊のケーマに飲ませてあげた。
「わーい、ありがとう。」
「俺達も暇だし飯にするか。
ちょうど明るくて便利だしな。」
「ちょっとフレズ、神聖な精霊の魔力覚醒をランプ代わりにするつもり?」
「じゃあ、レナは終わるまで待ってるか?」
「いやよ、ご飯が冷めちゃうじゃない。」
「おいレナ、このスープ美味いな。」
「燻製肉を細かく刻んで野菜と一緒に煮るだけよ。保存も効くし簡単でおいしいの。」
「さすが俺のレナだな。」
「こっちのパンも美味いな。」
「こっちのパンは小麦粉と塩だけでできるから余計な荷物もいらないし、軍の携帯用のパンよりおいしいの。」
「そうなのかいつもありがとう。」
ブルーノの腹が鳴った。
「あのー、俺も食べていいでしょうか?」
ブルーノは耐えられないのか聞いてきた。
「動くなよ、人間。」
ブルーノを精霊のケーマが止める。
「このちっこいのは何ですか?
それに俺は人間じゃなくて獣人です。
何で俺の身体は光ってるんですか?」
俺は干し肉を齧りながら答えた。
「そいつは精霊のケーマだ。
精霊から見れば人間も獣人も同じ様なものだ、差別がないのは良い事だろ?
それからちゃんとブルーノの分のご飯もあるから、今は体内の魔力に集中してろ。」
レナが呆れた様に言う。
「全くいつもフレズはそうやって適当なんだから、それじゃあ部隊に入ったばかりのブルーノが不安になるのも無理ないでしょう?」
「じゃあレナが説明してやれよ。」
「いやよめんどくさい。」
「俺はレナが作ってくれたこの美味しい料理に夢中になんだ、レナ頼む。」
「また調子良い事言って…。」
レナは文句言いながらも料理を褒められた事が嬉しいのか、俺の代わりにブルーノに説明してくれた。
「魔術や魔道を覚醒させるのに教会に行って神の加護を授けて貰うのは知ってるわね。
今は精霊の力を借りて体内の魔力を動かして無理やり魔道の力を覚醒させているのよ。」
「えっ!じゃあ俺は補助魔法とか使える様になれるんですか?嬉しいけど俺お金そんなに持ってないです。」
「フレズは神父じゃないしべつにお金なんて払わなくて良いわよ。
その分部隊に貢献しなさい。
ねっフレズ?」
「ああ、部隊の仲間からは料金は取らないよ。
それにお礼なら精霊のケーマに言ってくれ。」
「ケーマ様ありがとうございます。」
ブルーノはケーマを拝んでいる。
「拝まなくて良いから。動くなと言ってるだろ人間。」
「はい!」
ブルーノは凄く嬉しそうだった。
「俺とレナは寝るから、魔道覚醒が終わったら飯食いながら見張りを頼む。
四時間後にレナを起こして見張り交代してくれ、じゃあお休み。」
「イエス!フレズ。」
「ちょっと、フレズだけ見張りしないつもり?」
レナは不満そうだ。
「二人が馬車の扱いに慣れないからだろ。
長く寝たかったらさっさと操縦を覚えてくれ。
ほら、返事は?」
「イエス、フレズゥ。」
翌朝起こされた俺は馬の調子を見ながら、荷造りしているブルーノを呼んだ。
「俺の右肩と馬の太腿に手を置いて見ろ。」
ブルーノは俺の言う通りにした。
「今から俺の体内の魔力を動かして馬の太腿に移すから、魔力の流れを感じるんだ。
昨日の夜と同じ感じだいくぞ。」
俺は馬の太腿に簡単な疲労回復と補助の魔法をかけた。
「わかるか?これが魔導の全ての基礎だ。
体内にどういう風に魔力を流せば身体にどんな変化があるのかをちょっとずつ覚えていけ。」
「はい。」
俺は二頭の馬の太腿に同じ事を繰り返す。
そして今度はブルーノの右の太腿を触り魔法かける。
「右足だけに補助魔法がかかったのがわかるな。
今度は自分の魔力で自分の左足に同じ事をして見ろ。」
ブルーノは体内の魔力に集中して、左足に補助魔法をかけた。
「おおっ!身体が軽いです。
補助魔法がかかりました。」
ブルーノはその場でぴょんぴょん跳ねてみせた。
見張りをして眠そうなレナが会話に入ってくる。
「男同士で朝から太腿触って何しているかと思ったらそれ魔導の極意じゃない。
確かに基礎でもあるけどちゃんと最初は本で既存の魔法を学ばせなさいよ。」
「俺は魔導書なんか読んだ事ないぞ。」
「世の中フレズみたいな天才だらけじゃないのよ、危ないじゃない。
ブルーノ、次の街に着いたら私が適当な魔導書見繕ってあげるから荷造りよろしく。
私は荷台で寝るわ。」
言いたい事だけ言うとレナは荷台に入っていった。
どうやらレナは荷馬車の操縦を覚える気は無いらしい。
荷造りを終えて再び出発した俺は、ブルーノに魔導の説明とは違い、丁寧に馬車の操縦を教えながら進む。
出来れば俺も硬い御者台ではなく荷台でゴロゴロしたいのだ。
今週もありがとうございました。
また月曜日からよろしくお願いします。




