激突
リスボンとアムステリアは、美術館の玄関に向かう。
あまりの素早さに警官たちも止められず、彼らは余裕で玄関までたどり着く。
玄関周りの結界の気配は消えており、侵入は容易であった。
玄関の大扉施錠はリスボンが魔法で解除し、彼らはするりと中に入る。
玄関ホールはガス灯が煌々と灯され、深夜なのに明るいぐらいだった。
そして彼らの目に、うめき声を上げながら横たわる数十人の警官や私兵が飛び込んできた。
ホール中央、2階へと続く大階段の前。
岩のような大男が、太い巨大な金棒を床に突き立て、リスボンたちを見ている。
「番人ハルバンのお出ましかね」
リスボンはニヤリと笑った。
彼はステッキをねじる。
するとステッキから、細身の剣が出てきた。
仕込み杖である。
「通してもらいたいねぇ、番人殿」
しかし「番人」バルバンは、その鋼のような巨体をまんじりとも動かさず、燃える眼光でリスボンたちをじっと見ている。
「アムステリア、君は男どもを連れて先に行きたまえ。
私は最高の余興を楽しんでから後を追う」
真っ赤なドレスの女はそれを聞くと、鞭を天井めがけて振るった。
豪奢なシャンデリアに鞭が巻き付くと、彼女は一足飛びに二階まで跳んだ。
数人の部下たちも、驚くような跳躍であっという間に二階まで跳んでいく。
彼女らはリスボンとバルバンを置き去りに、奥へと進んでいった。
すぐに警官たちとの戦闘が始まったようだが、アムステリアの相手ではなさそうだ。
「さて、始めましょうか」
リスボンは片眼鏡を左手で少し触り、右手の細身の剣を振るった。
鋭い風切り音がホールにこだまする。
バルバンは、太いバットのような金棒を、肩に担ぐようにして両手で握り、構えた。
リスボンは半身の体制で、右手の剣をハルバンに向け、美しい姿勢で構える。
鋭い靴音が玄関ホールに響き、リスボンは一気にハルバンとの距離を詰める。
猫科の獣のような俊敏さだ。
剣は真っ直ぐにバルバンの眉間を貫く。
が、ハルバンは金棒をわずかに動かし、リスボンの剣をさばく。
リスボンは怯まない。
体勢を崩すこともなく右に跳躍し、振り向きざまに一閃。
ハルバンの左肩をわずかにかすめた。
リスボンは、魔法もそれなりに使えるが、むしろレイピアの達人と言った方がいい。
無数の猛者が集う盗賊団ギルドの中でも指折りで、それゆえに彼らのグループは他のギルド所属の者たちから一目置かれている。
実際に彼らは今までに多くの至宝を手にしている。
リスボンは少しずれたシルクハットを整え、もう一度構える。
ハルバンは右肩から少し血を流しているが、意に介することもなく、また金棒を担いで構えた。
一方のハルバンも、細身の剣で俊敏さと技の冴えるリスボンを相手に、巨大な金棒で互角の戦いをする。
並大抵の腕前ではない。
「惜しい、実に惜しい。
なぜクリスタル・ティアーズなどにいるのか。
私と共にギルドで働けば、あっという間に皆がひれ伏すであろうに」
しかしハルバンは何も答えない。
その代わりに痺れるような気を放ち、リスボンを見据える。
今度はハルバンが踏み込んだ。
巨大な金棒が唸りを上げ、リスボンの胴を凪ぐ。
すんでのところでリスボンは交わすが、カウンターを返す余裕はない。




