四人目
「ティールちゃん、入るよ~!」
と、リアラはすでに部屋に入ってから大声で言った。
その小部屋は、ありとあらゆる所に分厚い魔導書が積み上げられていた。
机も椅子も棚も、さらには床にも足の踏み場がないほど本が無秩序に散らばって、山積みになっている。
その本の山陰に、薄青いボサボサ髪の、目の下にひどいクマのある少女がいた。
ベージュのゆったりというかダラダラした、マントか毛布かローブかわからないような、貧乏くさい何かをまとっている。
彼女がティールだ。
「入ってから入ると言うとは一体全体どういう…」
「まあまあ良いじゃないの~細かいなぁ~」
リアラはキャハハと笑い、散らばっている本を適当によけながらティールの所へ寄っていく。
そしてティールに横から抱きついた。
ティールは露骨に迷惑そうな顔になる。
「解析終わった~?」
「あぁ、大体できたよ」
「さぁっすが、仕事が早いね~!」
そう言ってリアラはティールの小さな肩をバシバシ叩く。
「いたいいたい…」
「で、どんな感じ?」
ティールはため息をついて、床に散らばっていた書類をかき集め、机の上に乱雑に置いた。
「魔法防護壁は8つ。
全体を3重に包んでるのと、例の展示室、ここが部屋を仕切るような形で一つと、モノが置いてある展示台が1重。
残りの3つは、館長室に仕掛けてある」
「8つもあるの~?!
金にモノ言わせてるねぇ~!」
一般的な美術館では、魔導を用いた盗難対策で設置される魔法防護システムは、全体に一つ、目玉展示品に一つ、というのが一般的だ。
8つというのは、大臣や伯爵以上の邸宅や宮殿、あるいは戦場拠点となる砦などに設置される数である。
もちろん維持費も大変な額になる。
まさに「金にモノを言わせている」のだ。
「突破できそう?」
「たぶん。
ただし、少し手こずる」
ティールがそう言うときは、大体1時間ぐらい掛かる、という意味だ。
今まで彼女が突破できなかった魔法防護システムは、国内には存在しない。
魔導先進国であるフーバー王国国防本部のコアシステムは、突破できなかった。
フーバー王国のコアシステムは伝説の大魔導師ソーサルの手によるものであり、全108階層のうち97階層目で、危うく逆脳ハッキングを受けそうになり、断念した。
ちなみになぜそのシステムに進入したかというと、
「ちょっと入ってみたかったから」
である。
ちなみに再トライはしていない。
「だって、97階層目には、アマガエルがいるんだ。
無理だよ。
緑で、ヌメヌメしてて、ゲロゲロ言うんだ。
うぅ、思い出しただけでも吐きそう。
オエェ」
ティールはカエルが死ぬほど嫌いだった。
「全体を囲んでる防護システムは、物理障壁、魔法遮断、電撃。
例の展示室は、部屋の仕切が物理遮断、ショーケースが麻痺。
館長室のは、物理遮断と魔法遮断、即死だ。
まぁ、もう全部ハッキングはできてるから、どうクラックするかがわかれば、それで大丈夫だよ」
「そっかー。
全っ然わかんないや~」
そう言ってリアラはヘラヘラ笑う。
「あ、そうだ、図面出せる?」
「うん」
リアラに頼まれて、ティールは口の中でもごもごと短い呪文を唱えた。
すると、二人の前の中空に、アレスラーク美術館の1から3階までの平面図が出てきた。
「魔法防護を出す?」
「うん、お願い」
ティールは指先を少し動かす。
すると、図面上に赤く光る線がいくつか浮かび上がり、魔法防護システムの掛けられている部分が示された。
最初のティールの説明どおり、8つの魔法防護が見て取れる。
中でも厳重そうなのは、館長室だ。
3つの防護システムが一つの部屋に集中している。
リアラは館長室の防護システムの枠を数秒間じっと見つめ、そしてにんまりと笑った。
「じゃぁ、引き続きクラッキング頼むわね~」
そう言い残し、リアラは手をヒラヒラと振って、また本をまたぎ、いくつか蹴飛ばしながら、部屋を出ていった。
「こらー! 本を蹴るなー!
ったく、なんてガサツなんだろう…」
自分のことは棚に上げ、ティールは深々とため息をついたあと、再びアレスラーク美術館の魔法防護システムに侵入を開始した。




