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クリスタルティアーズ  作者: 松本 力
ホメロスの瞳は月夜に光る
4/8

四人目

「ティールちゃん、入るよ~!」


と、リアラはすでに部屋に入ってから大声で言った。


 その小部屋は、ありとあらゆる所に分厚い魔導書が積み上げられていた。

 机も椅子も棚も、さらには床にも足の踏み場がないほど本が無秩序に散らばって、山積みになっている。


 その本の山陰に、薄青いボサボサ髪の、目の下にひどいクマのある少女がいた。

 ベージュのゆったりというかダラダラした、マントか毛布かローブかわからないような、貧乏くさい何かをまとっている。

 彼女がティールだ。


「入ってから入ると言うとは一体全体どういう…」


「まあまあ良いじゃないの~細かいなぁ~」


 リアラはキャハハと笑い、散らばっている本を適当によけながらティールの所へ寄っていく。

 そしてティールに横から抱きついた。

 ティールは露骨に迷惑そうな顔になる。


「解析終わった~?」


「あぁ、大体できたよ」


「さぁっすが、仕事が早いね~!」


 そう言ってリアラはティールの小さな肩をバシバシ叩く。


「いたいいたい…」


「で、どんな感じ?」


 ティールはため息をついて、床に散らばっていた書類をかき集め、机の上に乱雑に置いた。


「魔法防護壁は8つ。

 全体を3重に包んでるのと、例の展示室、ここが部屋を仕切るような形で一つと、モノが置いてある展示台が1重。

 残りの3つは、館長室に仕掛けてある」


「8つもあるの~?!

 金にモノ言わせてるねぇ~!」


 一般的な美術館では、魔導を用いた盗難対策で設置される魔法防護システムは、全体に一つ、目玉展示品に一つ、というのが一般的だ。

 8つというのは、大臣や伯爵以上の邸宅や宮殿、あるいは戦場拠点となる砦などに設置される数である。

 もちろん維持費も大変な額になる。

 まさに「金にモノを言わせている」のだ。


「突破できそう?」


「たぶん。

 ただし、少し手こずる」


 ティールがそう言うときは、大体1時間ぐらい掛かる、という意味だ。

 今まで彼女が突破できなかった魔法防護システムは、国内には存在しない。

 魔導先進国であるフーバー王国国防本部のコアシステムは、突破できなかった。

 フーバー王国のコアシステムは伝説の大魔導師ソーサルの手によるものであり、全108階層のうち97階層目で、危うく逆脳ハッキングを受けそうになり、断念した。

 ちなみになぜそのシステムに進入したかというと、


「ちょっと入ってみたかったから」


である。

 ちなみに再トライはしていない。


「だって、97階層目には、アマガエルがいるんだ。

 無理だよ。

 緑で、ヌメヌメしてて、ゲロゲロ言うんだ。

 うぅ、思い出しただけでも吐きそう。

 オエェ」


 ティールはカエルが死ぬほど嫌いだった。


「全体を囲んでる防護システムは、物理障壁、魔法遮断、電撃。

 例の展示室は、部屋の仕切が物理遮断、ショーケースが麻痺。

 館長室のは、物理遮断と魔法遮断、即死だ。

 まぁ、もう全部ハッキングはできてるから、どうクラックするかがわかれば、それで大丈夫だよ」


「そっかー。

 全っ然わかんないや~」


 そう言ってリアラはヘラヘラ笑う。


「あ、そうだ、図面出せる?」


「うん」


 リアラに頼まれて、ティールは口の中でもごもごと短い呪文を唱えた。

 すると、二人の前の中空に、アレスラーク美術館の1から3階までの平面図が出てきた。


「魔法防護を出す?」


「うん、お願い」


 ティールは指先を少し動かす。

 すると、図面上に赤く光る線がいくつか浮かび上がり、魔法防護システムの掛けられている部分が示された。


 最初のティールの説明どおり、8つの魔法防護が見て取れる。

 中でも厳重そうなのは、館長室だ。

 3つの防護システムが一つの部屋に集中している。


 リアラは館長室の防護システムの枠を数秒間じっと見つめ、そしてにんまりと笑った。


「じゃぁ、引き続きクラッキング頼むわね~」


 そう言い残し、リアラは手をヒラヒラと振って、また本をまたぎ、いくつか蹴飛ばしながら、部屋を出ていった。


「こらー! 本を蹴るなー!

 ったく、なんてガサツなんだろう…」


 自分のことは棚に上げ、ティールは深々とため息をついたあと、再びアレスラーク美術館の魔法防護システムに侵入を開始した。

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