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クリスタルティアーズ  作者: 松本 力
ホメロスの瞳は月夜に光る
3/8

スネーク

 帝国警察本庁刑事部捜査一課特命捜査係付き、ベリアー警部。

 この名前を聞いても、犯罪者たちはピンとこない。


 が、「スネーク」という呼び名を聞くと、多くの犯罪者たちがざわめく。


 殺人、強盗、窃盗などの凶悪犯罪検挙数は500を超え、その初動捜査の早さと、迷宮入りした事件の解決力で、帝国警察でも群を抜いた成績を修めている。

 また、現行犯逮捕の数も多く、中でも予告犯を取り逃がしたことはない。


 ただし、クリスタルティアーズを除く。


 また、クリスタルティアーズのメンバーを逮捕したことがあるのも、スネークただ一人である。


 ちなみに2回逮捕しているが、いずれもリーダーのリアラを捕まえている。

 そして一度は護送中、一度は拘留中に、逃走している。

 ともにスネークの手から離れた後で、別の捜査員がへまをしたのだ。


「逃げたか、そうか、ウフフフ」


 逃走した2回とも、スネークはそう言って笑った。


「クリスタルティアーズがその辺のボンクラに扱えるはずがない。

 おバカなリアラでさえな」


 ここ最近では、クリスタルティアーズの予告状が届くと、本庁からスネークが所轄まで派遣されるのが当たり前になった。

 国内のみならず、国外からの支援要請さえ数件あったほどだ。


 さて、今回の予告状案件について、スネークは所轄のブルドー署長であるルーベンスと打ち合わせしていた。

 そう広くない無機質な会議室で、机も椅子も安物で質素だった。

 地方の警察署などはその程度しか予算がなかった。


「展示室への進入経路は、左右の出入り口、上部の窓の3点か」


 ルーベンスは、美術館の設計図と写真を見比べながら言った。


「床下の配管経路があるぜ。

 点検口は展示室内の北東角だ。

 1階や3階の接合部があれば、そこからも入れる。

 もっとも」


 スネークは、ルーベンスの向かいの席に机を挟んで、ひょろ長い足を組んで横向きに座っている。

 お世辞にも態度が良いとは言えない。


「あんな偽物をあいつらがどれほど本気で狙ってくるかは、疑問だがね」


「なっ」


 ルーベンスは口に含もうとしていた紅茶を吹き出しかけた。


「偽物?」


「あぁ、偽物だ。

 例の予告状にも書いてあったろ、『本物をいただきに』って。

 奴らは下見に来たとき、もう見抜いてたのさ。

 展示室にあるのは、ただのガラス細工だ。

 金にモノを言わせてそこそこ良いのを準備したらしいが」


 そう言ってスネークは、内ポケットから安物の煙草を取り出し、マッチで火をつけた。

 ルーベンスは嫌煙家だったので眉をしかめたが、スネークはどこ吹く風だった。


「でだ。

 問題は本物がどこにあるかってことだ。

 まぁ俺は、あの成金野郎が本当に本物を手に入れたのか、疑ってるがね」


 最初ルーベンスはその意味がわからなかったが、気づいた途端、背もたれに深々ともたれかかった。


「滅多なことを言ってくれるな。

 アレスラーク卿の耳に入ったら、揉め事になるぞ」


「知ったこっちゃねぇ。

 ただ、偽物だったとしても、ちゃんとした鑑定士が見てるだろうから、ガラス細工ってことはねぇだろうさ」


 そう言ってスネークは、のどの奥で低く笑った。


「で、あの成金野郎が普段どんな生活をしてるか、どこにいるのかを知りたい。

 それが答えになる。

 あいつは蚤みてぇな肝っ玉だ。

 どこかに預けるなんてことはなく、目の届きやすい場所に隠しているはずだ。

 警備するのは、その場所だ」


 ルーベンスは背もたれから起き上がり、腕組みをして前のめりになった。


「ふむ、それなら副館長に聞けばわかるかも知れんな。

 あとはアレスラーク卿に、その辺りの警備を許可してもらうことだ」


 スネークは何も答えない。

 しばらく部屋の中の沈黙が流れる。


「警備体制をどうするかも決めねばならん。

 案件が案件だけに、本庁に応援要請すれば、多少は集められるだろう」


「クリスタルティアーズに雑魚が千人いたって無駄だぜ」


「アレスラーク卿を納得させるためだよ。

 あの手の人には、やってることを示すのも、大事なことだと思うよ」


「くだらねぇな」


「私も同意するが、無難にこなすのも、仕事には大事だと思うからね」


 スネークは黒のハットを軽く右手で叩き、立ち上がった。

 影が天井に向かって立ち上がったようだった。


「まぁ、人員については俺は興味ない。

 あんたの好きにすりゃ良いさ。

 とりあえず、成金野郎の行動を教えてくれや」


 そう言い残して、スネークは軽く手を振り、会議室を出て行った。


 

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