スネーク
帝国警察本庁刑事部捜査一課特命捜査係付き、ベリアー警部。
この名前を聞いても、犯罪者たちはピンとこない。
が、「スネーク」という呼び名を聞くと、多くの犯罪者たちがざわめく。
殺人、強盗、窃盗などの凶悪犯罪検挙数は500を超え、その初動捜査の早さと、迷宮入りした事件の解決力で、帝国警察でも群を抜いた成績を修めている。
また、現行犯逮捕の数も多く、中でも予告犯を取り逃がしたことはない。
ただし、クリスタルティアーズを除く。
また、クリスタルティアーズのメンバーを逮捕したことがあるのも、スネークただ一人である。
ちなみに2回逮捕しているが、いずれもリーダーのリアラを捕まえている。
そして一度は護送中、一度は拘留中に、逃走している。
ともにスネークの手から離れた後で、別の捜査員がへまをしたのだ。
「逃げたか、そうか、ウフフフ」
逃走した2回とも、スネークはそう言って笑った。
「クリスタルティアーズがその辺のボンクラに扱えるはずがない。
おバカなリアラでさえな」
ここ最近では、クリスタルティアーズの予告状が届くと、本庁からスネークが所轄まで派遣されるのが当たり前になった。
国内のみならず、国外からの支援要請さえ数件あったほどだ。
さて、今回の予告状案件について、スネークは所轄のブルドー署長であるルーベンスと打ち合わせしていた。
そう広くない無機質な会議室で、机も椅子も安物で質素だった。
地方の警察署などはその程度しか予算がなかった。
「展示室への進入経路は、左右の出入り口、上部の窓の3点か」
ルーベンスは、美術館の設計図と写真を見比べながら言った。
「床下の配管経路があるぜ。
点検口は展示室内の北東角だ。
1階や3階の接合部があれば、そこからも入れる。
もっとも」
スネークは、ルーベンスの向かいの席に机を挟んで、ひょろ長い足を組んで横向きに座っている。
お世辞にも態度が良いとは言えない。
「あんな偽物をあいつらがどれほど本気で狙ってくるかは、疑問だがね」
「なっ」
ルーベンスは口に含もうとしていた紅茶を吹き出しかけた。
「偽物?」
「あぁ、偽物だ。
例の予告状にも書いてあったろ、『本物をいただきに』って。
奴らは下見に来たとき、もう見抜いてたのさ。
展示室にあるのは、ただのガラス細工だ。
金にモノを言わせてそこそこ良いのを準備したらしいが」
そう言ってスネークは、内ポケットから安物の煙草を取り出し、マッチで火をつけた。
ルーベンスは嫌煙家だったので眉をしかめたが、スネークはどこ吹く風だった。
「でだ。
問題は本物がどこにあるかってことだ。
まぁ俺は、あの成金野郎が本当に本物を手に入れたのか、疑ってるがね」
最初ルーベンスはその意味がわからなかったが、気づいた途端、背もたれに深々ともたれかかった。
「滅多なことを言ってくれるな。
アレスラーク卿の耳に入ったら、揉め事になるぞ」
「知ったこっちゃねぇ。
ただ、偽物だったとしても、ちゃんとした鑑定士が見てるだろうから、ガラス細工ってことはねぇだろうさ」
そう言ってスネークは、のどの奥で低く笑った。
「で、あの成金野郎が普段どんな生活をしてるか、どこにいるのかを知りたい。
それが答えになる。
あいつは蚤みてぇな肝っ玉だ。
どこかに預けるなんてことはなく、目の届きやすい場所に隠しているはずだ。
警備するのは、その場所だ」
ルーベンスは背もたれから起き上がり、腕組みをして前のめりになった。
「ふむ、それなら副館長に聞けばわかるかも知れんな。
あとはアレスラーク卿に、その辺りの警備を許可してもらうことだ」
スネークは何も答えない。
しばらく部屋の中の沈黙が流れる。
「警備体制をどうするかも決めねばならん。
案件が案件だけに、本庁に応援要請すれば、多少は集められるだろう」
「クリスタルティアーズに雑魚が千人いたって無駄だぜ」
「アレスラーク卿を納得させるためだよ。
あの手の人には、やってることを示すのも、大事なことだと思うよ」
「くだらねぇな」
「私も同意するが、無難にこなすのも、仕事には大事だと思うからね」
スネークは黒のハットを軽く右手で叩き、立ち上がった。
影が天井に向かって立ち上がったようだった。
「まぁ、人員については俺は興味ない。
あんたの好きにすりゃ良いさ。
とりあえず、成金野郎の行動を教えてくれや」
そう言い残して、スネークは軽く手を振り、会議室を出て行った。




