表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリスタルティアーズ  作者: 松本 力
ホメロスの瞳は月夜に光る
2/8

みんなのエンジェル

 さかのぼること2日足らず。


 アレスラーク美術館は、休日というのもあってずいぶん活況だった。

 中でもやはり人気は、落札価格500万ゴールドという魔法宝石「ホメロスの瞳」である。


 ホメロスの瞳は、世界に現状5つしか存在しない魔法宝石ランク最高7の逸品である。

 属性は月。

 その力は他のランク7魔法宝石同様謎に包まれているが、一級の魔導師が使えば、魔術が大幅に増強されることはわかっている。

 30年前まではヘルバリスタ王家が所蔵していたが、王国の滅亡によりその行方がわからなくなっていた。


 アレスラークの手に渡ったのは、行方知れずだったその品が見つかり、オークションに出品、落札した、ということである。


 その品は、アレスラーク美術館2階奥の特別展示室に、屈強な守衛4人が周りを固める状態で、二重のガラスケースに収めて展示されていた。


 人々は長い行列を作り、その美しい煌めきに魅了されては、名残惜しげに流れていく。


 その中に、3人組の客がいた。

 大柄な男と、小柄で背虫の男、そしてピンクのボブヘアの少女一人だ。


「リアラ、どう思う?」


 背虫の小男が、周りにはほとんど気付かれないぐらいの小声で尋ねる。


「偽物だわぁ~」


 彼女がリアラ、自称「みんなのエンジェル」だ。

 彼女が笑うと周りの空気が華やぐ。

 白いミニスカートのワンピースに薄青のファーの上着という、少女らしい服装だ。


「同意だ。

 ありゃたぶんガラス細工だな。

 モノとしてはそう悪い出来じゃないが」


 背虫の男はそう言って、一瞬目を左右に振る。


「ふむ、なるほどね。

 俺はもういいよ。

 帰ろうぜ」


 彼はあくびをして、もう興味を失ったらしい。


「えー、もう終わり~?

 フォーグはせっかち屋さんなんだよ~。

 せっかくだから他のも見て行こうよ、色々突っ込みどころ満載かも知れないよ?」


「俺も」


 大男が低い地響きのような声で言う。

 筋肉質な巨体を、すでに出口に向けていた。


「うっそーハルバンまでー?

 つまんないじゃーん」


「だったらお前さんだけ遊んで帰りゃいいのさ」


 フォーグは甲高い声で笑い、両手を頭の後ろで組み合わせて出口へ向かった。

列の間をするすると抜けていく。

 ハルバンはさすがに巨体過ぎるので、人の流れに従って出て行こうとしている。


「ちょっ、ちょっとー!

 もー!」


 リアラは頬をかわいらしく膨らませ、ハルバンの後を追いかけていく。そして部屋を出る直前に足を止め、


「ま、予想通り偽物だったから、こっちのカードでいいわ」


と言いながら、肩から下げていたポーチからカードを取り出した。

 そしてそれを、彼女のいかにも少女らしい風体からは想像できないほど素早い、しかし目立たない程度のさりげない動きで、どこかへ投げた。


 広くて賑わっている展示室に、カーン、というような、突き刺さるとも当たるともつかない、背筋が凍るような鋭利な音が響いた。


 リアラの投げたカードは、ホメロスの瞳のショーケースに命中して落ちていた。


 ショーケースを固めていた警備員は驚き、その驚きが展示室にいた来館者たちに一気に伝搬する。

 広い室内は混乱し、その隙にリアラ達は、何事もなかったように展示室を堂々と立ち去った。


 彼女ら三人は、だべりながら美術館の大玄関へ向かって歩く。

 そして中央のアーチ階段に来たとき、足を止めた。


 赤い絨毯の、きらびやかな成金趣味の階段の下に、男女がいる。


 一人は白いタキシードに白いシルクハット姿で、左目に片目金を掛けた、跳ね上がった口髭の紳士風の男。

 もう一人は、グレーに宝石を散りばめたドレス姿の淑女だった。


「ごきげんよう、リアラ。

 君たちの方が一足早かったようだね」


 紳士風の男は、狂気をはらんだ目でリアラ達を見て、ニタリと笑った。

 淑女も、薄く笑って、会釈してきた。


「うわ、リスボンとアムステリアじゃないの。

 やっば」


 リアラは露骨に嫌そうな顔になって毒づいた。


「奥で騒ぎになってるようだが、予告状でも出してきたのかい?」


「さぁね~、見てきたら~?

 私たちは帰ってお茶とスイーツの時間にするわ」


 そう言ってリアラは、アーチ階段の手すりに飛び乗り、一気に滑り降りて階下にいた二人連れの脇を通り過ぎた。

 フォーグの姿はどこかに消え、ハルバンだけは堂々と階段を降りてくる。


「さすがにあなたは逃げも隠れもしませんね」


 紳士風の男はため息混じりに言った。


「我々リスボンファミリーに、是非とも来てほしい逸材です。

 なぜクリスタルティアーズにいるのか、不思議で仕方ありませんね」


 ハルバンは二人連れに目もくれず、一言も喋らずに大玄関から出て行った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ