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オーア大陸

 体長20メートルの大怪獣フサメカと、体長100メートルの大怪獣オルクジの戦いは、すぐに収まった。フサメカがいくら攻めてもオルクジはびくともしない。オルクジの愚鈍な攻撃など、フサメカに当たりようもない。千日手である。

 ……と、船からはこのように見えた。ほどなく両者は海に潜り、二度と現れなかった。


「復活するって、海に沈んでどうしてできるんですか!?」

 オフェンとディフェンに服を返しながら、両者を問い詰めるショウ。あっさりと事が収まって気まずい雰囲気が漂っていたが、ショウにはそれはそれのもよう。

「私、恥ずかしいから、あっちで着替えるわ」

 下着姿のオフェンは弟に丸投げを決めこみ、走り去る。

「あー、まずは服を着させてくれ」

 時間を稼ぐディフェン。姉のいつもの身勝手さに心の中で舌打ちするも、喋らせればろくでもないことも分かっている。

 実際のところは各地の古代人拠点に在庫されている、別のボディに接続し直すだけのことである。復活もなにもない。海に投棄したボディがどうなるのか、それはディフェンも把握していなかった。

「リングを付けているだろ。これで体の位置が分かるんだ。潜水艇って知ってるかな? 海に潜ることができる特殊な船で回収してもらって、治癒魔法を施してもらうんだ」

 時間をかけて服を着終えたディフェンは、古代人の秘密だぞと念押しし、たった今考えた方法を説明する。この方法でも復活はできるはず。もっともこの手順ではプレイ不能時間が長すぎて、ユーザーからクレームになるだろう。

「治癒魔法って、そもそも古代人はどうして復活できるんですか?」

 ショウは前から聞きたかったことを、ここぞとばかりに質問する。

「それは僕にも分からない。僕らからすると復活できない原生人のほうが不思議なんだけどなあ」

 心にも思っていないことを口にするディフェン。

「そ、そうなのですか」

 予想外の答えに、ショウは思考に沈んでしまった。死とは何か、それはショウも分からない。自分は地球ではどうなっているのか? 死んだことになっている? 仮にそうだとして自分が戻ることができたのなら、それは生き返ったように見えるのではないか? 今の自分の状況は、もしかしたら古代人の仮死と同じなのかもしれない。……ショウの思考は、思索というよりは混乱に近いものだったが、シンガルにいる学者たちに会いたいという気持ちはますます強くなっていた。

「ともかく、僕たちのことを心配してくれてありがとう」

 ショウが急におとなしくなったのは気になったが、ディフェンはこれ幸いと一連の騒動を切り上げにかかった。


 ……


 予定より3時間遅れての深夜0時。その後は何事もなく、船はストオー島に着いた。

 フサメカの襲撃を受けた船体は点検のため、船舶ドックのあるチェリ本島へ回送されることになった。本来はストオー島とフロボー島のあいだをまだ数回往復する予定であり、ただでさえ少ない船便が大幅に乱れることになる。もっとも大陸に向かうショウたちには、影響はなかった。


 大陸行きの次の船便は、夜8時発。

 1泊して宿を出たショウ。しばらくしてモールと合流したが、ストオー島に大した観光スポットはなく、オフェンたちは出発直前まで休んでいるとのことで、大いに暇を持て余していた。……のは、実はショウのほうだけ。


「フオォーーー」

 白い空間に、すすり泣くような、それでいて気持ち良さげな鳴き声が響く。

 そこには体をブラシでこすられてご満悦の、2頭のオルクジの姿があった。雌のブラッシングを終え、雄に取り掛かる翔一。縮尺1/50となったオルクジの体は、それでも2メートルもある。洗うのはなかなかの大仕事だったが、その喜ぶ様子にいつしか楽しくなっていた。


「翔一さん、まだー? 早く遊ぼうよー」

 ローリーは大きな魚の上に立ち、器用にバランスを取りながら水上ジェットもどきを楽しんでいた。縮尺1/20となったフサメカだが、その泳ぎは変わらず速い。

「ピィーヒュルルー」

 その右横で泳ぐのもフサメカなのだが。その上には羽を広げた雌のワタカシが乗っていた。

「ピィーヒュルルー」

 そして左横には、二回り小柄なフサメカ。2頭のお子さんの上には、雄のワタカシの姿があった。

 ワタカシの雌雄を一目で判別できるようになった自分が、翔一はなぜか哀しい。


 白い空間はカオスと化していた。部屋と海と空が1つの時空に畳み込まれているのである。

 オルクジとフサメカは常に海にいた。しかし翔一からすると宙を泳いでいるようにも見える。ワタカシも同様。頭上を滑空していると思ったら、今度は足下遥か下を飛んでいる。もちろんショウもローリーも、大怪獣たちと同じ空間をともにすることは造作もない。次元位相を少し違えるだけだ。


 さらに騒々しくなった白い空間。この先はどうなるものか。

 ともかくオルクジに付着したフジツボを見ると、寒気が走る。翔一は頭を振って、ブラッシング作業に専念した。


 ……


 ストオー島を出た船は翌朝8時、オーア大陸に到着した。

 世界有数の大国であるタキュ帝国は、オーア大陸の西に位置する。一行が着いた港湾都市アプシー市は、ショウがこの世界で見た都市の中でもっとも大きかった。タキュ帝国には港湾都市が7つあり、アプシー市の規模はその中でも上位に位置する。

 入国審査は古代人とその同行者ということで速やかに済んだ。ショウとオフェンたちは街に入ると、一旦別れることにした。オフェンたちが所用が立て込んでいると、古代人拠点へ急いだからだ。ショウとしても、アキン国際商会の支店に立ち寄ることをアキンと約束していたので、都合が良かった。昼過ぎに落ち合うことを約束して、ショウはリングの地図を頼りに支店に向かう。モールはまだ別行動。


「活気のある都会だなあ」

 高くても5階建て程度だったが、通りには多数のビルがどこまでも並んでいた。この街だけで人口は100万人を超えるという。行き交う車両はパッカに牽かれ、人々はヒュマン、アカイ、リザド、ウサミーほかと様々、都会らしい喧騒だったが異世界感は色濃い。

 この街もこれまでに見た街も、田舎は別として、上下水道や電気は整っていて料理や服飾も洗練されているのに、動力だけは人力やパッカ頼りであった。ショウは地球の文明と比べると歪に感じるこの発展具合は、古代人技術の喪失と遺物が影響しているのだろうかと推測した。

 アキン国際商会に着くと、ショウは支店長ブラマから歓待を受けた。ブラマは商会代表のアキンから連絡を受けている。この世界の郵便事業体は、古代人が運営していた。電報に相当する通信サービスも存在している。

 そしてブラマとは魔素講習会の話になった。4日後にノスキャ市でモール先生に開いてもらうことにする。ノスキャ市は300キロほど内陸側にある、タキュ帝国の旧都だ。そこにもアキン国際商会の支店があり、魔素を扱える関係者がすでに続々と集まり始めているとのこと。見返りにショウは、シンガルまでの宿泊費や飲食費をアキン国際商会にもってもらうことになっている。ショウは恐縮しているのだが、アキン国際商会にとっては儲けが過ぎる取引であった。


 ……


 アプシー市東の郊外、昼過ぎ。ショウは約束した場所でオフェンたちを待っていた。ここまで来ると人通りも少ない。どこからともなく合流してきたモールも一緒だ。

 南の街道からパッカランに乗った2人がやってくる。しかしパッカランは3頭いた。

「ショウ、早いわね」

 パッカランを降りたオフェンは、何やら上機嫌。

「待たせたのかな? ショウ」

 ディフェンも降りて、誰も乗っていないパッカランをショウの前に連れてくる。二人のパッカランに勝るとも劣らない、精悍なパッカランであった。

「えっと、このパッカランは……」

「ショウはこれからこれに乗って。シンガルまでずっと二人乗り、ってわけにはいかないでしょ?」

 費用の支払いを気にするショウに、パッカランなんて安いものよと応ずるオフェン。大嘘である。パッカランガチャを回しまくった。運営から全ユーザーに向けて、大怪獣が2頭同地点に出現したことなどへのお詫びとしてガチャ用アイテムが配られたりはしていたが、★5クラスを引くためにその数十倍を投じている。

「ワタカシで借りた借りはそれだけ大きいのよ。それともずっと私にくっついていたいの?」

 ショウがだまったのを確認するや、オフェンはパッカランに騎乗し、ノスキャ市に続く道へと手綱を引いた。

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