紅い空
真っ黒な空間を天と地に分断するように、遠く地平線が紅く輝き揺れている。その光はどこまでも横に広がり、上へは紅、朱、橙、灰茶と、段々と色を変えて、天の闇と混じり合っていく。
地には、崩れた家屋や建物のシルエットが、地平の空の紅い光を切り取るように、ただ無言で佇んでいる。
パチパチと弾ける音やゴウゴウと熱風の巻き起こる音、何かが崩れる音や無数の呻き声だけが、終わらぬ合唱のようにこだました。
紅い空には、いく筋もどす黒い煙が登り、火の粉が風に散らされ舞った。焦げ臭さが鼻腔をつき、思わず咳き込み、涙が滲む。
少し前まで私は、両親と妹と共に居間でテレビを観ながら朝食を取っていた。他国の大統領の挑発的な発言、芸能人の浮気や悲惨な事件など、気の滅入るニュースばかり流れていた。
それを見て文句を言う母に、父は諭すように言った。
「嫌なニュースが多い時は、実は平和なんだよ。ありのままの世の中のことを教えてくれるからね。でも、良いニュースばかりの時は、怪しんだ方がいい。国が真実を隠している可能性がある。
裏では大変なことになっているのに、情報を操作して、国民を安心させようとしているんだ。昔の日本が、状況をどう見ても他国に負けそうなのに、勝てるぞ!団結して死にもの狂いで戦え!って国民を鼓舞したように、ね」
すると、急にテレビに可愛いパンダの赤ちゃんの映像が映り、誕生を祝うニュースが流れ始めた。他にも、科学者が何かの賞を授賞したり、オリンピックの何かの競技で日本人がメダルを獲ったり、華々しいニュースが続いた。
私は嫌な予感がして、リモコンを掴み、テレビの電源を消した。妹が「なんで消すの」と怒った。
その瞬間、窓の向こうの遠くの空が、街が、一気に暗くなり、上空の黒い雲から雨のようにたくさんの光が降り注いだ。光の落ちた場所は、パッと光り、燃え上がったように見えた。
私達は窓の外のベランダに出た。街が上空からの何かの攻撃を受け、赤々と燃えている。
「ついにまた始まった」
父がつぶやく。
「早く逃げないと」
母は慌てふためく。
「どこに?」
妹は泣きそうだ。
「やめて」
私も恐かった。退屈な、でも、幸せな日常を壊されたくなかった。家族も、家も、街も、私の大切な日常だ。平和だったのだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!
国同士の争いなんか、争いたい人だけで勝手にやればいい。でも争うならせめて、誰にも迷惑のかからない、どこか遠くの場所でやってよ。私らを巻き込むなよ!
現実味の無い目の前の紅い光景を呆然と眺めながら、私は叫んだ。