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参上! フラグブレイカー! ~妄想力が世界を壊す時~

掲載日:2018/07/22

 月に届きそうな高層ビルの屋上。

 都会の喧騒を見下ろしながら、一人の男がククッと唇を歪めていた。


「愚かな人間どもめ。今のうちにはしゃいでいるが良い。

 間もなく。もう間もなくだ!」


 フハハと高笑いし、奴が身を翻す。

 だがそのまま立ち去りかけていた足は、ピタリと止まった。


「……誰だ貴様」


 問われた俺は、ビシッと男を指さし答える。

 人知れずこの世の危機を未然に防ぐ、誇り高きその名を!


「フラグブレイカー!!」


 ……。


 話は半年前に遡る。

 当時の俺は、うだつの上がらない会社員だった。

 あぁ、会社でうだつが上がらないのは今も変わらないや。

 まぁそれはいい。


 子供の頃。俺には夢があった。

『正義の味方になりたい』

 影響されたのは、どの戦隊ヒーローだったか。

 とにかく、漠然とそんな事を思っていたのは確かだ。


 しかし現実は無情である。

 勉強。受験。就職。

 忙しい日々に追われるうちに、そんな夢など忘れ去っていた。

 ただただ現実が俺の前に立ちはだかり、いつの間にやら疲れたオッサンの出来上がりである。


 だが人生なんてそんなものだろ?

 夢と現実の境界線なんて、中学生になる頃には飛び越えている。

 正義の味方なんて、そんなものありはしないのさ。


 ――と思っていた。


「どうか世界を救ってください!」


 いつものように、アパートのベランダでビールを呷っている時だった。

 俺の前に桃が降ってきたのは。

 いや、桃のような尻の女の子だ。


 ちょっとファンキーすぎるピンクの髪。

 ちょっとデンジャーすぎる露出の多い服。

 ちょっとジューシーすぎる瑞々しいお尻。


 とかくこの世は世知辛い。

 声をかけたのが痴女からだったとしても、見た目はまだ十代にも見える少女。

 家に入れようものなら、翌日俺は塀に入れられかねない。

 なので


「自分も救えない男が、世界なんて救えないよ」


 そう言って、妄想コスプレ少女にはお引き取り願うつもりだった。

 しかし見えてしまったのだ。

 気づいてしまったのだ。

 必死に懇願する彼女が、傷を負っていることに。


 正義の味方なんて夢はとっくに捨てた。

 だが、目の前にいる怪我をした少女は見捨てられない。

 例え通報される事案だとしても、見えた以上は仕方ないじゃないか。

 埃をかぶったヒーローが、心の中で起き上がってしまったのだから。


「ありがとうございます!」


 話を聞くため部屋へ招き入れると、肩の荷が下りたように少女は胸を撫でおろした。

 北半球も南半球も見えている、際どい服装の胸をだ。

 違うものまで起き上がりそうになったので、俺は少女の話だけに傾注する。

 それを要約するとこうだ。


 世界は今も危険に晒されている。

 悪気なく、何気なく。

 そして呟かれた一言がフラグを構築し、その通りの危機が襲ってくるのだという。


 初めは意味が分からなかった。

 言った言葉が現実になり、世界を危険に晒す?

 痛い恰好の少女は、頭の中まで痛いのだとそう思った。


「分かりました。じゃあ実演してご覧にいれますね」


 訝しむ俺の前で、少女はやにむに立ち上がる。

 と思えば、今度は腹を抑えてうずくまった。

 どうしたというのか?

『大丈夫か? 頭』と、そう俺が声を掛ける前に、少女が小芝居を始めた。


「うっ……。このままでは奴らに見つかってしまう……。

 早く……。早くこれを彼に届けなくちゃ……ッ!」


 後で聞いたことだが、少女曰く、この時フラグが立ったらしい。

 直後、ガラスを割って何者かが部屋に侵入してきた。

 見れば、翼の生えた蝙蝠顔の変態だった。


「ひゃひゃひゃ! 見つけたぞ! アレをこっちに渡してもらおうか!」


 普通だったら即通報だ。

 こんな変態は国家権力に任せるに限る。


 しかし、この時の俺は違った。

 変態蝙蝠男に襲われる弱った少女。

 それは、いつか夢見た光景なのだ。

 俺はこの時、なにかとてつもない大きな流れの中に巻き込まれた気がしていたのだ。


「これを……。これを受け取ってください……ッ!」


 そう言って、少女が胸の谷間から光輝く勾玉を手渡してきた。

 温かい。


「そ、それはッ!」


 蝙蝠男が驚愕する中、受け取った勾玉は俺の身体に溶け込むように消えていく。

 ――そして。


「フラグブレイカー!」


 俺は変身していたのだった。


 ……。


 それから、俺は世界の危機を未然に防いでいる。

 なんでも、この世界からは夢が失われつつあるそうだ。

 発達したインターネットなどの情報網が、夢を押し流してしまうらしい。


 例えばUFO。

 例えばネッシー。

 例えばサンタクロース。


 そういったものの正体が即座に暴かれ、夢を持つ隙間がないのだ。

 それと反比例するように、この世界には妄想が溢れ出した。

 夢を見れないなら、せめて楽しく妄想しようというわけである。

 俺にも覚えがないわけじゃなかったので、その説明はすんなり心に落ちた。


 そして世界は変革する。

 高まりすぎた人々の妄想力が、現実を侵し始めたのだ。


 そうなると、世界の危機を妄想してしまう人間がいたら、それはフラグとなる。

 フラグは正しく現実を侵し、本当に世界は危機を迎えるのだという。


 そのフラグをいち早く察知し、バキバキに折り砕くのが俺。

 フラグブレイカーの役目なのである。


 ――今宵もまた。

 世界に危機フラグを建てる、一級建築士が現れた。


 防波堤から遠く海の向こうを見つめる男。

 サングラスをかけ、タバコを吹かしながら奴はフラグを打ち立てた。


「海がざわめいていやがる……。そうか。始まっちまうのか……」

「待てぃッ!!」


 不穏なフラグを打ち立てる者は、世界を脅かす俺の敵だ。

 即座に男の背後に立ち、ビシッと男を指さしてやる。

 そして俺は、この男のフラグをぶち折り砕くのだ!


「始まらん! 何も始まらず、世界は平和なままさ!

 見ろ! 海は凪いでいる! そしてここには俺がいる!!」


 振り返りながら男はサングラスを外した。

 妄想を聞かれ、しかも否定されたからだろうか。

 その目は薄っすらと涙を浮かばせ、顔も紅潮している。

 ぷるぷると拳が震え視線が泳いでいるものの、その心もフラグもまだ折れてはいない。

 奴は気丈にも、その役目をやり切るつもりだ。


「何奴!?」


 震えた声で男が聞いてきた。

 問われたならば答えよう。

 ビシッといつものポーズを決め、俺は名乗りをあげる。


「フラグブレイカー!」


 ……。


 男は成敗した。

 今俺は、缶コーヒーを飲みながら海を見ている。


 やはりざわめいてなどいないな。

 穏やかに引いては返すさざ波を見ていると、心が落ち着くようだ。


 しかし、俺の胸にもさざ波はたっていた。


 ――おかしいのだ。


 今の男で、フラグ建築士は今月もう十人目。

 今までは月に一人から二人程度だったのが、もう十倍近い発生率である。

 妄想力が高まりすぎているのか?

 何か世界に、新たな変革が起きているんじゃないのか?

 そんな不安がよぎり、もう一口コーヒーをすすった。


 苦味と甘みが喉に落ちると、俺の不安も消えていくようだった。

 今は夏だ。

 建築士が増えるのは、春先か夏と相場は決まっている。

 だから大丈夫。

 そう考えれば、いつの間にやら心が軽くなっていた。

 

 ――だからだろう。

 俺の口から、そのセリフは自然とこぼれてしまっていた。


「フッ……。気のせいだろう。たまたまさ。

 ……だが、もし世界に何かが起ころうとしているなら……」


 ――ゾクッ。


 言葉を発した瞬間、言い知れぬ気配を背後に感じた。

 何かいる。

 そう思い、ゆっくりと俺は振り返った。


「誰だ?」


 そこにいたのは見慣れぬ男。

 変な仮面と全身タイツの変態だ。


 だが既視感がある。

 そして、俺は直前に口に出した言葉を思い出した。


 ――あっ!!

 

 後悔してももう遅い。

 目の前の男はビシッと見慣れたポーズをとり、名乗りを上げた。


「フラグブレイカー!!」



世にも奇妙な物語風の、ループ系ホラーを目指しました。

オチが分かり辛かったらごめんなさい


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― 新着の感想 ―
[良い点]  これ、ホラーじゃないでしょ? という突っ込みを入れたくなりました。だが、そこがいい。文章もノリがよく、よい感じです。  ホラーと見せかけて、実は違うというお話が大好きなので、ありがとうご…
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