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刹那  作者: 七月梅
7/13

07 千春と漣の日記

 ―――――――――――――――――――


 ○月△日


 異世界に落ちた。

 全身を打ったせいで身体がすごく痛い。

 動けない私を枯れ木のクリーチャーみたいな生き物がお世話してくれた。

 めちゃめちゃ怖かったけどすぐに優しい生き物だと気付いた。


 優しい生き物は漣と言う名前らしい。言葉は日本語に聞こえるから少し違和感があるけど響きが綺麗だと思う。


 え、ここは異世界らしい。けど帰れないなんてイヤだよ!お母さんのお墓はあっちにあるのに!

 めそめそと泣く私を慰めてくれたのはやっぱり漣さんだった。なんでそんなに優しいんだろう。


 そんなに優しい声で慰められてたらなんだか眠くなって来ちゃった…


 おやすみなさい、漣さん

 あと、ありがとうございます


 ―――――――――――――――――――



 千春と漣の出会いが書かれている。

 懐かしいなぁ、と千春は顔を綻ばせる。

 母親を失い、傷心して落ち込んでいた千春に漣の優しさが胸に沁みたのを覚えている。



「漣さんかぁ…確かに最初はさん付けしてたなぁ」



 いつの頃からか敬称を取り、「漣!漣!」と千春は呼び倒した。

 初めて『漣』と呼んだ時、漣が嬉しそうに返事をするものだからその時から敬称はつけなくなり、互いの距離が縮まった。


 そしていつの間にか惹かれ合っていた。



 ―――――――――――――――――――


 □月○日


 迷子になってしまった。

 珍しい色の小鳥を追いかけたせいで気付いたら知らないところにいた。とても困った。

 とりあえず走ってきた方向に行けば祠に帰れるかなぁ?


 ダメだった…ますます迷ったかも

 どうしよう、もう夜だ。怖い

 誰かいないのかな?でも人が夜にこんな奥まで来るわけないよね。どうしよう


 こわい

 くらい

 たすけて

 やだ

 だれか

 お母さん

 さざなみ


 さざなみ



 漣が私を見つけてくれた。

 申し訳なかったけど嬉しかった。

 漣の背中に乗り祠に帰るとお説教を受けた。

 ごめんなさい。もう小鳥は追いかけません。心配かけてすみません。


 無事でよかったと漣に言われてすごく胸がドキドキした。心配されて嬉しいと思っちゃった。

 私、漣が好きだ。きっともっと前から好きだった!

 漣とずっと一緒にいたい。ずっと。

 できることならお母さんに漣を紹介したいくらい!

 お母さんはきっとめちゃめちゃ驚いてそれで笑って受け入れてくれる。


 ああ、でも森の主と恋人は難しいかぁ…

 私の方が先に死んじゃうなぁ…でも一緒にいたい…漣が嫌じゃなければ私が死ぬまで傍に居させてもらえないかな…?


 ―――――――――――――――――――



 千春は恥ずかしさにまた日記を閉じる。

 感情が素直に描かれてるせいか赤裸々な自分の独白を読む羽目になってしまい千春は顔が熱くなった。



「間違ってない分さらに恥ずかしい…」

 


 千春は恋心を思い出し、日記を読み進めていく。

 千春の中で漣と過ごした楽しい日々が次々と蘇ってくる。蘇る思い出の中、いつも千春の傍で漣は大きな青い瞳を細めて微笑んでいた。


 好きだ、と強く千春は思う。


 見た目の恐ろしさはすぐに消え、漣の傍でないと熟睡できなくなっていた。

 美しい青い瞳を見つめ漣が耐えきれず照れて視線を逸らす姿を見るのが日課だった。

 漣からもらった全てが私の宝物となっていった。



 ──会いたい



 ふつふつと漣に会いたい思いが強くなっていく。

 とあるページに差しかかると千春は手を止めた。

 そのページは漣から主の役割について教えてもらった日だった。

 漣の死亡が転換のスイッチとなることを思い出す。


 まだ転換は始まっていない。まだ漣は生きている。

 しかしヴェイクが発動させた魔法陣は転換から街を守るものだ。完成し、オーレスの街がすでに守護されたならば、話は違ってくる。



「もういつでも転換が始められる…?」



 オーレスの街はずれには野営する中央軍。つまり、いつでも漣を殺せるという事だ。


 千春は真っ青になりながらこんなことしている場合ではないと、日記を読むスピードを早めていく。

 オーレスの街での思い出は日記を読まずとも覚えている。

 日記は今日の日付を最後に白紙となっていた。


 今日の日記には千春の今の想いが文章で刻まれており、千春はその言葉を呟く。



「漣に会いたい」



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