0.プロローグ
新連載です!
よろしくお願いします!
街の中を風が通り抜ける。
虫の音と木々の葉音しか聞こえてこない今は夜。
日中の暑さはやわらぎ、人々は健やかな眠りについている時間帯。
月明かりに照らされ、細い影が一つ浮かび上がった。
柔らかく吹いた風に髪の毛先を遊ばせながら、街のどこかを眺めているらしい。
その立ち姿は、一言で言って華奢。
背のころは伸びる影で判別しにくいが、あまり高くなさそうだ。ひょっとしたら、子供かもしれない。
「さてと、始めますか」
ひとり言をつぶやく影。
周囲にはこの影以外の気配はなく、夜警の者もこの辺りにはいないようだった。
また、風が吹いた。
虫の音が、葉音が染み渡るように夜空へと広がってゆく。
――ここはメイブリック公爵領、クラエス。
アスタシア王都より北西に位置するこの街にはいま、人々を騒がせているうわさがある。
それが単なるうわさなのか、真実なのか。
人々はもちろん、木々も、虫たちも。闇夜を照らす月すらも、誰も知らない。
――数時間後、夜が明ける。
街はゆっくりと目覚め、一人の男は歓喜に沸いた。
どうやらまた、噂が真実に近づいたらしい。
もちろん影は、跡形もなく消えていた。
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