表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は皇帝  作者: 破魔矢タカヒロ
4/21

その4


 さて、軽自動車のアルトに乗る皇帝たる私と妃たるコチミは、マクドナルドに向かっている。


 私の居城は、先の江戸城だ。それだけのことはあって江戸のど真ん中、すなわち東京のど真ん中にある。だから、居城の周辺にはマクドナルドの店舗がたくさんある。


 居城から近いところをざっと挙げただけでも、JR東京駅店、有楽町ビルディング店、丸の内国際ビルディング店、九段下店、水道橋外橋通り店、神保町店、末広町店の七店舗がある。


 その中で、私が今から行くのは、JR東京駅店だ。そのマクドナルド店に行く理由は特にないのだが、お忍びがバレた時に変に場末のマクドナルド店で地味にバレるよりも、公明正大にバレた方が皇帝らしいと思えるのだ。


 私を乗せたアルトと、皇帝警察の精鋭五名が乗車するサプリームが東京駅の車寄せに着くと、アルトを運転していた若い警察官がSPとして私たちに付き、皇帝家の紋のあるサプリームに乗車していた五名の内の一名がアルトに乗り移り、残りの四名がやはりSPとして私たちに付いてきた。


 皇帝警察の警察官が一名ずつ乗車するアルトとサプリームは、私たちが戻るまで、停車する車寄せでそのまま待機する。


 私は若いSPの後ろを歩き、皇帝陛下御一行は迷うことなくマクドナルドJR東京駅店に到着した。


 お忍びと言っても、そこは皇帝陛下御一行、店内の二つのテーブルが予約席として押さえられていた。つまり、いつもの通りだ。


 私は、自分のビッグマックを従者に買わせたりはしない。自分で買うことも楽しみの中に入っているのだ。


 もちろん、私と妃は、一般国民と同じ列についた。


 マクドナルドの店員はいい。実にテキパキとしている。マニュアルとトレーニングがしっかりとしているからだろう。もしも何事にもこれくらいテキパキとしているのなら、女官にしてもいいくらいだ。


 だから、ほどなくして、私が注文する番になった。


 私は、いつものように、ビッグマックを頼もうとしたのだが ・・・


「おや、グランドビッグマックなんかあるのか。そうか、期間限定メニューか。じゃあ、これだね。今朝は特にお腹が減っているんだ」


 私は、妃のコチミに、問わず語りに話しかけると、そのグランドビッグマックとコーヒーを注文しようとした。すると、コチミに言われた。


「上様、また単品で注文ですか。いつも申し上げていますよね。ここはMセットですよ。お安いでしょ。私たちも庶民と同様の倹約をしませんとね」


 しかし、私は、マックフライポテトを食べない。


「いや、だって、コーヒーだけでいいのだよ」


 それでも、コチミは引かない。


「ポテトなら、若い人が食べますわよ、御心配なく」


 すると、心なしか、アルトを運転してきた若い警察官が嬉しそうな表情になった。


 そう言えば、その警察官は、いつも遠慮なく私のポテトを食べる。やはり若い人は恐れを知らない。


 私が注文を終えると、コチミが注文をした。


 コチミは、ビッグブレックファストデラックスという朝マックで一番大きいメニューをオーダーした。コチミは、現代人としては、小柄で痩せ型なのだが、精力的に活動するためか、見かけによらない健啖家(たくさん食べる人)なのだ。


 私たち夫婦に続き、皇帝警察の警察官たちが各自の注文をし、そして全員が注文を終えた。


 席まで持ってくるように依頼したので、私たちが席に着くと、そのようにしてくれた。五分足らずしか待たされなかった。朝食たけなわの時間帯なので、店内はそれなにり混んでいたのだが、マクドナルドの給仕のスピードには、いつも感心する。


 私がグランドビッグマックをパッケージから取り出すと、コチミが話しかけてきた。


「随分と大きいですね。流石はグランドビッグマックですね。上様は、カロリーをちゃんとチェックされましたか?」


 そうなのだ、妃のコチミは、いつも、摂取カロリーや栄養バランスに厳しい。


「うん、ちゃんとチェックしたよ。764キロカロリーだよ」


「御立派ですわ。でも、意外に低いのですね。私のモノよりも低いですわよ」


「え、そのビッグブレックファストデラックスとかいうワンディッシュはカロリーがそんなに高いの?」


「ええ、918キロカロリーですね。それでも、私には、これくらいでないと」


「コチミちゃんは、本当に健啖家だね。どうせ完食するのだろうね。だから、あれだけ動けるのだね。いつも感心するよ」


 ちなみに、私は、妃のコチミのことを二人だけの時に「コチミちゃん」と呼ぶ。


「まあ、感心だなんて、上様も十分に精力的ですわよ。さあ、SPさんたちが注文したものも全部揃ったし、頂きましょうか?」


「うん、そうしよう」


 私は、パッケージから取り出したグランドビッグマックを侍従長が用意してくれた紙皿の上に置き、食べ始める前の儀式に着手した。


 すると、コチミが顔をしかめた。


「また、それですか。もう、いい加減におやめになりませんか。見た目が悪いですわよ。わっ、ソースが滝みたいに流れ落ちていますわよ」


 まあ、コチミが嫌がるのもわかる。ビッグマックを食べ始める前の儀式とは、ビッグマックのバンズを手の平で上から押して、食べやすい厚みになるまで圧縮することなのだ。


「そりゃあ、バンズを押せば、ソースがはみ出るに決まっているじゃない。仕方がないでしょ。そのままでは、分厚過ぎて口に入らないよ」


「だったら、チーズバーガー二個とかにすればいいでしょ」


「それでは、レタスが食べられないじゃない。それにソースの味も違うしね」


「へえ、レタスですか。レタスなら御料牧場の日本一レベルのモノを毎日食べているのに、不思議なお方ですね」


「わかってないねえ、コチミちゃんは。このバンズに、このパティ、そしてこのソース、そこにレタスだから美味なわけだよ」


「ああ、そうですか。では、ご自由に。ただし、あまり汚さないように召し上がってくださいね」


「んぐ ・・・ もう遅いよ」


 コチミが私に注意した時、私のフィッシングベストにはビッグマックのソースがベットリとこぼれてしまっていた。


=続く=


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ