その2
ああ、祭祀か、眠いな。
まだ、未明の午前四時前だよ。そして、四時からが祭祀だ。
六月なので一年の中でも日の出が一番早い時期なのだが、それでも、まわりは薄暗い。空は、まだ、白んでもいない。
皇帝たる私は、早朝の祭祀の準備のため、午前二時には起床する。
八十二歳の高齢者が午前二時起きだよ。いくら年寄りは早起きといっても、程度というものがあるさ。午前二時は真夜中だよ。朝じゃないよ。早朝ですらないよ。
ところで、祭祀にも大小がある。で、今日はいつもの祭祀だ。
それでも、二時間はかかる。しかも、本来は正座だ。
一番長い祭祀では四時間も正座する。きついよなあ。
そのことは、私が退位の希望を表明して以来、国民にも紹介されたはずだ。
それでなのだが、はたして私は本当に正座をするのか?
実はしないのだよ。だって、八十二歳だぜ、無茶言うなよ。
ただし、昔はちゃんと正座していた。きつかったよ。
でも、高齢だから今は正座しないのだが、それでも、正座しているかのような姿勢では座る。
それには、それなりの工夫があるのだよ。
今は良い品物があってね、「楽ちん正座椅子」という品物がその工夫だ。
侍従長がアマゾンで見つけて、取り寄せてくれたのさ。
いい奴だよ、トヨトミ侍従長、気が利くのだよ。
おかげで正座が楽になった。それでも二時間とかは長いけどね。
さて、愚痴を言っていても仕方がないので軽く済ませてくるか ・・・
・・・ ふう、やっと終わった。
終わったら、急に腹が減ってきたな。
朝の六時か。そりゃあ減るわな。起床してから四時間だよ。
さあ、朝飯にしようか。さて、彼女、そろそろ来るはずだけどな。
「上様、上様、こちらにおわすのでしょ?」
おお、あの麗しい声。あれは間違いなく妃のコチミだ。
「うん、ここだよ。入っておいで」
おお、コチミが入ってきた。おや、今朝もバッチリと変装しているな。
いつも思うのだけど、見事な変装だな。これならバレるわけがない。
やっぱりコチミは何をやらせても巧みだね。流石は妃だ。
そのコチミがいつものように聞いてきた。
「ねえ、上様、今朝も行くのでしょ、マック?」
「うん、もちろんだよ。やはり祭祀の後は、ビッグマックの肉をしっかりと食べないとね」
さあ、腹もキューキューに減っていることだし、私も変装をバッチリと決めてやるか!
=続く=