89話 情報収集
「アンタは今のやり取りを見ててどう思った?」
「えっ? ん? ……普通に見えたけど。」
鶴来は普通に見舞いに来てオバちゃんの文句を聞き、それに答えて帰っていった。特段おかしいような事は無かったように見えた。
「そうだね。『普通』だった。」
オバちゃんは少し考え俺に目線を再度向ける。
「どうにも危機感が無さすぎると思わなかったかい?
そうだね……例えばの話、アンタが掃除するだけで毎日100万円もらえる立場だったとしようじゃない。で、アンタは月20万で掃除をプロに外注することにした。
ところがその掃除が適当にされていてクレームが出て100万円貰えなくなりそう……っていう事態になって継続するかどうかの決定権を持つ人間を前に普通でいられるかい?」
「あ……そう言われればそうだよね。」
「アタシがあの立場だったら『この度は私がおりながら誠に申し訳ありませんでした』って土下座から入るね。絶対に。でも『普通』だった。
という事はだよ? あの人は『取引は終了してもいい』もしくは『取引は継続される』のどっちかと思ってるってことだろ?」
オバちゃんが俺に向けて人差し指を立てながら言葉を続ける。
「もし前者なら、あの人自身が宗教団体と関係を続ける事に危険を感じていて引き際が近いと思っているって事だろうし、後者ならアタシが取引をやめると思っていない、もしくは取引を止めても問題ないと考えているって事だ……なんでそんな風に考えられるんだろうね?」
「取引を止めたいと思うとしたら、オバちゃんの言う通り、これ以上続けるとデメリットがあるって事は間違いないだろうね……継続されると思っているんなら『オバちゃんが取引をやめられない』もしくは『オバちゃん以外から巻物を仕入れる事ができる目途がついてる』って事?」
「そういうことだろうね。」
「オバちゃんが取引をやめられないって事は無いよね?」
「ああ。盲信者達が動くようになってから取引を止める方法は色々考えてあるよ。最悪関係者全員で国外に出るくらいの感じでね。」
「じゃ、オバちゃん以外から仕入れるって可能性については『俺から直接』って事になるでしょ? 俺の事は知られてないんだろうし、知られたとしてもあり得ないよそんなの。」
「うん。アタシもソレはそう思う。アンタはインドア派だしね。まず接点もない。」
「となると、あの態度の大きな要因は『これ以上取引を継続すると、なんらかのデメリットを被る可能性が高い』っていう感じなのかな?
……今の時点だと推測でしかないけど、まったく宗教団体の内情を知らないのは不利以外の何物でもないね。」
ある程度の結論を導き出せたことに納得し、やはり能力を持っている俺が動くべきだという事を改めて理解する。
「よしっ、その辺まるっと俺が情報を探ってくるよ。任しといて!」
「アンタ……本当に大丈夫なのかい?」
オバちゃんは心配そうな、そして申し訳なさそうな顔をしている。
「軽い軽い。こう見えて向こうででっかい巨人と戦って勝ってるから俺。」
「なっ!?」
まぁ、俺は戦ってないけどね。
戦ったグループに居たし。うん。
「アンタ…………何危ない事してんだい?」
「あ。」
青筋を立てたオバちゃんを前に安心させようとして墓穴を掘った事に気づいたが時は既に遅かった。
この後滅茶苦茶説教された。
怒られるハプニングはあったものの二日後に鶴来が堂下という教祖に会いに行くのを尾行させてもらう事が決定した。 そしてオバちゃんには安全対策の目途が立つまでは人目のある病院に入院しててもらう事にした。
「病院ってのは逆に病気になりそうで気が滅入るよ。」
普段豪快なオバちゃんも環境には影響されるらしくと愚痴をこぼしてた。
でも折角の機会なので一通り検査をする事にしたらしい。流石、無駄な時間を使わない人だ。
一通り決まると寝てなかった眠気を感じ始めたので安心して寝る為にフニョンに包まれに向かうことにしてぐっすり眠る。
翌日は中村君の「うへへ。出会いは道案内なんすよ。なんかこうドラマみたくねっすか?」とのろけを聞き、イラっとしつつ「あ、そうなんだ。俺買い物に行った先の店員さん。」なんて反撃をしながら通常業務をこなす。
その後アニから尾行の際に役に立ちそうな魔法の巻物をいくつかピックアップしてもらい、ホールデンに服も見えなくなる完全版の透過の指輪を依頼した。
指輪は完成まで3日程かかるらしい。尾行には間に合わないが今後必要になる可能性はあるかもしれない。転ばぬ先の杖だ。
そしてあっという間に手紙の受け渡し当日がやってきた。
午前は通常業務をこなし、そして2時からオバちゃんの病室で待機する。
鶴来が定刻5分前にやってきてたので様子を伺う。
その様子は確かに鶴来からは取引消滅に対する『危機感』は感じられない。取引が止まってもそれはそれで。というような雰囲気だ。
オバちゃんと一言二言交わし手紙を受け取った鶴来の尾行を開始する。
駐車場へ移動し始めたので乗っている車種を確認し、オバちゃんのアドバイスで事前に話をつけ1日貸切の料金を支払って待機をかけておいたタクシーに乗り込み駐車場から出る鶴来の車の追跡を開始した。
タクシーの運転手には前もって『新世界の風の本部』へ向かうだろうと、行先を伝えておいたが、その通りに鶴来の車はまっすぐ新世界の風の本部へと向かい、そして宗教団体の門をくぐって大きな駐車場へと入っていった。
タクシーは門の近くで停まり、降りてすぐに隠密をかけて鶴来の後を追う為に走り門をくぐる。
50台くらいは止めれそうな広い駐車場に、田舎の小学校くらいはありそうな施設。
鶴来は車を降りて、新世界の風の本部へと入ろうとしている。
俺は少し緊張しながらも後に続き、侵入を開始した。




