8話 商売ができそうな所はどこだ?
アイーシャさんと別れ店を出る。今日は特にこれ以上の目的は無い。だけれど折角雑貨通りまで来たので、看板と店を色々と見て回る事にした。
食器屋、布屋、ワイン屋、鞄屋、靴屋、家具屋、刃物屋……
ふむ。どうやら雑貨通りに関しては、生活関連用品が多いのか。
中央広場の屋台については、食材が多かったように思う。
という事は商店街区はきっと、武器、防具、魔法具、それらに付随する分業店舗とか鍛冶屋が多いんだろうな。
うん。とりあえず俺が異世界で商売をするとなったら、メインは雑貨通りと中央広場だな。
生活雑貨については、今のアイーシャさんの反応を見ていれば、仕入れて来た物も物次第ではあるけれど買い取りはしてくれそうだ。
食器屋にはまぁ、ステンレスやガラスの食器とか、布屋は機械織りの布、ワイン屋には瓶と封栓機、鞄屋と靴屋には染色した革や裏地に使えそうな布とか……うん。店の数だけ売り物はありそうだ。見に来てよかった。売りつける物を少し考えるだけで、ポンポン出てくる。
まぁ、とりあえずはLEDランプで商取引ができるか実験しよう。
売れそうならしばらくはLEDランプに注力してもいいだろうしな。
売れ足が鈍ったら大きめのLEDランタンとか、燃料タイプのランタンと燃料の量り売りとか……いや、火災につながりそうなのはやめよう。
ブツブツ言いながら中央広場へと戻り始める。
携帯で時間を見れば13時半、まだ中央広場では食材の屋台が出ているはず。
中央広場に戻ると、やはり髪の色で目立つせいか注目を集めながらも屋台を見て回る。
野菜に果物、チーズ、加工肉、パン、調味料、やはり食に関する屋台が圧倒的に多い、ただ、離れた一角にアクセサリー類や宝石っぽい物なんかを並べている店も見受けられたし、変わったところだと絵描きもいた。おおよそ土産を買う人間の為の品ぞろえだろう。
ふむ。本屋はやっぱりないよな。
そう思い頷く。紙自体が貴重であれば、本などは店売りされるような物でもないだろうし、主人公が何とかして安価になっていれば土産ものとして出ている可能性もあると思ったのだ。
ただ、巻物を売っている屋台があった。
この『巻物』は物語の主人公が序盤で、まだ魔法っぽい物を使えない時に切り札的に使っていた『一度だけ魔法を使う事ができるようにする魔法道具』だ。
そして魔法によって値段が違う。
気になり美人な魔法使いのお姉さんに声をかける。
「すみません。ここの巻物ってなんの魔法が置いてあるんですか?」
「あらいらっしゃい。そうねぇ。
今あるのは、光の魔法、火の魔法、水の魔法、睡眠の魔法、回復の魔法ってところね。どれも弱めの魔法が入ってるわ」
無駄に谷間を強調しているお姉さんが、前かがみになりながら巻物を指さして説明する。
「それぞれお値段はいかほどでしょう?」
「光と睡眠は銀貨1枚、火と水は銀貨2枚と銅貨5枚、回復は銀貨4枚ね。どれか買う?」
「いいえ。すみません。まだちょっと買えなさそうです。」
目を閉じ肩を上げ、冷やかしを相手にしたことを残念そうにジェスチャーするロングヘアーの谷間のお姉さん。
巻物を見ながら、チョコを一つ取り出し包み紙を開けて食べる。
「ねぇ……そんな焦げたもん食べて大丈夫なの?」
チョコをもう一つ取り出し、お姉さんに手渡す。
「手間を取らせてしまったお礼によかったらどうぞ。
焦げてるわけじゃないので……甘いお菓子です。」
金色の包み紙をまじまじと見て、チョコを返してくるお姉さん。
「いや遠慮しておくよ。食べる物は人から貰わない事にしてるんだ。」
そりゃまぁ、初対面のヤツが唐突に食べ物くれるなんて怪しすぎるわな。
なんせお姉さん美人だし。印象をよくしたい下心のせいで早まった。
そもそもニアワールドにだって毒もある。それに魔法だってある。
もしかしたら食べ物に惚れ薬や媚薬的な何かが仕込まれる可能性だってあるんだろう。
昨日のオッサンは男だし酔ってたから食べたんだろうし、美人のお姉さんとなれば警戒しても当然だ。
お姉さんから返されたチョコを受け取り、そのまま鞄に仕舞うのもなんなので、包みをはがして2個目を食べ、安全アピールをしておく。
「ご説明有難うございました。」
「あいよ。次はなんか買っておくれ。」
「買えるように頑張ります。」
さて、どうしよう。
食品の価値を知ってもらうには、まず初めに安心して食べられる物であるという事を印象付ける必要もある。
それなら実際誰かに食べさせて口コミで広がるのが一番だろう。
今しがたのお姉さんのように突然『食べて』だとハードルも高いだろうから、昨日の奥様集団あたりが適任かもしれない。集団という安心感と少しだが顔見知りという安心感があるからな。
きっと夜ごはんの買い物をするんだろうから、もう少し後の時間に来たら遭遇できるかもしれないし、時間をみてもう一度来よう。
それまでは商店街区に行ってみるのも良いだろうし、ここで屋台を見て回ってもいい。金が無いなりの観光だ。
観光を満喫する為の下準備だと思えばいいだろう。何事も楽しむ為には金がいるからな……
それとも家に戻って情報を整理するのもいいかもしれない。
腕を組み顎に右手を当てて熟考する。
……
商店街区を見に行こう。
折角なので検討する材料を多くする為に、商店街区も見に行ってみることにした。
衛兵に商店街区への行き方を尋ねると、転移ポイントにしていた路地裏の方面をさらに真っ直ぐ進んだところにあるとの事。
中央広場から歩みを進め10分くらい歩くと、いかにもな店が並ぶ一角に出た。
予想した通り、武器防具なんかをイメージさせるような看板のある店が並んでいる。
折角来たので、また恐る恐る店に入ってみる事にした。
なんとなく武器屋はイメージが怖いから防具屋に入ってみる。
「なんじゃい坊主 なんぞ必要か?」
いかつい筋肉ダルマのチビ親父、いかにもドワーフといった感じの体つきの親父が、こっそり静かに戸を開けたにも関わらずでかい声で問いかけてくる。
「あ、はい。
籠手とか盾とかが欲しいと思ってるんですが、どれくらいのお値段がするものかが知りたくて……」
「ふん! 素材によってピンキリじゃわい。
木で作れば安いが弱いし長持ちもせん。
まぁ、それでも無いよりはマシじゃがな。」
木製の盾とか木製の籠手か……。
「ちなみに木製の盾はいかほどでしょうか?」
「フン! うちはそんな軟弱な盾は作らんわ! 冷やかしは帰れっ!」
「はーい……しつれいしまーす」
素直に帰る事にした。
いや、さすがに『帰れ』って言われれば帰るよ。うん。
言われた通りのただの冷やかしだし。
値段は分からなかったけど、まぁ、武器防具が必要な状態になるようなら自宅に逃げる。
うん。とりあえずしばらくの間は商店街区に用はないな。俺、怖い人達の相手ムリ。
必要な情報は集まったと思う事にし、また路地裏に戻っていったん自宅に帰る事にした。
流石にトイレに行きたいのよ。




