88話 オバちゃんと鶴来を観察
本日2話目
昨晩はアデリーの家を出た後、迷う心を決めて最悪の場合を想定した実験を行った。
実験は何とか成功したが、そのせいで日本の自宅で全然眠れぬ夜を過ごすハメになってしまい寝不足でゲッソリしながら中村君が来るのを家の軒先で待つ。
しょぼしょぼする目で見慣れた2トントラックがバックで入ってくるのを眺める。ちなみに物量が増えたので車種がグレードアップされているのだ。
「ハザース。」
「ハヨー」
いつものように中村君と『おはようございます』『おはよう』の挨拶を交わす。
上司の気分が味わえるので、気持ち少しだけ偉そうな返しをしているのは内緒だ。
「どーしたんスか? エライ調子悪そうっスね。」
「あ~……うん。ちょっと色々あってね。」
「先輩まで倒れないでくださいよ。マジで。」
「ん。ありがと。じゃ、ちゃっちゃとやっちゃおう。」
「ウース。」
パソコンの置いてある部屋が2階だから中村君と協力しながら2階の空き部屋だった部屋に荷物を運ぶ。空き部屋だった部屋はすでに専用の簡易倉庫と化している。
運搬はなかなかの肉体労働だ。階段がキツイ。だが慣れたといえば、もう慣れた。
ただ明日からは搬入量も増えるかもしれないから、そろそろもっと効率の良いやり方を考えた方が良いかもしれない。
なんせパソコンを1階に移動するだけでだいぶ楽になるのだから。
だが、もし万が一電源を抜いたり配置を変えたりして現状から変化させたことでニアワールドに行けなくなるかもしれないと思うとなかなか行動に踏み切れない。
とはいえ……そろそろ限界だ。
主に腰が。腕が。肩ががが。
今日の荷物を運び終え、休憩しながら一度神様に配置などを変えても問題ないかを聞こうかを考える。
どうやって聞くかを腕を組……もうとしたら、中村君が声をかけてきた。
「そうそう聞いて下さいよ先輩! とうとうできましたよ……ふへへ!」
「あ? あ~。彼女?」
「そうッス! ふっへへ。いやぁマジ可愛いんスよ。
見ます? 見ちゃいますせんぱーい?」
ちょっとウザイ。
が、まぁ社交辞令をしてあげるのも先輩。上司の責務だろう。
「へー。そんなになんだ。興味湧くわ~見たい見たい。」
「へっへっへ。」
スマホを取り出し、ささっとイジる中村君。
すぐに目的の画像が出たのか向けてくる。
「コレっす。俺の彼女。」
ショートカットの可愛い子が映っていた。
「へー! 可愛い子捕まえたんだねー!」
「へへへへ! かーわいいっしょー? いや世界一かわいいっしょー。」
若いな……世界を語るなぞ、若すぎるぞ中村君よ。
ふむん。ここはひとつ、世界を知らない子に世界の広さを教えるのも先輩。上司の役目だろう。
「じゃあ……俺もちょっと見せちゃおうかな。」
「? なにをっスか?」
部屋に戻りタブレットを持ってくる。
いくつか写真を漁り、見せれそうな写真をピックアップし、アイーシャの写真を見せる。
「うっわ………
この子……超かっわいいっスね……」
「コレね…………俺の愛人。」
「しょーーなのぉっ!?」
中村君が驚いている間にエイミーの上半身だけ映った写真をピックアップする。
「コレね…………俺のペット。」
「しょっ! しょーーなのぉっっ!!!」
タブレットの写真と俺を交互に見て軽く震える中村君。
「まぁ? 恋人もいるんだけどぉ? ちゃんとこの娘たちの事を知ってるから? 別に浮気じゃないよ。」
「……パネェ……先輩マジパネェ。」
微妙に震え落ち込んだ中村君にニアワールドからの荷物を渡して得意気に見送る。なんだか気分がスッキリしていた。
ニアワールドに向かい商館でエイミーと合流し荷物を運ぶ。
エイミーがいつもと違う俺の様子に心配そうに声をかけてくれたので運び終わったついでにエイミーに乗ってみたりして癒してもらいつつも時間的に微妙だったので、そのまま日本に戻り鰻弁当とお茶を2つずつ買って病院に向かう。
お昼に差し掛かる前にオバちゃんの病室に到着し一緒に昼飯を取りながら打ち合わせをする。
打ち合わせの結果、鶴来との話の流れなんかはオバちゃんに任せる形で『新世界の風』の首謀者格の居場所などの情報を引き出してもらう事にした。結局丸投げだ。
話の内容が決まった後、とにかくオバちゃんを安心させようと努める。
「なに。俺が魔法でちょちょっと簡単に解決して見せるからさ!」
「アンタも……立派になったね。」
少ししみじみとされつつも、なんとなくオバちゃんに元気が戻ってきたように思えた。
1時間半ほど雑談をしていると不意にドアをノックする音が響き、俺はすぐに『かなり隠れたい』と念じて隠密を発動し部屋の隅に控える。
ブライアンとブライアンの店で新しく雇われたセクシーさんの日常を盗撮したりした事もあるので、かなり隠密の匙加減が分かってきているから、きっとバレる事は無いはずだ。
それに火と氷のスキルを得た後、隠密の継続時間に余力が生まれるようになったような感じもある。
俺の様子を見たオバちゃんが準備が整ったと判断したのか返事をすると、メガネをかけた男がドアを開けて入ってくる。
「サリーさん。お加減いかがですか?」
「イヤミな男だねぇ鶴来さん。名札が出てる所でもその名を呼ぶのかい?」
「ま。約束ですから。」
薄く笑う鶴来。
見舞いの果物をテーブルに置く。
「いやぁ一時はどうなるかと心配しました。
でも今日の様子だと大丈夫そうに見えますね。流石です。」
「あぁ……アタシもビックリしたよ。まさかこんなヤワになってるなんて思ってなかったわ。
鶴来さんも気をつけなよ。若い若いと思っててもあっという間だからね。」
「そうですね。」
「さて、と。鶴来さん。
見舞いに来てもらって早速で悪いんだけど……アタシャこう見えても恨みがましい性質でね。
アタシをこんな目に合わせたヤツの事を知りたいんだけど……教えてくれないかい?」
「ええ。もちろんですよ。私もさすがに憤りを隠せません。
ですのでサリーさんに嫌がらせをしていた信者達のリストを作らせるように掛け合いました。
脅しとして、もう巻物を売らない事も考えていると伝えた上でね。」
「そうか。有難うよ鶴来さん……でもね、アタシャ末端のヤツラよりも今回の件を止めれなかった責任者を知りたいんだよ。
ソイツ当てに文句を言わない事には、また同じ事の繰り返しだろう?」
「ええ……仰る通りですね。
………ですが」
「聞けば巻物でえらく活躍しているらしいじゃないの? その卸元に嫌がらせをしてくるなんて正気じゃないよね。ウチとしちゃあ、こんな状態だと本気で別の売り先を探さなきゃいけなくなる。
……そん時は鶴来さん。悪いけどアンタも連帯責任で売り先としては外れてもらう事になるかもしれないよ。」
鶴来は露骨に困ったような顔をする。
「お気持ちは十分に分かります。私もサリーさんの立場なら同様の対応をするでしょう。
ただ私の立場としては責任者を紹介することで私がいくらでそこに卸しているのかなどをサリーさんが知ったら……だとか、もしかして私抜きで直接商売が始まるかもしれないという恐怖があるんですよ。商売ですからね。」
「あぁ。その辺は安心しておくれ。鶴来さんがいくらで卸してるかなんて事は聞かないし、もちろん直接取引もしない。単に手紙を書くだけさ『ちゃんと末端管理しろ』と文句をね。」
じっと見つめるオバちゃんに、肩をすくめ、ふぅと息を吐く鶴来。
「教祖は、堂下 雅紀と名乗ってます。本名かはわかりかねますけども。」
名刺の裏にササっと名前を書いてサリーに渡す鶴来。
「そうかい。ありがとうよ。」
「いえ。もし手紙だけで良いのであれば明後日に先方に伺う予定がありますから私が責任をもって直接渡しますよ?」
「この堂下って人は、いつも本部にいるのかい?」
「ええ。まだ支部が無いので拠点は一か所だけですから大抵は本部に。ま、儲かってるみたいですし増築には取り掛かっているようですけどね。」
オバちゃんは少し黙る。
「ん。ありがとよ。じゃあ、悪いんだけど手紙は鶴来さんに任せてもいいかい? 信用できる人に任せる方が安心だからね。」
「ええ。もちろんです。 そうですね……明後日の…3時頃に取りにきましょうか。」
「助かるよ。まぁ、もうしかすると、そん時にゃーもう退院してるかもしれないし、また連絡するよ。」
「わかりました。っと、良い時間ですね。それでは今日はこの辺で。」
「あぁ。見舞い有難う。」
「お大事に。」
お互いにニッコリと微笑んで鶴来は病室を後にする。
俺は隠密をかけたままドアを少しだけ開け鶴来が離れていくのを見守った。鶴来が完全に離れたのを確認し隠密を解く。
オバちゃんの顔を見ると渋い顔をしていた。
「どうかした? オバちゃん?」
「いや……今までなんとなく考えないようにしてたけど……やっぱりあの男…怪しいと思ってね。」
オバちゃんはどこか確信したような顔を見せていた。




