87話 考える事は全ての基礎
アデリーと事に及んでいるとエイミーがやってきたので、エイミーにも参加してもらい、そうこうしているとアイーシャも帰ってきた。
が……その頃にはもうスッキリしてしまっていたので一休みさせてもらう。
ちなみにエイミーはアデリーにとって『愛人』とかそういった括りではなく『お馬ちゃん』というポジションらしく、お馬ちゃんだから俺が可愛がってもいいらしい。
うん。
よくわからん。
だがアデリーが寛大で、俺としては有難い限り。
といってもエイミーは下半身馬なので、アデリーが下、俺が上を担当……と、こんなことはどうでもいい。
だいぶ頭がクリアになっている。
クールダウンに一度自宅に戻り炭酸飲料のペットボトルと野菜ジュースのパックをアデリーの部屋に持ってくる。コップになみなみと炭酸飲料を注いだ後、落ち着いてしまうと中々近づき難い状態になっている3人の手の届くところに飲み物類を置いておく。
左手で右ひじを支え、右手でコップを持ち飲みながら考える。
明日午後に鶴来がオバちゃんの所にやって来る予定になっているから明日の午前中はニアワールドで通常業務をしよう。
見舞いに来る時間の指定は無かったから、午後はずっと病室に張り込みだ。
使う事は無いだろうが念の為『透過の指輪』も持っていこう。
オバちゃんには鶴来から宗教団体『新世界の風』の指導者の情報を聞き出してもらわなければならない。
そもそもの話として、鶴来という人が最高幹部を知っているのかという疑問もあるが、巻物の力で勢力を拡大しているのであれば、新世界の風側としても巻物を販売する鶴来という人間を大事に扱うはずだ。
だから、知っている可能性は高いだろう。
鶴来がオバちゃんの協力者であるならば知っている事を教えてくれるかもしれない……が、オバちゃんは鶴来という人間が信頼に足る人間ではないというような口ぶりだった。
という事は、情報をぼかしたり誤魔化してくる可能性もあるかもしれないから、その時に鶴来が自分から話したくなるような交渉材料が要るかもしれない。
今すぐに用意できる交渉材料は、情報を教えなければ『回復魔法の値上げ』もしくは『販売中止』だろうか?
もしオバちゃんの協力者であるのならば、オバちゃんが相手の情報を知ったとしても直接取引をしない事を約束さえすれば相手の情報を教えてくれる可能性は高いだろう。
教えてくれないようなら……何か裏があるのかもしれない。
ここはオバちゃんと要相談だな。
俺だけじゃ分からない部分が多すぎる。
もしトントン拍子で首謀者が分かったらどうするか。
まずは……観察だな。
観察して見極め、話ができる人間であれば話をすればいい。
話ができない人間なら……話をしたくなるか、話をしない方法をとるしかない。
最高のパターンは話し合いで全ての決着がつくことだが、逆に最悪のパターンはなんだろうか?
……話ができず宗教団体の信者含め全員が敵意をもって襲ってくるようになることだろうか?
……
もし、この最悪のパターンになった場合。
まずオバちゃんの安全確保が必要になる。
これは……うん。
やり方次第だが一時的な物であれば頑張ればなんとかなるだろう。
一時的な安全確保ができたとして、どうやって事態を収める?
敵だらけという事だから、何らかの形で敵の戦意を折るなり、屈服させて意識を変えさせなきゃいけないんだよな……どうやって?
単純に、今の俺の能力は人を簡単に殺せてしまうくらい強力な能力を持っている。火の玉を撃つ必要もない。
もちろん実際に試したワケじゃないが、ただ、現状の俺の弱い能力でも考えれば考える程、人を殺傷するには十分すぎるんだ。
例えば、隠密で気配を消して後ろからそっと近づき、ターゲットの首に手を当てる。そして触れた箇所の水分の温度を上げればいいだけなんだから。
沸騰まで至らないような短い時間でも高温にはなる。
ちょっと温度を上げるだけで血液の粘性が増し血管が詰まる可能性があるらしいから首付近の血管が詰まる事になるし、重要な血管が詰まれば人は死ぬ。
勿論もっと温度が上がれば重要組織を破壊した事で人は死ぬ。
逆に急速に冷やしても血管が収縮し脳への血の巡りが著しく低下し、ブラックアウトさせる事が可能と考えられる。
つまり俺は首に触れるだけで生殺与奪権を得る事ができるのだ。
能力者など皆無の日本では首に触れられた程度で死ぬと思う人はいないだろうし、そもそも殺されると考えている人間はほぼいないだろうから下手すれば隠密を使わなくても殺すことができる。
隠密を使えばより確実に実行できる。
だが……重要な事だが、俺は人を殺したくはない。
考える事はできても流石にそんな事は実行できそうにないし、してしまったら普通ではいられないように思う。
それに妄信しているだけの人間は、悪人に金や時間を毟り取られているだけの善人かもしれない。
そんな人を殺すような真似はしたくない。
………
煮詰まり、コップのジュースを一気に飲んで置き目を閉じて考える。
誰も殺さず全員の考えを強制的に変えさせる方法。
そんな都合のいい方法があるんだろうか?
…………
いや、ある。
いくつかあるには……ある…か。
あるが、できればやりたくない……というか絶対やりたくない。
下手すりゃ人を殺すよりもやりたくない。
まぁ……最悪の場合だから、その手を使う事が無い事を願うだけだ。
でもいざという時に、本当にできるかは試さなきゃいけないんだよな……あぁ…やだなぁ。
目を閉じて脳内に描いていた最悪な絵面を頭を振って追い払う。
盛大にため息をつくとアデリーが抱きしめてきた。
あぁ……やわらかさに包まれる。
フニョンは良いリラクゼーション。
緊張した考えが溶けていくように感じる。
柔らかいは正義だ。
「大丈夫よ。
イチは私が好きになったくらいスゴイんだから。
きっとうまくいくわ。」
優しく励ましてくれて妄想した事で荒んだ心が落ち着いてゆく。
やっぱり女神だよな~……蜘蛛だけど。
フニョンから離れると、ヘロヘロに伸びているエイミーと気を失っているアイーシャが目に入った。
この女神何しやがった!?
……まぁいっか。
すっかり落ち着いた俺は、やる事はやっておこうと腹を決めた。
「今日はきっともう帰らない。明日朝には一度顔を出すよ。」
服を着てアデリーにキスをして外へ出た。




