86話 決意
本日2話目
自責の念を抱く。
疲れているにも関わらず笑顔を向けてくれているオバちゃんを見て、俺は一つの決意をする。
この問題は俺が解決してみせる。と。
オバちゃんが高額に売りつける必要があったのも俺が多額の経費を使うからだ。
オバちゃんを苦しめる問題の原因は全て俺が元。であれば俺がケリをつけるのが道理だろう。
オバちゃんに余計な心配をさせないように情報収集を始める。
「なぁオバちゃん。
オバちゃんは鶴来って人を通して商売してたんだよね……その人って信頼できるの?」
「あ~……『信頼できるか』って言われると……難しいね。
ビジネスとしては支払はしっかりしている方だから後払いでもいい程度には信用できる。
ただ人間としては信用しない方がいいタイプだ。」
「それって……どうなの? なんでまたそういう人と?」
「そう言うヤツラの所には大きな金があるもんさ。それに金になりそうな胡散臭い物に飛びつくのも早い。鶴来さんは……盲信者共を止めるのに動いてくれてるみたいだけど……実際はどうだかね。」
腕を組んで右手を顎に当てて熟考する。
元凶を何とかしないとオバちゃんに心休まる日がこない。
なら元凶をどうにかするのが俺の仕事となる。
だが肝心の元凶について『新世界の風』という名前以外に俺は何も知らない。
今はとにかく情報収集をするしかない。
鶴来という人は明日も来るらしいから、その人から相手の情報をいくらかは聞く事が出来るんじゃないだろうか?
といっても俺が聞いても向こうにしてみれば部外者だから教えてくれないだろうし、オバちゃんに話してもらう方が情報を聞き出しやすいだろう。
となるとオバちゃんに内緒で解決するとかは無理。本当ならゆっくり休んで欲しいところだけれど、ちょっと手伝ってもらう必要がある……だが、オバちゃんはこの件から俺を遠ざけようとしていただろう。
であれば、まずは今回の件を解決する為に俺が動く事をオバちゃんに納得させる必要があるな。
腕を解いてオバちゃんに向き直る。
「なぁ、オバちゃん。
どうせオバちゃんには、すぐバレるだろうから先に言っとくよ。
俺、その『新世界の風』の盲信者がやっている事を止めるよ。」
「ダメだね。」
即答に思わず失笑する。
「そう言うと思った。」
「分かってるんなら言うんじゃないよ。アンタはこんな状態のアタシを疲れさせたいのかい?
……盲信者ってのは何をするのかわかんないんだよ。アンタの気持ちだけ貰っとくから、この件は忘れな。」
「まぁまぁそう言わずに。俺も異世界でただ遊んでいたわけじゃなくて、ちょっと特殊な能力も手に入れたのよ。ちょっと見てて。」
完全個室の病室は、簡易台所に洗面所、それにトイレも完備されているので台所でコップに水を注ぎオバちゃんに渡す。
「この水に触ってみて。」
「なんだってんだい。」
オバちゃんはコップの中の水に触る。
普通の水だ。
「何がしたいんだいアンタ?」
訝しげな視線を向けてくるオバちゃん。
俺はコップに氷の魔法をかける。
水から熱が失われていくのがコップ越しでもわかる。
「ん。もっかい触って。」
水に指を入れるオバちゃん。
「冷たっ!!」
驚き指を引っ込め、そして目を見開くオバちゃん。
次に火の魔法で水に熱を与えていく。
コップから湯気が上がり始め、グツグツと気泡が沸く。
「な、なにしたんだい!?」
「『魔法』だよ。火の玉も出せるけど火災報知機なったらヤバイから分かり易いように使ってみた。
沸騰してるから熱くなったのは見たらわかるでしょ?」
オバちゃんの顔が一層険しくなる。
目の前で起きている事は分かるけれど頭が理解においついていない。
魔法というファンタジーが目の前で晒されているのだから、それも当然だろう。
「他にもこんなこともできるんだ。
オバちゃん5秒だけ目を閉じて。」
オバちゃんが目を閉じるのを確認して、その場で『超隠れたい』と念じる。
オバちゃんが目を開く。
「一体なんなんだい? アンタ……あれ? そこにいるよね? ?」
隠密を解く。
「おお……? ん?
なんだか変な感じだ。さっきなんていうか……存在感が薄かったみたいな感じがするよ。」
首を捻るオバちゃん。
「うん。これも魔法みたいなもん。
隠れる能力。これを使えば見つからずに情報収集とかバッチリできるし、それに万が一襲われても魔法で撃退できるのよ。だから今回の件は魔法使いの俺に任せてくれないかな? 魔法使いの俺なら結構簡単に解決できそうな感じだしさ。」
もちろん嘘だ。
解決できる当てはまだ無い。
襲われても火の玉一発しか撃てないし複数人に囲まれたら終わりだ。
でもオバちゃんを安心させるには、こう言っておくしかないだろ?
それでも渋るオバちゃんに、それ以上協力を渋ると、ここで火の玉を出して騒ぎを起こすよ? と半分脅迫し無理矢理了解を取り、明日鶴来が来る時間に俺が隠密で同席する事を了承させた。
そして、とりあえずの目標として明日、鶴来が見舞いにきたら『新世界の風』について鶴来の知っている情報を探ってもらう事を伝える。
指導者は一体だれか。
そいつは教祖なのか、はたまたその裏に何者かがいるのかといった情報が知りたい。
ソレを知りたい理由は簡単。
こういった事はトップを押さえればどうとでもなるだろうからだ。
最悪、俺の能力でそのトップを脅してでも、止めさせてみせる。
--*--*--
病院から出て、ニアワールドへ戻りアデリーの店へと戻る。
夜には早い時間のせいかアイーシャは出かけているようだ。
アデリーと顔を合わせると、俺の顔を見た瞬間にアデリーが口を開く。
「何かあったのね。」
「さすがアデリー。よくわかってらっしゃる。」
アデリーは俺の様子を見ただけで色々察してくれる。
正直その能力には驚かずにはいられないが、本当に出来たアラクネだ。
とりあえず抱きしめる。
アデリーも抱き返してきて、頬にキスをして微笑んでくる。
「そりゃあイチの事だもの。わからないワケないじゃない。
……何があったか教えてくれるんでしょ?」
「うん。
まだどうなるかはわかんないけど、場合によっちゃ何日か留守にするかもしれない。」
心配そうな顔をするアデリーに世話になっているオバちゃんの現状を話し、解決するために行動する事を伝える。
「そう……わかったわ。手伝えることがあったら言ってね。」
そう言って微笑んだ。
「意外だ……実は日本に帰れないようにされるかな? って、ちょっと思ってたんだ。」
「ふふふ。イチが本気でなんとかしたいって考えてるのもわかるから。
そういうのは応援してこその、いい女でしょ?」
思わず笑う。
一線を越えてから、アデリーは本当に心からいい女だと感じる。
蜘蛛だけど。
察してくれるし、立ててくれるし、尽くしてくれる。
まるで天使だ。
蜘蛛だけど。
今だって、俺がやりたいからっていう理由だけで、本当は行って欲しくないという気持ちを見せないようにしてくれているのが分かる。
本当に女神だ。
蜘蛛だけど。
アデリーの俺の日本での活動の了承がとれたので、ゴードンにしばらく荷物の運搬に支障が出るかもしれない為、余裕を持った量の発注を検討しておいて欲しい旨を連絡する。
最近は倉庫を増設し、多めに在庫するようにしているらしいので、2~3日俺が運搬しなくても問題は無いらしいが物流が途切れる事になるのは気が気じゃないだろう。
ちなみに連絡はどうしているかと言うと、アデリーの店とゴードン商会の間で、アデリー特製糸電話を設置したのでいちいち移動する必要も、小間使いを使う必要も無い。
商会には常に誰か人が居るし、アデリーの店では、いつもアデリーが居るから連絡は取れる。
よし。
とりあえず必要な連絡はした。
色々考えなきゃいけない事も多い……まずはなんだ。
何をするべきだろう。
うん。そうだ。決まってる。
アデリーを抱こう。
気も高ぶっているし、抱いて抱かれてスッキリしてから落ち着いて考えるんだ。
アデリーにどうやって相手をお願いしたもんかと思いながら向き直ると、アデリーはニッコリと微笑んで服を脱ぎ始めた。
本当によくわかってらっしゃる……この女神様。




