79話 ゴードンは聞き上手
本日2話目
予想外。
ゴードン足が早かった。
いや……俺が遅いのか?
風になったつもりが逃げるのもそこそこに突風みたいなゴードンタックルに捕まってしまった。
後ろを振り返ると、ぱたぱたとアイーシャもついてきているので、アデリーの店に残らなかった事にほっと胸をなで下ろす。
「はぁ、はぁ……って、ここどこだ?」
「ふぅ、イチはん急に走るさかい、そんなんわかりませんがな。」
息を整えつつきょろきょろと周囲を見回し見慣れぬ風景に戸惑う。
アイーシャは俺達の話が聞こえていたようで、ぱたぱたと近づきながら話す。
「も~~二人とも急に走らないでよ~。
ふぅ……ここ住宅街だよ。私の住んでる所の近くだわ。」
なん……だと?
アイーシャの家が近いのか!? これは一大事。
「そんな事よりイチはん! これや! この時計!
聞いた話やと一日でしっかり2回短い針が回るんやそうやな!
なぁこれとんでもないもんやぞ! くわしゅー教えて―な!」
「だから返してよっ! それ私のっ!」
ゴードンの興奮っぷりがヤバイ。
「ようし落ち着けゴードンさんこの野郎。とりあえずアイーシャに時計返せ。話はそれからだ。」
「あ、あぁせやったな。えろうすんまへん。興奮しとったんや堪忍して―な」
「もー……壊れてないでしょうね?」
アイーシャに向き直り謝りながら時計を返すゴードン。
ほっとしながらも戻ってきた時計を心配そうに見まわすアイーシャ。
大切にしてくれているようで嬉しくなる。
それにしても時計か。
この飛びつきようは、もしかしなくても超売れる予感がしてるのか?
俺はいつの間にか腕を組んで顎に右手を当てて熟考を始めていた。
でも電池式が大半だ……であれば電池も売るか?
いや電池が消耗品で売れまくって儲かるのは良いが、その反面ごみ問題が起きそうだから電池系は持ちこみたくない。
となると……太陽光発電装置を組み込んだ時計があるし、そういった系統の時計に限定して持ち込むか?
持ち込むのも卓上タイプ、壁掛けタイプ、腕時計……色々ある。
普段使い用にお出かけ用。
ふむ。
確かにちょっと考えただけでも、これは儲かりそうな気がする。
正確な時間を共有する事はギルド職員や冒険者、一般人。どの生活圏においても有用だ。
黙り込んで考えてしまっている事に気づき二人を見る。
「おっ? 考えがまとまったみたいでんな。」
「あ、うん。 一応色々と……えっとどこから話そうかな…」
「あ~~ちょい待ち! イチはん! ワイらこれでも今ノリに乗っとる商人なんやから、こんな大事な話は外でしたらアカンて! 商館もどろ! なっ?」
「え~~……やだよ。遠い。」
「そんな殺生なこと言わんといてーな。な? この通りやって」
ゴードンが頭を下げている。
頭を下げられても往復だけでかなり時間を取られるような所まで歩きたくない。
「うん。やだ。」
「そんなー!
せやっ! そしたらアデリーはんの店借りよ? それやったらええやろ!?」
「ダメ! それだったら教えない!」
「な、なんでや……」
今アデリーの店に戻ったらアドバイザーとしてアイーシャも一緒にくるだろうが!
わざわざ引き離したのに、そんな危険な事したくない!
半泣きのゴードンと、そっぽ向く俺。
その様子にアイーシャが恐る恐る口を開く。
「あの~……良かったらウチ使う?」
俺とゴードンが、アイーシャに一気に振り向く
「「 いい(ええ)の!? 」」
俺たちの反応に一度ビクリとするアイーシャ。
「い、いいけど、ちょ、ちょっとだけ片付ける時間は欲しい……かな? ハハ」
--*--*--
今、俺とゴードンは小さな店で軽く一杯やっている。
アイーシャが部屋を片付けて迎えに来るのを待っているのだ。
ゴードンは果実水を、俺は葡萄酒を貰っている。
「んふ。んふふ……アイーシャの部屋にお邪魔するのか~。」
走ってすぐに酒を飲んだせいか、いつもより口がよく滑る。
つい。本音が出てしまった。
「おや? イチはん……イチはんはアデリーはんの旦那さんやなかったんですか?」
思わず葡萄酒を木製カップの中で一瞬吹き出し、カップ内でワインがゴボっと音を立てた
「ち、ちが。旦那じゃない! そういう関係じゃないから! 違うから!」
「お、落ち着いてーな。」
「本当に違うからっ!」
とりあえず落ち着く為に葡萄酒を飲む。
「でも言うたかて、いつもアデリーはんの店に帰っとりますやろ? 寝食を共にしとるっちゅーことちゃいますのん?」
「むむむ……そ、そう言われると……ちょっと説明が難しいんだけど……居候みたいなもんだよ!」
能力で自宅に帰って寝ているとはゴードンには言ってない。俺が日本という別世界に帰れる事を知っているのはアデリーとエイミーだけだ。
秘密を知っている人間は少ないに越したことはない。
「ふぅん。そうやったんか……でもアデリーはんはイチさんの事好きでっしゃろ?」
また、葡萄酒をゴボっと鳴らす。
「う…うん……それは多分…そう。」
ゴードンは俺の様子を半身引いて遠目に見る。
「ふむーん。
でも、肝心のイチはんの気持ちは……気にはなるけど…でも……って感じなんやな。まぁ美人ゆーても、アラクネですもんな。その気持ちもわかりますわ。」
「そーなんだよ……アラクネなんだよー。」
「うんうんそかそか、飲みなはれ飲みなはれ。おっちゃんが悩み聞いたるで~。」
「うぅ~……聞いてくれるんー?」
「おーう。聞いたるで~」
酔いと妙な関西弁っぽい話し方のせいで、話してもいい気分になってしまう。
いい。話してしまえ。
「アデリーは美人だけど蜘蛛部分が怖い! というかポリポリされそうで怖いっ!」
「ポリポリってなんなん?」
「……食い殺される系?」
「あはは! イチはん。そんなことするアラクネは街に住めませんがな。」
「え? でもアデリーがアラクネはポリポリするって言ってたよ?」
「そりゃ外のモンスターのアラクネでっしゃろ?
アデリーはんは友好的。しかもアラクネの上位種でっせ。そりゃ人間を食う事はできるでしょーけど、その前に理性っちゅーもんが働きますわ。」
「……そうなの?」
「そうです。
ははーん……イチはんが煮え切らん態度とるからアデリーはんも、ちぃと過激になっとるだけちゃいますのん?」
そうなのか?
本当にそうなのか?
んん?
「ちなみにゴードンさんはアラクネと付きあった事とかあります?」
「流石にそれはないですなー。」
なら当てにならんな。
「そんな幸運には恵まれておりまへんのや。」
「? 幸運?」
「せやで? アラクネと付き合うっちゅーんはそれだけで一生安泰やからな。一途で強くて、それに金も稼ぐ。ヒモ生活したい男には天使やで。それに人型の部分は大抵美人やしな。」
そうなのか。
ま、まぁ確かに傍から見ている限り養ってもらえそうな感はある。
「……まぁ…蜘蛛部分が受け入れられるっちゅー前提はつくんやけどな。」
「そこなんだよなーっ!」
思わずテーブルに突っ伏す。
「俺も人型部分は好きなんだけど結局そこなんだよなーー! だからアイーシャたんペロペロしたいとか思っちゃうんだよなー。」
「お? 部屋にお邪魔するゆーことにウキウキしとったさかいに、もしかしてそうかな? そうなんかな? 思たけど、やっぱそうなんやな。」
「そうだよー。アイーシャたんペロペロしたいわー。」
「お~。そっかー、イチはんはドワーフが好みなんか―。あっはっはっは。」
ゴードンが肩をバンバン叩く。
「痛い痛い痛いわ―。ドワーフってゆーか。アイーシャが可愛い。」
「ほかほか。 お? なんや糸くずついてたで。」
「ん。ありがとー。」
「か、可愛いって。どんな所が?」
「ん~。なんていうか、雰囲気からなにから、もう全部。」
「そっか……嬉しいな。」
!?
声の方向を向くとアイーシャが照れたように頬を掻いていた。
慌ててゴードンを見ると、ニヤニヤしている。
……いつから聞かれていた?




