69話 ジャイアント戦
本日2話目
「じゃ魔法使いのねーさんは、アイツを仕留める魔法を練ってくれ。俺はそれまでアイツを足止めする。
ドワーフのねーちゃんは魔法使いのねーさんの発動準備が出来たら魔法をジャイアントに撃ってくれ。
ソレを合図に俺は戦線を離脱する。
俺が離脱後、魔法使いのねーさんがぶっ放す。でいいか?」
「ん。了解。」
「わかったわ。」
『逃げなくていいの?』と言いだす機会すらなく、すでにギャビィは動き出していた。
「はやっ!」
俺は思わず手持ちカメラでギャビィを撮影する。
ギャビィは簡単な打ち合わせの了承が取れてからすぐに動き出したにも関わらず、今、その姿は既に300メートルくらい先にあった。
一度振り返り、アニが首を振ったのがちゃんと見えたのか、もう200m程進み再度振り返るとアニがコクリと頷き、ギャビィはその場で仁王立ちして待ち構える。
アニもその姿を確認して目を閉じ、またムニャムニャと詠唱を始めた。
「じゃあイチはアニさんの様子を見てて。
アニさんが撃てそうだと思ったら私に声かけてね。私もできるだけ数を溜めるから。」
「あ、え、あう。
わ、わかった。」
俺の返事を聞いてアイーシャもムニャムニャ詠唱しだす。
アイーシャは今度は最初から右手を前に出した状態でムニャムニャ呟いている。
その間にもジャイアントはどんどんとギャビィに迫っていて、そのペースを見ていると、さっきの詠唱の速度から考えてギャビィは間違いなく潰されてしまう。
一人オロオロとしつつ最悪の場合アプリで脱出を考え携帯を左手で持って確認する。
そうこうしている間にもジャイアントは雄叫びを上げながら、ギャビィへとどんどん迫っていく。
『あぁ、無能系衛兵。せめて死なないように時間稼ぎをしてくれ』
そう思いながらハラハラしつつ見ていると、とうとうシャイアンとギャビィは接敵した。
ジャイアントは手を振りあげ、体重を乗せ平手をギャビィに向けて振り下ろす。
ズゥン。
大きな地響きがして砂煙が舞う。
その様子から自分の中で
『あぁ、ギャビィが死んだ』
と感じた。
一拍置いて突然、黒く重い感情が胸に広がるのを感じ、肩と胃がぐっと重くなる。
ジャイアントは四つん這いの体勢のままだ。
きっとすぐに起き上がって、こっちに向かってくる。
今すぐに逃げなきゃ。
……と思っていたが、ジャイアントは中々起き上がらない。
舞い上がった砂煙が風に流されはじめ徐々にジャイアントの姿が見えてくると、その横にギャビィの姿も確認でき無事に生きている事が分かった。
ギャビィの姿に肩や胃の重さがすっと消えていく。
ギャビィは片手剣のみでジャイアントに切りかかり続けていて、よくよく見るとジャイアントのアキレス腱が切られている。
そのせいでうまく起き上がる事が出来ずにジャイアントは四つん這いのまま戦っていた。
ギャビィの動きは素早くジャイアントの緩慢な動きは当たりそうに無い。
ただギャビィの攻撃も片手剣の為か急所へは届かないようだ。
ギャビィがジャイアントを少しずつ削り取る様な戦いが続き、ふとアイーシャに言われていた事を思い出しアニ達を見る。
二人とも目を閉じてムニャムニャと言っているが、アイーシャが前に差し出した右手の前には、火の球が既に6つ程クルクルと飛び回っていた。
二人の服や髪の端が、さっき魔法を使った時と違い無重力状態のようにふわふわと浮いている。
ギャビィを見たり、二人を見たり、俺は一人だけ気持だけが焦り右往左往しながら見守る。
しばらくの後アニが両目を開き、俺をチラリと見た。
「アイーシャ! もう大丈夫っ!!」
俺の合図でアイーシャがムニャムニャを切り上げ、ジャイアントを目視し、ガッ! と左手で右手の手首を掴み衝撃に備えた姿勢をとった。
「はぁ!!」
アイーシャの掛け声と共に、右手の前にあった球がレーザーのように次々と飛んでいく。
ギャビィの剣を避ける為に高く上がっているジャイアントの顔を中心に次々と着弾し、爆発する。
ジャイアントが苦痛に呻く声を上げると同時に、ギャビィはアニの射線を邪魔しないように大きく避けるように離れ始めた。
ギャビィが安全圏まで離れたのを確認し、アニは両手を印を組むように数回動かした後、右手を振り上げ、そして振り下ろした。
それに合わせ大きな落雷が3度ジャイアントに落ちる。
落雷が全て直撃したジャイアントは、あやつり糸が切れた人形のようにゆっくりと崩れ落ち事切れていた。
異世界初の戦闘。
ジャイアントに勝利した。
--*--*--
「あーはっはっはっは! まさか兄弟がそこまで俺を心配してくれるとは思ってなかったぜ。」
「本当よねぇ。まさか私もイチが泣くとは思わなかったわよ。フフ」
「結構仲間思いなのね……イチって。」
「……もう……勘弁してください。」
ジャイアントを倒した後、のほほんと普通に歩いて戻ってきたギャビィを見て、ジャイアントの平手で『ギャビィが死んだ』と思った時の衝撃がフラッシュバックしてしまい不覚にも涙ぐみながら「良かったぁ……生きてた……」と言ってしまったのだ。
姿を消す指輪の効果もその頃にはバッチリ切れていたようで……それからずっと全員に面白半分で弄られている。
今は、全員で昼メシをギャビィの行きつけの酒場でとっている。
街に戻りながら色々と聞いた話をまとめると、基本的にこの街に居る『戦える人間』は、異常な強さを持っている。体験を通しても事実と理解できた。
推測するに、俺が今いるニアワールドは物語の主人公の『書いてあった話』からさらに8年が経過し、モンスターは異常な強さを持っている。
それに対抗する為に、人間も当然強さを磨き上げるようになり異常な強さを身につけたのだろう。
ギャビィにしろアニにしろ『物語で書いてあった話』の主人公の終盤の仲間クラスの力を持っていると考えて間違いないくらいだ。
ギャビィについては、戦える人間の中でも『貴族街区を守る衛兵』であり、衛兵の中でも超強いヤツばかり。
つまり無能系衛兵は、無能だけど戦わせたらかなり強い。
むしろ不真面目なのに、そこに配属されるくらいには強い。
という事はかなり強い。
アニについては、高威力の種類の違う魔法を2連続で使えるのだから間違いなく上位者だ。
ただ、アニ曰くこの街に居る『戦える魔法使い』は間違いなく全員が高威力の魔法を使えるとの事。
そんな強力な魔法使いが街を移動できないのはパーティを組むのに好まれないからだそうな。
なぜなら強力な魔法は詠唱時間が長いし、そうそう連発もできない。
だから連戦があればガス欠になり終盤にはお荷物になる確率が高く仲間として好まれない。
ジャイアントが多く出没するこの街でパーティを組むのに最も好まれる職業は『マジックアーチャー』と『軽業師』なのだとか。
マジックアーチャーは近接が足止めしている間に、目などの急所を射ぬく。
軽業師は毒や痺れなどを使って倒れさせたり、単独でよじ登って急所を狙ったりするのだとか。
ちなみにこの職業達は、どちらも書いてあった物語上では出てきていない職業で、戦闘に対する職業がかなり発展している事が伺えた。
そして戦えないアイーシャに関しても、強力な魔法を使っているように見えたが、アレはドワーフの特性ゆえの種族技らしく特別なのだとか。
だが、物語に居たヒロインのドワーフは強力な魔法は使ったが固有種独特の魔法などは使っていなかった。
職業にしろ種族特有技にしろ、かなりの能力が生まれている。
ここで気になるのは
『だとしたらチートを持った主人公とヒロイン達は、今どれほど強いんだ?』
そして
『そのバケモノクラスと戦っている敵は一体誰なんだ?』
という事。
主人公は今も戦いに出ているようだし、きっと勝ち続けるんだろう。
けれど、その行きつく先は一体どこなんだろうか?
「いや~。しかし、ここまで兄弟に好かれるのは、やっぱり黒髪のつながりかねぇ。あーはっはっは!」
「黒髪ねぇ。ちょいと興味あるわね。」
「わ、私もちょっと。」
「……だから、もう勘弁してください。」
その後もひたすら弄られ、ギャビィはジャイアント討伐の報告に、アニは依頼達成した事等を仲間に報告に、アイーシャはアニの事をブライアンに報告に行くことになり店を出て解散する事になった。
俺は機材を抱え、アデリーの家に帰る事にした。




