59話 アニとご飯を食べよう
子供達が配る事の出来るチョコが少なくなった様子を見てアニが屋台の屋根から配布終了宣言をする。まだ貰っていない人から落胆の声が上がったがアニが「運が悪かったね」と笑うと、厚かましい人がいないのか「無いなら仕方ない」と諦める人が多く、広場はすぐに平静を取り戻していった。
子供達も終了を受けアニの元に戻ってきはじめ、屋台の屋根から降りたアニが子供たちにお礼を言いながら約束のチョコを手渡していく。
その際、これから俺からチョコを貰いにくくなるけれど許してあげてと一言添えてくれた。
その事に不満を口にする子供もそこそこいたが
「みんなにあげてばかりだと、お兄ちゃんの食べる分がなくなっちゃうからね」
とアニが一言添え子供達を納得させてくれて助かった。
そして『自分の所で売ってるからお母さんに買ってもらえ』的な宣伝もやんわりと入れていて子供相手にもがっつり営業する姿勢に感心させられる。
やがてチョコを受け取った子供達も親御さんのところへ帰っていったのか、完全にいつもの中央広場に戻った。
一息ついてアニが俺に声をかけてくる。
「沢山のチョコの提供有難うね。これから忙しくなるよ。」
「そうですよね……反応を見てる限り、そこそこの数を仕入れとかないとまずそうですよね。」
「そうそう。値段とか色々決めなきゃ。」
アニと商談が始まりそうな空気になった。が、俺の腹の虫が盛大にグーと鳴り、その音にアニが笑う。
「あははは。いい音鳴らすね。そういえばもう良い頃合いだもんね。あははは。
「どうにも素直な腹でして」
「ふふ、そろそろ私の仲間が番をしに来るころだし来たら一緒に食事にいこうか。提供してくれたお礼にご馳走するよ。」
「いいんですか? 私としても魔法を使ってもらう依頼のお話もしたいですし、ここは有難くお言葉に甘えさせて頂きます。」
美女と昼食……だと? しかも美女のおごりで? アイーシャとの昼食といいニアワールドに来て以来昼メシに関しては、いい事だらけな気がする。
「って、もう来てたのね。おはよ。ホールデン」
「おはよ。アニー。」
「いや、もう昼ですけど?」
にこやかなアニーと、いつの間にか傍に居た白いローブを着た小柄な男に、ついツッコミを入れる。
「あははは。そうだね。この子は夜型だからこんな時間まで寝てる事が多いのよ。
ホールデン。この子がイチ。」
俺の事は事前に話をしてあったのだろうかホールデンの方から軽く会釈をしてきてくれた。
「僕ホールデン。よろしく。」
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします。イチです。」
「じゃあホールデン。私はイチと食事しながら仕入れ諸々の話するから、ちょっと今日は長くなるだろうけど店番よろしくね。」
「ん。問題ない。」
ホールデンは屋台の席につき持ってきていた大きなサンドイッチを、どこかボーっとした雰囲気のまま食べ始める。
「じゃ行きましょうかイチ。私の行きつけの店に案内するわ。」
颯爽と歩き始めたアニの後を慌ててついていく。
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中央広場の脇の日陰で立派な服を着た男が腕を組み、つま先をカツカツと鳴らしながら立っている。その姿はいかにも不機嫌そうだ。
やがてその男の下にエイミーと呼ばれていたケンタウロスのメイドが戻ってきて話しかけた。
「遅くなり申し訳ございません。ご主人様。少し交渉をしており時間がかかってしまいました。」
「ああ、ええからええから。はよ何があったんか報告しぃや。」
「はっ! まずはインク壺の要らないペンについてですが……残念ながら事実でした。」
「なんやとっ!? んなアホなもんどうやって作るっちゅーねん!」
「現物を手に入れようとギルドの受付と交渉をしていたのですが保留とされてしまい手に入れる事が出来ませんでした。申し訳ございません。」
「はぁ~~……ちなみに現物は見たんか?」
「はっ! それはしかと。」
「ならとりあえず見たまんま教えてや。」
「はっ。とはいえ推測の部分も多いのですが、インク自体がペンの中に入れ込んであるような作りになっていました。」
「そんなもん……持てるんかいな? インクがジャバジャバこぼれるんちゃうか?」
「いえ、それがですね……受付が嬉々として説明してくれたところによりますと――」
エイミーが男に説明をしていく。
「……なんちゅう……なんちゅうもんなんや……ぼーるペンだけやない……書けへんかったもんにも書けるっちゅーペン。 それに純白の紙て……」
エイミーは黙って男の様子を伺っている。
「そんな商品だされたら、ウチの商品なんか相手にされへんようになるぞ!
……それだけやない。インク作っとるヤツラに羊皮紙作っとるヤツラ! 全員おまんま食いあげやないか! そんなんアカン! アカンぞ!」
「はい……残念ですがその可能性は非常に高いと思われます。」
「それにウチに金集まらんようになったら……アカーン!! 緊急事態やないかっ!! なんか情報ないんか! エイミー!」
「はっ! ギルド内の冒険者にも話を聞きました。そこで聞いた情報をまとめますと『黒髪の男』が怪しいとの事です。」
「黒髪の男て……勇者様か?」
「いえ、まったくの別人で数日前に、ふらりとこの街にやってきたようです。
なにやら怪しげな、見たことも無いような黒い菓子を子供にばら撒いたりもしていると……」
「なんやそれ! めっちゃ怪しいやんかっ!」
「はい。要注意人物かと……」
二人が真剣な空気を作っている所に、のほほんとしたアリアと呼ばれた犬耳のメイドが戻ってくる。
「ただいまなーのだ!」
「おう、アリアか。
……あぁそやったな、広場の様子見に行かせたんやったな。」
男は一息ついて自分の感情をコントロールし口調を変える。
「そんで広場の騒ぎはなんやったんや。」
「なんか『チョコ』っていうお菓子を配ってたよ。タダで貰えるみたいで、いっぱい配ってたから騒ぎになったみたいなの。」
男とエイミーが顔を見合わせる。
「おい! アリア! それ黒い菓子やったか!?」
「うん! 黒かったよ?」
男とエイミーが、また顔を見合わせる。
「もろたんか!?」
「うん!」
「よし! ワイに見せーや!」
「え? 美味しかったよ?」
…………
男とエイミーは少しの沈黙の後、何も言わず肩を落とすのだった。
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アニに連れられて、まだ入ったことの無い店に入る。
店構えはエラドの店と何となく似たような感じを受けた。装飾自体がそんなに重要視されていないのかもしれない。であれば、インテリア用品なんかも需要があるかも。
そんな事を考えていると、アニが男の若い店員に「いつものヤツ2人前、お勧めでお願い」と注文し、そのままテーブルにつく。
『いつもの』という定番の品で、いったい何が出てくるのか少し楽しみにしながらアニと話をする。
内容としては、明日からでもチョコが欲しいのでその仕入れ準備をする事、それと魔法を使ってもらう日は明日の午前中納品を終えたらすぐに。という形で話が付いた。
つまり今日はこれからカメラを後2台購入しに日本に帰らなくちゃいけない。
ついでに帰り道でアイーシャに会ってウイスキーの注文が無いかも確認しておこう。
それらの話が終わるとテーブルに運ばれてきたのは肉や野菜なんかを乗せてある具だくさんのクレープだった。
クレープあったのね。
……そら小麦のパンがあれば……あるか。
以前にクレープ屋を検討していたので少しだけガックリしつつ。アニと楽しい食事をすることにした。




