51話 アラヤンデレクネ問答
未曽有の危機に頭がフル回転し始める。
糸を使って捕縛されるなんて初めてだ。コレは危険な感じがビンビンする。やばい。とにかくヤバイ。
「えっとね! そりゃあニオイはしないと思うよ! うん! だってさ! アデリーがニオイがするのを気にしてるみたいだったから中央広場でクリーンの魔法を使える人を探してかけてもらってきたんだ! それも念入りに2回ね! うんっ!」
言い訳している間にも、アデリーによるの俺のグルグル巻きは進行している。
足首当たりから始まったグルグル巻きが、この説明をする間にも驚きの速さですすみ、現在太もも。
すげぇ。やべぇ。まったくもってほどける感じがない。まるでコンクリで固められたみたいな気になってくる。どうなってんの?
「本当に? 今の言葉に嘘はないのよね? イチ?」
「う、うん。誓って嘘じゃないよ。俺は今、嘘を言ってない。本当の事しか言ってない!」
「もし今のが嘘で他の女と会ってたりなんてしたら、わ、わた、わたしわあた、わたし。」
「いや、本当に! 今の俺の話した言葉に嘘は一切ないよ!」
実際に嘘は言ってない。
『アデリーが気にしてたから消した』としか言ってないんだから。『女と会ってない』とかの嘘は一言も言ってないんだもの。うん。
俺の言葉に説得力があったようで、アデリーは信じてくれたのかグルグル巻き進行が止まった。
グルグル巻かれるのが止まった事で、ひとまずの安堵が訪れ、まずは一度深呼吸をする。
アデリーの様子を見ると、なにか小さくブツブツ言っている。こわい。なにこの蜘蛛。
やがて俺に目線を戻した。
第2弾ですね! 凌いでみせますっ!
「そう……イチは私が気にしてたからニオイを消したのね?」
「うん! そうそう! アデリーがニオイ覚えたって言ってたから、あれ? もしかして嫌だったかな? と思って。」
「そうなの……私の為に他の女のニオイを消したのね?」
「うん! そう! その通りでございます。アデリーの為に消したのです!」
「私を想って……私の為に行動しているのね。」
「うん? ……う、うん? ま、まぁ、アデリーを考えて行動したよね……うん?」
「イチは私の事をずっと想っているのね?」
「まぁ……(強制的に)考え(させられ)て……るかな?」
自嘲気味な口調になり、視線も落ちる。が、アデリーは頬を染めた。
「あぁん。もうイチ。私の事を愛してるなら愛してると言ってくれていいのに!恥ずかしがり屋さんなんだから」
「……んっ?」
どうしてこうなった……
「そんなに私の事ばかり考えているのなら……あぁ、ごめんなさい! なんで私イチの事を巻いちゃってるんだろ! 本当にごめんね?」
アデリーが俺の下半身をグルグル巻きにしている糸に指をかけると、糸がスパスパと切れた。
「え? ちょ、これどうやって切ったの? あんなビクともしない感じだったのに!」
「やだイチったら、教えてあげたじゃない。 私の糸は火で切れるのよ。ほら。」
アデリーが手の平を見せてくる。
糸にかけた人指し指の腹には、小さな炎が宿っていた。
そういえば卵を殻ごと焼いた時に手の平から魔法を出していたような気がする。
「火の魔法で糸を切ったのか……」
「えぇ。そうよ……縛っちゃって本当にごめんね。」
アデリーによって縛られたのをアデリーがどんどん解放していく
完全に自由になり、肩の力が完全に抜ける。
が……なんか誤解がえらい方に行っている気がする。ある意味めっちゃヤバさが増した気がしないでもない。
アデリーの俺を見つめる表情を、肩をほぐす運動をする振りしながらチラ見すると、両想いを喜んでいる乙女のような嬉しそうな顔だ。
「じゃあ、イチ。はい。」
「おっと?」
またハグを要望する姿勢だ。
「ほら早く♪」
とりあえず現状だと今夜間違いなく違う意味で喰われることになりかねん。
今はアデリーが勝手に相思相愛だと理解しているが、それは誤解だ。誤解を解くのは俺の命的には今すべきじゃないのかもしれんが……
……いや、逆に今しておくべきだ。
時間をおいてしまえば決定事項になりかねん。
なら傷の浅い内に誤解を解いておいた方がいい。
「あ~~……アデリーさんや。誤解の無いように、はっきりしておいた方が良いと思うんだけど……ええっと………その…なんだ。」
「うん? なぁに?」
ニッコニコで手を広げ、可愛く首を傾げるアデリー
俺は念の為、携帯に手にしながら腹を決める。
「お……俺…別に愛してるとか、そういった事は全く言ってないからね。」
アデリーの表情が一気に無表情に変わる。
やだ、なにこの蜘蛛。怖い。
「え? なんで? なんでそんなこと言うの? だって私の事を考えて行動したんでしょ? 私をいつも一番に思って動いていたんでしょ? それって愛してるって事じゃない? 違うの? 私がオカシイの? ナニイッテルノ?」
「よーし、アデリー。一回落ち着け。
息を吸って、ゆっくり吐け。それを2回だ。俺を好きなら、これくらいは従ってくれ。」
『俺を好きなら』の一言が効いたらしくアデリーは俺に言われた通りに、早いと思える深呼吸をした。
とりあえず今なら話を聞かせる事が出来そうだ。
「アデリー。俺はさっきの話の中で一度も『愛している』とは言ってないだろう?」
アデリーは思い返すように瞼を閉じたり顔を動かしたりしている。
そして言っていない事を確認したようで口を開きかけたのを遮って喋る。
「アデリー。君は俺の大事な協力者だ。だから君に嘘はつきたくない。
今こんなことを言えばアデリーが傷つくかもしれないとは思ったけれど……君にはきちんと 誠 実 でありたいんだ。」
あえて最後の誠実を強調して口にする。
「イチ……」
少し悲しそうな顔をしながらも、どこか少し嬉しそうな顔をするアデリー。
「そう……ね…早とちりしちゃってごめんね。」
どうやら誤解は解けたらしい。
鼻から大きく息を吸い込み、ゆっくりと鼻から吐き、生きている喜びを噛みしめる。
俺は勝利した。
勝ったのだ。勝利をこの手に掴んだのだ。
「でもね……イチ。一つだけ教えてくれる?」
アデリーの問いに首をひねり『何?』と問う。
「私の事……好き?」
頭が真っ白になりつつ、なんとか答えをひねり出す。
「……嫌いじゃないよ。」
「そう。」
アデリーは笑顔を作った。
「いつかイチに私の事を『大好き』って言わせてみせるわ。私……一生懸命頑張るからっ!」
両手を胸の前で握り、やる気を見せるアデリー。
よかった。嵐は過ぎた。
本当に良かった。
「じゃ、イチ。一緒にご飯食べましょ。」
二階に料理を運ぼうとするアデリー。
「あ、えーと、おれアッチに……」
「食べましょ?」
…………
「アッチに……納豆を取りに行っていいかな?」
「もちろんよ。」
今日一番の危機を乗り切った満足感と微妙な諦めを感じつつ、ご飯だけならきっと無事にやり過ごせそうだ。今日の最後の仕事としてアデリーと食事をとる事にした。




