44話 ニオイってそんなしないよね?
本日2話目
「イチ。ねぇ、イチ? なんでオンナのニオイがするの? どこに行ってたの何してたの? ねぇ教えてイチ? じゃないとワタシ不安になっちゃうから。ねぇ? 早く教えてイチ。」
瞬き一つせず、俺をガッチリ固定した上で、じっと俺の目を見つめ、右に傾けた顔をゆっくりと近づけながら、抑揚が一切感じられない声で問い詰めてくるアデリー。
アイーシャは別に香水とかつけていたように思えないのに……何でこの蜘蛛はニオイなんてわかるんだ!?
首が90度に傾いてるけれど、その角度になんか意味はあるのかっ!? もしかして、アレか!? この角度がポリポリしやすい角度なのかっ!?
「いやいやいや、ちょっと落ち着いてアデリー! ニオイはして当然だって! ギルドの受付って女の人だし!」
「ギルド? ギルドのオンナと何してたの? ねぇイチ。何をしたのねぇ?」
両肩ガッチリ。
アラクネって力……強いのね。まったくもって動けません。俺の力じゃムリです。ムリ。
「商談ですっ! ボールペンっていうペンを1000本買ってくれるって大口の商談になりそうなの!
あ、明日納品しなきゃいけないし……金貨5枚のおっきな取引になりそうだから早く対応したいんですぅ!」
心臓がバクバクと激しく動いてるのが分かる。
「…………ふぅん。」
首がぐりんと元の角度に戻るアデリー。
……
にぱっ。
っと笑顔になった。
「あらそれは良かったわねぇ! 流石よイチ! この短時間でそんな大きな金額の取引に漕ぎ着けちゃうだなんて天才っ! あぁん。もうステキ過ぎて惚れなおしちゃうわぁ。」
言葉に抑揚が戻り明るい雰囲気が感じられて心底ほっとする。
「うん…………1000本を明日までに用意するつもりだからさ……時間が無いんだ。」
「そうなのね。 私ったら大事な時に邪魔しちゃってごめんなさい……許してくれる? もしイチの気が済まないなら打ってくれたっていいわ。」
進行方向を塞いでいた足を避け、上目づかいで擦り寄ってくるアデリー。
「い、いや、流石に女の人を打つような趣味は無いって! それに全然気にしてないからっ!」
「あぁん。心が広いのね。紳士なのね。流石私のイチだわ。素敵よイチ。」
「じ、じゃ、2階借りるね。」
ニッコリ微笑み両手を頬に当てながら、くねりくねりとしなを作るアデリーに苦笑いを返しつつ2階へ移動。アプリを起動して自宅に戻り、一心不乱に着替えて出かける準備をする。
アデリーの黄色の糸を工業試験場に持っていこうと糸に触れた途端、アデリーの90度横に倒した顔がフラッシュバックした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ! 怖かったぁぁぁあっ!!」
気が付くと叫んでいた。
四つん這いになって震えて叫ぶと、ちょっとスッキリしたので、すぐに出かける準備に戻り車を走らせる。
先に段取りした通り工業試験場で最初に渡した糸と同様に検査依頼の書面を作成し『糸を火で炙る事で切れる』と受付の人に伝言を託して会社に向けて車を走らせる。もちろん事故を起こさないようはやる気持ちを抑えて注意しながらだ。
会社に到着し、急ぎ足で加藤さんの下に行くと何やら作業中。
『加藤さーん。手が空いたらお時間くださーい』
と言わんばかりに加藤さんの視界に入って、手を振ってからトイレに行って用をたす。
トイレから戻ると加藤さんが時間を作ってくれていたので、まずはボールペン関連の注文を確認すると既に発注が終わっていた事が確認できた。納期は明日の午前予定になっている。
費用については全部で約38,000円。
超ボロ儲けを確信しつつ加藤さんに日本での金儲けの手段である写真の売れ行きを確認してみることにした。
「写真はあんまり動いてないですね。『背景がブルーカラーの写真は無いですか?』とか『モデルさんはプロダクションに興味ありませんか?』 とか、そういった質問の方が多いので、それらには、Noの返事を返しています。」
「そうですか……美男美女が多いからガンガン売れると思ったんですけどね……むずかしいなぁ。」
「基本的に広告やネットに使えるような写真が人気のようですから、きっとジャンルが違っているんでしょう。中世イケメン写真集とか、そういった物の方がまだ可能性がありそうな気がします。」
「冊子系は予算つかないと厳しいですからね……なにはともあれ有難うございます。もうしばらくお手数かけますがお願いします。
あ……そうだ。筆記用具の精算は明後日くらいでお願いしてもいいですか? 後、届いたらメールを頂けると有り難いです。」
「分かりました。」
加藤さんに礼をしっかりと伝えてから会社を後にし、自宅への道すがらドラッグストアに寄って髪染めを購入。アニの魔法で髪染めの染料が落としきれなかった時の為に、お泊りシャンプーセットも購入する。
自宅へたどり着き時間を確認すると12時30分。
流石にパスタを作って持ち込むとなると13時を軽く回りそうな時間だ。
パスタを用意してからアイーシャと合流してご飯を食べるとなると14時とかになりそうな気がする。そこまでアイーシャを待たせるワケにはいかないので、今回はパスタを作るのは諦めて4リットルのウイスキーだけを持ち込む事にした。
ニアワールドで動く時間が忙しくなりそうに思えたので、鞄に買ってきた髪染めとお泊りシャンプーセット、後チョコを詰めれるだけ詰めると6袋入った。ウイスキーは手持ちし、手早くニアワールドへ向かう準備をしてアプリを起動する。
枠を覗くと部屋にアデリーの姿は無く、先に4リットルのウイスキーと鞄を通してから、自分も通りぬけ部屋を出て階段を降りようとするとアデリーが作業部屋から顔を出してきた。
「あらイチ。また出かけるのね?」
「うん。次はこの酒を飯屋に売りつける渡りをつけようと思ってさ。」
「あらあらイチったら、とても熱心なのね。その情熱を早く私に向けてほしいわぁ……」
「ははっ、お金はどれだけあっても困らないからね。稼げる時には稼がないと!」
「ふーん。イチはお金が好きなのね……じゃあ、私もちょっと本気でイチのお手伝いしちゃおうかしら?
昨日の歯ブラシとか……その他色々売るわ。」
「わぁ、有難う! すごく助かるよ」
「いいのよ。私が大好きなイチの為に好きでやるんだから。」
ニコニコ微笑んでいる。
こんな感じで笑って下半身が見えない状態だと、アデリーは本当に綺麗に見える。実に惜しい。
少しだけ照れ臭くなり頭を掻くとアデリーが部屋から出てきて、下半身も目に入ってしまう。
……よし。
さっさとアイーシャと御飯だっ!
「じゃ、行ってきます! あ~……晩御飯までには戻るから。」
「は~い。いってらっしゃい。気を付けてね。
……あぁ。そうそう。ニオイは覚えたからね。」
ん……?
振り返るとニコニコしながら手を振っているアデリー。
その笑顔にテンションが下がっていくのを感じずにはいられなかった




