36話 清算と買い出し
本日2話目
「一眼レフは分かりました。が、ゲームとソフトと時計は流石に無理があると思いますが?」
「必要経費なんです。それがある事で良い写真が撮れるんです。
子供の笑顔を見たでしょう? 3000円のゲームと2000円のソフトであの笑顔が買えたんですよ。逆に言えば無ければあの写真は撮影できなかった。時計も同様です。
あんなに沢山の人達の写真を撮って、その小道具の経費が1万円って安いと思いませんか?」
「はぁ、そうなのですか。でも私はそもそも写真に小道具を使う必要があると思っていませんので。なので、今回は一眼レフの金額のみ経費とします。」
「ぐぬぬ。」
今のところ写真は売れて……る。
というよりも加藤さんが値段的にもうちょっと上げておいた方が良かったという設定にしてしまったらしく、そんなに利になっていない。
が、ばら撒き宣伝だと思えば良いと思うし、戦略として100点満点じゃないですか? と褒めておだて、今回持ってきた写真から値段を高く設定したら良いんじゃないですかとアドバイスする事にしたのだ。
で一通り持ち上げてから、購入した物を経費で清算をしようと思ったけれど『待った』がかかった。
まぁ、一番高い物の清算ができるだけマシと思う事にした。
「そうそう社長。『モデルさんを貸してください』って問い合わせにはどう答えたらいいですか?」
「無理なので、お断りの形で返答してください。
ただ……そうですね…商品を持たせたり、着せたりの撮影はできるかも……いや。着せるの本当に可能か? いや、めんどくさいな。うん。
そういった類の質問は一律お断りの方向でお願いします。」
「分かりました。」
一眼レフ分の現金を貰いながら確認を進める。
「……ねぇ。加藤さん。
中世のイケメン写真集とかって感じで冊子作ったら売れないですかね?」
「ウチは出版業務は無いですよ?」
「いや、そんな本格的なヤツじゃなくて、ネットの印刷屋でカタログっぽいの作って、そのカタログをネット販売とかオークションとか出すって感じ。 それなら原価も知れてるじゃないですか?」
「……まぁ、確かにそれなら可能は可能ですね。」
「写真データだと人気が出たら結局コピーが出回って海賊版の対応できないし、そっちに舵取りしてもいいんじゃないかなって思うんです。どうでしょう?」
「私としては、どちらでも問題ありません。ただ確認は社長が取ってくださいね。」
加藤さんはチロリとオバちゃんを見る。
つまり『上の許可はお前が取れ』だ。
剛腕オバちゃんの所に行く。
「30万くらい予算をつけてもらえませんか? 写真集を作って売りたいんです。」
「へぇ。写真集?」
オバちゃんは加藤さんに目線をやる。
加藤さんは首を横に振った。
「却下。」
俺は加藤さんをジト目で見るが、加藤さんは素知らぬ顔。
「じゃあ、今加藤さんに取り組んでもらってるやつで、30万円くらいの利が出たら、それをまるっと予算にください。」
「うん。それならいいよ。
ただ加藤ちゃんの稼働分として、40万円の利が上がったら許可ね。」
「ぐぬぬ……まぁ仕方ないか。ありがとう。
じゃ、とりあえずもっと写真撮ってくるわ。」
「うん。なんかわからんけど頑張ってきなさいね!」
「じゃ、加藤さんも引き続きよろしくお願いします。」
「はい。」
早々に会社を後にする。
アデリーに『遅くならないように』と約束してしまっていたから、レシートの現金化が終われば早々に買い物を終わらせなければならない。
今から買い物する分の現金は十分に確保できた。さっさと買おう。
しかし……加藤さんはシビアすぎる。もうちょっと緩くしてほしい。
そりゃあ加藤さんの心境もわかるよ? 普段プラプラしてる給料泥棒みたいなヤツが、いきなり来て余計な仕事を押し付けていくんだから、面白いワケがないよな。
どちらにしろ異世界の商材で利を生み出すまでは、会社内での弱い立場は変わらないだろう。
もっとドカンと日本で売れるような物があるといいんだけどな。
ま……今、無駄に考えても現状は変わらない。行動あるのみ。
まずはお腹が減ったので、とりあえず牛丼を食べよう。
牛丼屋に入り、牛丼を食べながら思う。
……肉が弱い。
オークならもっとこうガツンとくる!
ワイバーンとは比較するのも烏滸がましいにも程がある! と。
異世界メシ……結構美味いもんな。
だいぶ異世界に毒されてるのを感じつつ、牛丼をかっこみ買い物に向かう。
大規模輸入量販店の酒屋に向かい、4リットルの大容量ウイスキーと約3000円のブランデー、600円のワイン。乾燥パスタ1kgを10袋、20個入りお買い得チョコを棚にあった全部の8袋購入。
電機屋に向かい手回しLEDランプを5個、スーパーで歯ブラシ10個と卵を4パック購入。
ついでに100均で手紙用の封筒も購入。
家に帰ると3時だった。
……良かった。
アデリーがキレなくて済みそう。
さすがにあの拘束はしんどい。それにコワイ。
スペシャルギフトで何かしら能力を手に入れるまでの我慢だ。頑張れ俺。
少し家でダラっとしてからPCで勇者宛ての日本語の本文を飾り枠にして手紙を2部作成し、異世界言語はギルドのウサミミビッチに書いてもらうから枠だけでOKだ。PCの起動ついでに失語症について調べてみた。
「へぇ。失語症って障害なんだ。」
ネットの辞書を読み進めオーファン達は『失語症』ではない事が分かった。
簡単にまとめると『失語症』は脳の障害によって起きる『話す』『聞く』や『読む』『書く』の理解が難しくなったりする事とある。
オーファン達は『聞く』事が出来ていたが『話す』事が出来ないだけなので当てはまらない。
関連する項目の『失声症』を調べると、こっちの方が相応しいことが分かった。
『失声症』は心的外傷で話せなくなる事だ。
治療を見るとカウンセリングや服薬の他に『箱庭療法』があった。どうにも専門的過ぎてよくわからないが『遊戯療法』の一つらしい。
遊戯療法を読み、なんとなく治療法をまとめると、しっかりとした信頼と温かい関係を築きながら、遊びを通して心を溶かしてあげよう。って事だと思う。
オーファンの家の山羊のお姉さんはとても優しそうだったし、多分それをしているように思う。
優しく見守り助けている。道案内してくれただけだけれど、それだけでも人となりは分かる。それにそもそもニアワールドは善人が多い。
間違いなくそういった療法は自然と実施されているはずだ。
「それなのに全員が未だ喋れない? ……なんかおかしいだろ。」
ニアワールドは善人が多いが、モンスターも居るし悪人もいる。
現代日本程安全なワケでもなく便利さもない。決して優しい世界ではない。
ただ、それにしても何か違和感を感じずにはいられなかった。
ふと時計を見ると16時。
「おぉっと!」
気を取り直し、俺はパスタを500g茹で始めた。




