35話 中央広場の展望
中央広場に戻ったはいいけど意外なほどに人が多いのね。昼前も結構賑わうんだなぁ。
屋台を横目で見ながら声をかけられるのを待とうと思ったけど、掻き入れ時に商談なんかできないだろうし邪魔になるかもしれないから、13時とかその辺に来た方が話しかけてもらえそうな気がする。
じゃ、今はオーファンを盗撮しながら屋台を見るだけ見よう。
オーファンを探しながら、プラプラと屋台の品も見回す。
……野菜はトマトが多いよな。
パンが主食だけど、パスタもありそう……って卵が意外と高い。ふむ。
腕を組みいつものポーズをとる。
だとしたら乾麺も売れるか? 日本だと安く買えるし、ついでに仕入れてみるのもアリだな。
小麦とジャガイモはニアワールドで主食として充分に出回っているみたいだし、可能性としては無きにしもあらずだよな。
あ。卵と砂糖を持ってきて、クレープ屋台とかで売り出しても結構人気でそうだよな。
長期の目標としては、ニアワールド内で仕入れから販売まで完結する商売を作り出して回すこと。コレができたら100点だ。
チョコの感動っぷりを見るに、砂糖は高いのかもしれないし、物語上で蜂蜜酒とかの表現はあった気もするから蜂蜜が身近な甘味なんだろう。
小麦と蜂蜜と果物があれば、デザートは作れそうだけれど、人目を引くような甘味というよりは馴染みのある素朴な物しかできないだろうし……ん?
そういえば、牛の存在を見てない気がする。肉はモンスターばっかりだし……牛乳やバターとかはデザート作りにおいてはかなり重要だ。
ご飯でチーズは出てきたし、きっと牛がいる事はいるんだろうけど……食肉よりも乳牛に特化してるのかもしれないな。だとしたら、やっぱりクレープ屋だったらニアワールド内で完結できるよな。
うん! クレープ屋!
ニアワールド内で仕入れ・製造・消費までまわせる消費者向けのビジネスとしたら悪くないように思える。
昼にこれだけ人が居れば採算もとれそうだし。
活動資金がたまったら、この辺でクレープ屋を誰かにやらせることにしよう。
肉入りにしてランチ向けの豪華なクレープにしてもいいし、蜂蜜を塗るだけのシンプルな物で安くしてもOK。生クリームをたっぷり使ったデザートにしてもいいし、生クリームの保管が難しけりゃ、バタークリームでもいい。 ……いや、むしろ保存と利便性を考えたらバタークリームだな。
朝昼夜。どのシーンにも合う。
うん。いいな。
となると、やっぱり異世界で日本の品を売買して活動資金となる元手を早々に集める必要がある。
今取り扱っているのはチョコやランプ、靴下に歯ブラシだ。この中だと、かろうじてランプが衛兵向けでブライアンが営業かけそうだから数が出そう。
数が動きそうな商品を考えてみると……『屋台』のヤツラが喜びそうな物を売りつけてもいいわけか。
折り畳み式プラスチックケースとか収納関連グッズは確実に見れば欲しがるだろう。木箱なんてなかなかに場所をとって邪魔だ。
ただ、お値段的に銅貨6枚とかで売る事になるだろうから、そうそう売れるか怪しいけどな……屋台のヤツラに売る物……屋台のヤツラに売る物……
ブツブツ呟きながら考えていると、お子様軍団が俺を指さしているのが目に入った。
あ゛っ
うっわ。動くの超早え。
盗撮も難しいわ。
「「「 チョコレートください! 」」」
「あ~。はいはい。
ちょっと待ってなー。」
一眼レフを用意し撮影しながらチョコを渡していく。
いーよーいーよー。加藤さんまた鼻血出ちゃうよー。擦れてない笑顔っていーねー。
「ありがとうおじちゃん!」
「ははは、いいんだよ。」
よーし。『おじちゃん』と呼んだお前にはもうチョコはやらん。
こっちには写真で残るから、顔は忘れないぞ?
数人が集まり始めると、わらわらと次から次へとやってきて、あっという間に13個のチョコが消えていく。大分減ったので、ここらで切り上げて自宅へ帰る事にした。
「ねぇ。黒髪のお兄さん。」
「はい?」
あぁ、いつぞやの谷間の人。
あ。違う……えっと、魔法の巻物のお姉さん。
「あぁ、お久しぶりです。」
「図々しくてちょっと恥ずかしいんだけどさ私にもやっぱり1つもらえないかな? そのチョコレートって菓子。」
子供が食べてるのを見て安心して興味が涌いたんだろうな。
いいですともいいですとも。
屋台の見知らぬオッサンにやるより、美人に食べてもらえる方がこっちも嬉しいですとも。
「いえいえ、良かったらどうぞ。
前とはちょっと種類が違いますけど、これはこれで美味しいので……今日はもう残り少なくなってますし、鞄を空にしたいと思ってたので貰ってくれると嬉しいですよ。」
残っていたチョコ7個を鷲掴みにし、谷間のおねーさんに渡す。
「おっとっと……って、こんなに貰っちゃ悪いよ。」
「いえ。なんせ帰れば売るほどあり余ってるので遠慮なくどうぞ。」
「そうかい? ありがとうね。」
チョコを開けて食べる谷間のお姉さん。
「っん~~!」
はい。『んー』いただきましたー。
口でコロコロと転がして楽しんでいるようなお姉さん。
うんうん。美人が喜んでいる姿は絵になるねぇ。よし盗撮だっ!
「よう、アニ。俺にもちょっと分けてくれよ。」
隣のアクセサリーを売っているお兄さんが谷間のおねーさんに声をかけている。
谷間のおねーさんはアニと言う名前らしい。
『兄』とごっちゃになりそうな名前だな……
アニはちらりと俺を見ている。
これは『やってもいいか?』的な問いかけだろう。
「もう差し上げた物ですし、ご自由にどうぞ。」
アニは軽く笑顔をくれた後、目線を隣の兄さんに戻した。
「はぁ~。仕方ないねぇ。一生恩に着なよ。ハイ。」
「おい、アニ俺にも」
「ねぇ私にも。」
隣の隣の屋台や、後ろの屋台からもアニに向けて声が次々とかかっている。
……俺ってもしかしなくても声かけにくいのかな? と思いつつ、なんとなく次につながる布石が打てたような気がしたので「ちょっと、私の分がなくなるでしょ!」とキレかけているアニに軽く一礼して中央広場を後にしアデリーの家へ向かった。
途中、雑貨通りでアイーシャが居るか店を覗いたけれど、ブライアンがアイーシャに贈る時計を遠巻きに見ているだけだった。どうやら今日は休みなのかもしれない。
……なんかブライアンが壊しそうだなと思いつつも、壊したら恩に着せて色々売らせまくろうと、こっそり思いながらアデリーの家に向かう。
アデリーの店はお客さんの姿は見えなかった。
昼メシの準備で奥様方は何だかんだで大忙しだろう。
「ただいまー。」
「おかえりー。」
2階からアデリーの声が返ってくる。
……おっ? コレっておかしくね?
自分で言ってなんだけど『ただいま』っておかしくね?
住処見つけてどっちに住むか決めたら、行き来できなくなるんだったと思うけど、コレすでに住処って事になるんじゃね?
「今の無しで!」
「え? なにが?」
「おじゃましまーす。」
「……ん?」
2階に上がると、アデリーが作業部屋から顔を出して俺を見ている。
沢山の人と会った後だと、やっぱりアラクネの白目なしと複眼結構怖いです。
「ねぇイチ。なんで言い直したの?」
「えーっと。……おまじない。」
納得いかない顔をしつつ、まぁいっかと作業場に戻るアデリー。
「あ、そうそう。アデリー。
俺今からアッチに行くから、ちょっと色々買いたいし。
夕食に間に合わないかもだから宜しくね。」
作業場から出てくるアデリー。
「なぁに? イチ。
聞こえなかったから……もう一回言って。」
「え? だから夕食――」
「なぁに?」
ニッコリ笑うアデリー。
「……できるだけ早く戻ります。」
「そう。気を付けてね。」
なんていうか、もうホラーだよ……この蜘蛛。




