29話 アラヤンデレクネ(初期)
本日2話目
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…………おーけー。
……ちょっと落ち着こうか。アデリー。」
ものっそい力で抱きしめられているので右手をなんとか動かしアデリーの上半身の手の届く所をペチペチと叩く。
ペチペチがペシペシ、ベシベシベシに変わった頃、ようやく抱きしめられている力が弱まりアデリーが俺を見た。
泣いている。
というか、これまでもかなり泣いていたんじゃないかと思うような顔をしている。
俺の顔を見て、また白目の無い目がウルウルとしだし『あっ、泣くな』と、わかる顔。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
またもギュっと力強く抱きしめられ、またもかろうじて動く手でタップしながら喋る。
「ぎ、ギブアップ!」
しばらくアラクネベアハッグ解放されなかった。
……一体何がどうしてこうなった?
昨日の先輩お姉さんエロ余裕ですキャラはどこへ行ったんだ?
スンスンと未だに鼻をすするアデリーの頭を撫でながら落ち着くのを待つ。
「あ、あのね。
あ、朝はね。
イチがね
来たらね
ちょっとね
怒ろうとね
思ってたの。」
「うんうん。」
「でもね。
昼過ぎてもね。
来なくてね。
どんどん不安になってね
もしかしたらね
もう来ないんじゃないかと思ったの。」
「うんうん。」
「なんで来ないかね
考えてたらね。
わたし、
わたしね。
嫌われるくらいにね
ひどい事しちゃんじゃないかと思って。
そしたらね。
悲しくって」
「ただ遅れただけだよ。ゴメンね。」
「イチーーーーっ!!」
「ギブギブっ! ギブアップ!!」
おおう。このアラクネ。
とてもめんどくさい。
会って2~3日しか経ってない相手にどうしてここまで固執できるんだ?
「って、もしかしてだけど、ずっとここで待ってたの?」
「……うん。」
「仕事は?」
「……イチが気になって。」
あぁ。すげぇよアデリー。
ヤンデレ属性舐めてた。
というか……まだ本領発揮してないだろうに、このヤンデレベルって……うわぁコエー。アラクネもコエーけど、ヤンデレもコエー。
「あのさ。アデリー。
仕事はちゃんとしなきゃダメだと思うんだ。」
「イチがそう言うんなら……ちゃんとする。」
「ご飯は?」
「……食べてない……きっと店に置いてってくれてると思う。」
店を見に行こうとしたら、アデリーに抱きしめられる。
「ヤダ! 今はまだどこにも行っちゃヤダー!」
「あ。はい。
じゃ、とりあえず一緒に移動しようか。」
嘘でしょう?
一緒に移動しようとは言ったけど、俺が抱きしめられたまま持ち上げられて移動してるんですけど? お姫様だっこされてるんですけど? ……アラクネ強ぇ。
店に行くとトーリさんが居た。
アデリーに抱きしめられている俺を見て口に手を当ててニヤニヤしている。
「あらあら。持ってきた御飯が減ってる様子もないし心配してたけど。うふふ。そういう事だったのね。 お邪魔しました。」
どういう事でしょうね?
ニヤニヤしながら帰っていくよ。トーリさん。
アデリーもトーリさんの様子を見て少し冷静になったのか、俺を抱きしめるのをやめて地面に置き、しばし無言の時が流れる。
「……えっと…その。なんだかごめんなさい。イチ。」
「いや、なんかもういいけど。今日は謝ってばかりだなアデリー。」
笑うしかなくなって笑うと、そんな俺を見てようやくアデリーも笑った。
ご飯を2階に運び、とりあえず自宅に置きっぱなしにしてある卵やご飯と靴下を取りにもう一度戻ろうとしたら、微妙にジャージの裾を掴まれる。
とりあえず掴まれたまま上半身だけ自宅へ突っ込み必要な物を取りだして卵を渡すと、またギブアップハグを味わうハメになった。
ニアワールドと日本を繋ぐ扉については、俺が一度空間に触れた後に何もせずにしばらく放置すると消えるようで、消えるのを確認した後一緒に食事をとる事になった。
アデリーは終始微妙に従順な雰囲気になっていて、とりあえずセックスについては『お互いの合意の上でしましょうね』と同意を取ると、それを守る引き換え条件として、
「今日だけは泊まっていって欲しい」
と言われ、不本意ながら異世界初の宿泊をする事に決まった。
まぁ、住処ではないし知り合いの家に泊まるだけだから神様の提示した扉が使えなくなる条件は満たしていないから大丈夫だろう。
さて食事……と思えば、アデリーがなぜか横にぴったりくっついてきるじゃないですか。なんなのこの蜘蛛。
理由を聞けば
「今日はイチがこっちに居なかった分イチ分を補給してるの。
今日しっかり補給すれば明日にはいつも通りに戻れると思うの。」
と涙目。
…………
うん。わからん。
心底ヤバイやつを協力者にしてしまったと思わずにはいられない。
食事を終えると、寝るには早いけれど特にすることもないし、このまま何かしていると約束があるとはいえ襲われかねない気がするので早々に休むことにした。
就寝準備の勝手がわからずアデリーに教えてもらうと、歯ブラシの代わりに専門の木の枝を使用しているようで、これまた使い方がわからずに首を捻っていると、アデリーが俺をひょいと俺を仰向けに寝かせ、アデリーのお腹に俺の頭がくっつくように前足で器用に俺を固定し、アデリーが俺の口に異世界歯磨き術を実践してくれた。
つまり。
俺の視界はおっぱいで塞がれている。
まったくもう。なんて刺激の強さか。
ただひたすら目の前の視覚と感触の刺激に耐えながら、必死に歯ブラシも売れそうだなと、おっぱいと関係ない事を考える。
うん。この木の枝だとこれだと隅々までは洗えない。たわわわ。
そして俺の歯を磨いた枝をそのまま嬉々として使っているアデリー。
俺はそっと見ないふりを決め込んだ。
トイレも気になったが、トイレについてはアラクネ自体がそんなに排泄をしない生き物らしく、ほぼ使っていないという事だった。
下水道が完備されているので、それなりに発展してはいるが下水に直接つながっているタイプのトイレなので、流石に使うのをためらい、アデリーに頼み込んで一度自宅へ帰らせてもらった。
15分もかからずに戻ったつもりだったが……すでにアデリー半泣き。また右手タップする運命が待ち構えていた。
微妙に精神的にも肉体的にも疲れながらアデリー特製ハンモックに横になると、アデリーも器用に上半身を俺に寄り添うような体勢で横になる。
上半身だけしか目に入らないと本当に絶世の美女と言っても過言じゃないくらいにキレイなんだよな。アデリー。
アデリーを見ていると、アデリーも俺を見ている。
少しだけ懇願するような顔でしゃべり始めた。
「ねぇ。イチ。
私イチが嫌がるような事はしないから……これからも傍に居てね。」
……答えようがネェッス!
イヤ。って言ったらポリポリされるかもじゃん!
イエスって言ったら地獄が幕を開けそうだ!
アデリーを見ると『なんか答えてください』的な目をしている。
内心だらだらと汗を流しながら悩みに悩んだ末。
俺はとりあえず微笑んでアデリーのおでこにキスをして
「オヤスミ」
と言って目を閉じる事にした。
するとアデリーがそっと俺を抱きしめて、それ以降の会話はなかった。
…………
……返事せずに誤魔化すには、こうするしかねぇだろ!? どうしろってんだ!




