160話 アデリーとの闘い
本日2話目
観客のいないDGファイトの会場。
考えに考え、悩みに悩んだ末に選んだ場所。相応しい場所はここ意外に無かった。
万が一の場合も考えニアワールドの事はムトゥと、こちらに来ている結香子と加藤さんに託し、日本に残ると言ったサリーさんには、日本の俺に関わる事や新世界の風の残った事務員や勇者の事を託し、サリーさんのフォローはマドカに託した。
大事な要になる人達には、きちんと話をしておいた。
もし、俺が死んでしまったとしても問題が無いように。
――石造りの闘技場の上にただ立ち、アデリーを静かに待つ。
やがて、いつも応援してくれていいるVIP席にほど近い観客席の方からアデリーが入ってくる。
手を振るでも声をかけるでもなく無言のまま闘技場に近づいてくるアデリー。
察しの良いアデリーの事だから、勇者のパーティメンバーであるラザルと対決できるほどに力を得ている事が露見し、それから急速に権力を手にし始めた俺が何を考えて呼び出したのか察しがついているのだろう。
ようやく履きなれたハイヒールの音だけが会場に響く。
そしてハイヒールの音が石造りの闘技場を鳴らす音に変わる。
「呼び出して悪かったね。アデリー。」
目を開きアデリーを見つめる。
「来たくは無かったわ……イチが何かよくないことを言いそうな気がするから。」
悲しそうに。
それでも目を逸らすことなく俺を見つめるアデリー。
「流石アデリー。よくわかってらっしゃる。」
俺の言葉に耳を貸さないように、パッと顔を明るくし手を叩くアデリー。
「そうそう。公爵だなんてスゴイわ。流石よイチ。
もう、やっとお祝いが言えたわ。」
「あぁ、ゴメンね。
かなり急いでたから全然顔を合わせる暇が無かったよね。」
「そうよ。本当にヒドイんだから。寂しかったわ。」
「ゴメンゴメン。」
フフフと笑うアデリー。
同じく笑う俺。
「でも、また急にどうして公爵なんて地位を手に入れようと思ったの?」
「いやぁ、俺ってかなり欲深いみたいでさ。
やっぱり大きな権力ってのも憧れちゃったのさ」
「ふふ。イチは本当に欲張りよね。」
楽しそうに笑うアデリー。
目つきが変わる。
「……でもそれだけじゃないんでしょう?」
「もちろん。
ん~~……俺の中でのスジを通すために必要だったってのがデカイかな?」
「あら? それは初耳ね。
どんなスジなのかしら?」
「それはまだ内緒。」
「私に隠し事なんて……ふぅん。
……イチ変わっちゃったわね。」
「俺は変わってない……とは言えないか。
かなり変わったよね。もうとことん人間離れしてると思う。」
「そうね」
「まぁ、変わったついでに欲深い俺はさ、もっともっと色々欲しくなるわけさ。」
おどけた雰囲気から、ソレを許さない真剣なものへと変わる。
「俺はさ、アデリー……君のハーレムを抜ける。」
「あら。いいわよ。」
アデリーはなんという事はない風に受け流す。
「だって、そもそもイチの為に作ったハーレムだし、私は女の子が好きなワケじゃないんだもの。
私にハーレムなんて必要ないわ。」
アデリーが真剣な目をする。
「私はイチさえ居ればそれでいいんだもの。」
「あぁ、そうだったね……俺は君の物なんだっけ。」
「ふふっ。そうね。私の大事なイチよ。ね?」
「じゃあ言葉を変えるよ。」
アデリーの首がコキコキと横になっていく。
「ダメよ。イチ。
それ以上おかしなことを言っちゃ。」
「俺は……」
「ダメよ。絶対。」
「君の……」
「ワタシ、どうなるかわからないわ。」
「物じゃないっ!」
立っていたアデリーから大量の糸が放たれる。
その糸の量は膨大で避ける事は不可能と判断できた。
火の魔法で大壁を作り、迫る糸を燃やしきる。
すると火の壁を割り、怒りに燃えたアデリーが襲撃してくる。
「私の物にならないって言うのなら! アナタを殺して私も死ぬわっ!」
アデリーが放つ毒手を躱し、風魔法で距離を取る。
「やってみろアデリーっ! それを出来ないようにする為に俺は力を手に入れたんだっ!」
俺の言葉を聞き、アデリーは言葉にすらなっていない絶叫を発しながら追撃を始める。
ソレを同様に躱し続ける。
「なんでっ! なんでなのぉっ!?
私はただ愛し愛されたいだけなのにっ!!」
「よく知ってるさっ!」
右手から金色の糸が放たれ躱す。
ナディアと違い糸を練る時間をそれほど必要としないことに驚く。
「私はっ! こんなにっ! アナタを愛してるのにっ!」
「それも知っているっ! アデリーに愛されている事はよく分かっている!」
また俺を捉えようと左手から金色の糸が放たれ、躱す。
「なら、なんでっ! なんでなのっ! なんで私を拒絶するのよぉっ!!」
アデリーの張った金の糸の色が毒の色に染まる。
かなり魔力を込めて炎を糸に向けて放つと糸が切れ、アデリーはその糸をムチのように使い、毒の糸が襲い掛かってきた。
「始まりが君に対する恐怖! 恐怖による『支配』だったからだっ!」
土の盾を幾つも作りだし毒の糸を防ぎ、風魔法で操りながら糸を火魔法で焼切っていく。
「俺はもうアデリー! 君を『怖い』と思わないっ!」
毒の糸をアデリーが手放す。
アデリーの攻撃は俺の手で次々と無効化され、アデリーの目には涙が溜まっていた。
「……なんで……これまでもうまく…一緒にやってきたじゃない。
……なんで今更…そんなことを……」
「……すまない。でも、俺のケジメ。
俺の我儘なんだ。」
アデリーは両手を合わせ、何かを練り続ける。
俺を睨むその目からは涙が流れ、石の闘技場に落ちた涙が染みをつくりだす。
そして手の平を俺に向けた。
「私は……こんなに愛してるのに……
何故誰も愛してくれないのよぉーーっ!!」
向けられた手の平から、金の大網が放たれる。
それは蜘蛛の巣がそのまま襲い来るようで、その大きさから逃げ場などありはしなかった。
確実に俺を捉えた金の糸。
アデリーの表情が喜色に変わる。
――だがその糸は、俺をすり抜けていった。
アデリーが俺だと思っていた物が糸と衝突した衝撃で霧散する。
それは水魔法と氷を使った幻影だった。
アデリーはガックリとその場に崩れ、膝をつく。
力の差。
アデリーが俺を捉えることが出来ない事を実感したのだ。
そしてその場で、ただただ泣き始めるアデリー。
アデリーの後ろにいた俺は、声をかける。
「アデリー……俺の我儘につきあわせてゴメン。」
俺の言葉を聞かないよう耳を押さえ首を振るアデリー。
その姿はいつかどこかで見たような、子供がイヤイヤと駄々をこねているように見えた。
そんな初めて見るアデリーの姿に、俺はつい鼻を鳴らす。
それは決して侮蔑でも勝利の余韻に浸っての蔑みの感情ではない。
単純に可愛く見えただけなのだ。
一つ息をつき、口を開く。
「アデリーは、一つ思い違いをしているよ。」
何も聞くまいとイヤイヤを続けるアデリー。
そんなアデリーに聞こえるように塞ぐ手をとり声を張る。
「俺は誰よりもアデリーの事を愛しているっ!」
静寂――
アデリーのイヤイヤが止まる。
涙も止まり、ただ驚いたように俺を見るアデリー。
その顔は聞き間違いだったのかどうかを確認したがっているようで、目が左右に泳いでいた。
「本当だよ。
俺はアデリー。君の事を誰よりも愛している。」
「……じゃあ……なんで……こんなことを」
俺は、恥ずかしそうに頭を掻く。
「ケジメっていうか……なんていうか。そんな感じ。」
アデリーに笑顔を向ける。
そんな俺を怒るようにアデリーが続ける。
「私の物じゃなくなるって言ったじゃないっ!」
「うん。対等な関係になりたかったし。」
ポカンと呆けるアデリー。
その様子を見て、慌てて続ける俺。
「だってさ!
アデリー出会ったころから強かったし、俺がアデリーを怖いって思ってたのは事実じゃない?
それにさ、アデリーだって俺がアデリーを怖がってるから、アデリーの事を好きなフリをしてるって感じてたんじゃないかと思うんだ。
不必要なハーレムだって俺を繋ぎとめる為に、本当はイヤだけど頑張ってたんでしょう?」
「そ、それは……そうだけど……」
「だから、そうじゃないって事を。
アデリーが怖いから好きなフリをしているんでもなく。
本当にアデリーが好きで、愛しているからココにいる!
アデリーと離れたくないから隣にいるんだって事を知って欲しかったんだ。」
アデリーは言葉を噛みしめ、そしてまた涙ぐみ始める。
そんなアデリーを見て姿勢を正す。
「愛してます。
アデリー。心から。」
アデリーが、また涙をこぼし始める。
「次は、俺がアデリーの物になるんじゃなくて、
……アデリーが俺の物になって欲しい。」
アデリーはコクリと頷く。
何度も頷いた。
その表情は、涙をこぼしながらも笑顔だった。
「これからも俺と一緒に。
いつまでも俺の隣に居て欲しい。
だから、
俺と結婚してください。」
アデリーは泣き。
ひたすら涙をこぼした。
やがて
「――はい!」
と、笑顔で答えた。




