15話 さぁ、名を呼ぶが良い『チョコレート』と
「さん、ハイ!」
「「「「「 チョコレートください! 」」」」」
「よくできましたー。はいみんな並んで~。」
透明のセロファンに包まれた安いチョコを持ってきていて良かった。本当に良かった。
全員に一個ずつ渡した後、男の子と女の子の数を数えてみる。
男の子4人と女の子5人か。
ちなみに昨日の奥様集団にいたのは4人で、そのうちここにいるのは2人だ。
って事は、もしかすると20個くらいは用意しておいた方がいいかもしれない。
後、いつ打ち止めにするかも結構重要だな。
まぁ。単価としては安いし、チョコの卸売はじめてからしばらくはチョコの宣伝で続けたらいいだろうから、辞め時についてはまだ先の話か。
ん?
「……せーの」
「「「「「 チョコレートください! 」」」」」
おおっと! オカワリかっ!
……それはダメ。
「ゴメンね。みんなに配れるのは1日1個だけなんだ。
お兄ちゃんの食べる分無くなっちゃうからね。ゴメンね~。」
あからさまに残念そうだな。流石子供。
不平不満も容赦がないな。うん。
……でも文句言い続けると、その子には二度とあげないぞ?
もちろん不細工って言ったヤツには絶対あげない。二度と上げない。
俺の心は驚くほど狭いんだ。フフフ。
って、もらえないとわかると散るのも早いな。
流石子供。
いきなりぽっつーんとなると、ちょっと寂しいぞ。
軽く息を吐きつつ、辺りを見回す。
よしよし。中々注目されてる。
こりゃあ、早ければ明日にでも声をかけてくる商魂たくましいヤツがいるかもしれないな。
「あ~~…キミ。
キミは一体何を配っていたのかね? 子供達に。」
お? 思ったより早いな。流石の商売人。
「チョコレートという菓子です…よ゛っ」
振り返り思わず息を飲む。
……衛兵さんでしたか。
あ。
俺なんか……まずい事した?
「ほう。菓子か? そんなものを……無料でばら撒くとは思えんが?」
「いえいえ、実は一昨日にこの街に入った時に、お子さん連れの奥様方に大変お世話になりましてね。
で、昨日再度お会いした際にチョコを配りましたら、いたく気に入られたみたいでして。はい。
まぁ、私も手持ちのチョコがそれなりの数がありましたもので、また欲しくなったら声かけてね……と、安易に伝えた結果が、さっきの光景になってしまいました。」
「ふむ……まぁ、納得はできると言えばできるが……しかしなぁ……」
「良かったらおひとついかがです?
包みは取ってから食べて下さいね。」
安い方を渡す。
だが、衛兵は手に取るが食べない。
「まぁ、危ない物でもないようだが、念の為コレは調べさせてもらおう。
名前を確認したいからギルドカードを見せたまえ」
ちっ! 賄賂チョコくらい受け取って食えよ。
てゆーか、ギルドカードねぇよ! やべぇ!
腕を組まずに、右手を顎に当て短めに考える。
よし。
善人を信じて正直に言おう。
「あ~すみません。自分ギルドカードを持っていないんです。
作ったことも無いので。」
「………ん? ……それは……ふむ。」
おー、おー。怪しまれてるねェ。うっわ。こわいよう。
「……ならば、私とギルドに行き作れば良いな。」
「あ。助かります。」
ラッキー。
名前確認したいだけみたいだし、ガイド付きで作れるなら楽だわ。
「うむ。ではついてきたまえ」
「あ、そうそうチョコをずっと握ってると体温で溶けますからね。
美味しくなくなるから物入れにでも入れておく方が良いですよ。」
「うむ? そうか?」
衛兵と移動を始める
--*--*--
ケモミミーーー!!!
ウサミミーー!!
モフリたいモフリたい。
ハミハミペロペロしたいよう。
ハァハァ。
衛兵が横にいるけど、もうどうでもいいわ。
ウサミミ獣人可愛いよハァハァ。
「聞いてますか?」
「あ、はい。確かオーブに手を当てればオッケーなんですよね?」
「まだ、そこまで話してません。
……ご存知なのでしたら先に仰ってくださいね。お互いに時間を無駄にせずにすみますので。」
おっと、手厳しい。
まぁ、物語の序盤で主人公がギルド登録する流れでレベル判定のオーブに触れたら発光を通り過ぎて爆発して大騒ぎになったストーリーだったから、ちゃんと覚えてますとも。
しかしこの冷たい対応。
……衛兵に連れられてくるヤツなんて大抵ろくでもないだろうし仕方ないわな。
ウサミミさんの俺の印象は、初見の印象が悪くなったから、マイナスを取り戻すのは大変そうだ。
ウサミミはむはむができる日は遠い……か。
哀愁漂う遠い目をしていると、ウサミミさんがカウンターにボウリングが出来そうなオーブを持ってくる。
「はい。じゃあこのオーブを両手で触れてください。」
両手で触れる。
…………………光って…………る? かなぁ?
光ってるよね? 多分中心。うっすらと。
ね? ね?
ウサミミさんをチラ見すると、なんとなく鼻で笑ってる顔だよね?ソレ。的な顔をしている。
「では、お名前を。」
「『イチ』です。」
「お疲れ様でした。」
両手を離すとウサミミはオーブに触れて、魔力っぽい何かを引っ張り出して、手元のカードにソレを封じこめていく。
「はい。どうぞ。
何かご依頼があれば、また。」
ウサミミはすぐにそっぽ向いて仕事に戻り始める。
おいおい。ちょっと冷たくねェ? っていうか、イチって偽名なんだけど? 通るの? と思いつつウサミミを見ているが、梨の礫だ。
たまらず衛兵に目をやると、まるで可哀想な物を見る目で俺を見ていた。
「えっと。なんだ。名前は確認させてもらった。
そのなんだ。 まぁ、戦えないのは悪いことじゃないさ。気にするな。うん。」
……あぁ。そういう事か。
弱いのね。俺。
で、半端じゃなく弱いから、超小物。
超小物が悪いことしたとしても高が知れてるから安心したって事か。
……まぁ、元々戦う気もないから、それでいいですけど……良いよ別に!
強いヤツ、そう脳筋が好きなウサミミなんて、きっとビッチさ!
もうウサミミはむはむしたいなんて思わないんだからね!
……くそう。
ギルドを出て、ぽんぽんと肩を叩いて生暖かい笑顔をくれた衛兵と別れ、雑貨通りに向かいながら路地裏でアプリを起動し自宅に帰る。
とりあえずトイレに行き、アデリーへのプレゼントを鞄に入れて、さ、行こうかなと思った瞬間。ウサミミビッチの鼻で笑った顔がフラッシュバックする。
思わず押入れの布団に顔を突っ込み
「あーーーーーーーーーーーーーーー!!」
と思いきり叫んでいた。




