150話 アデリーの企み
本日2話目
アデリーの言わんとする事は、分かり易い。
マドカは『様々な境界を操作できる』
そして俺は『ニアワールドと日本を繋げられる』
正確には日本と繋がると言うよりは、異世界間を繋げる枠を作る事が出来る。
この枠は俺と、俺の触れる物しか通る事が出来ない。
これまでに何度もアデリーが枠に触れているが、透明な壁のような物が存在していて通る事は出来ない。
この壁を『境界』と取り、操作させようという事なのだ。
つまり、ニアワールドからマドカが居なくなればいい。
俺がアプリを起動してマドカに境界を操作させて通れるようにして
『マドカを日本に追い出してしまえ』
こういうワケだ。
だがこれは、かなりのデメリットがある気がする。
まず、第一に神様が怒るんじゃないだろうか?
次にもし神様に許してもらえたとして、歩く核弾頭色魔のマドカが日本で無双無双な事を始めて世界を滅茶苦茶にしてしまう可能性もある。
それにもし境界が操作されて無くなったら、アプリさえ起動すればニアワールドと日本を俺以外も行き来できるようになるって事だ。
そんな事になったら…………あれ?
後半は普通に楽しそうな気がするぞ?
アデリーやエイミー達と日本でショッピングとかできるって事だろ?
かなり楽しそう。
……いや、それよりもやっぱり前半が怖すぎる。
だが、待てよ。
日本からも行き来が出来るって事になるし、もしサリーさん達をニアワールドに連れてくる事が出来れば日本側の脅威に対する問題も解決できる。
もしニアワールドに来たくない人が居ても、マドカの最強パーティが日本に居れば安全なのは間違いない。
……それはそれでアリなのか?
もし境界をいじる挑戦をしたとして、考えられる問題は神様が怒ってアプリを消してしまったりして、完全に行き来が出来なくなる事。
そうなれば日本から商品が入らなくなって卸業務は廃業。
カジノや宿泊の収益に頼りきる事になり、これまでのように贅沢な暮らしは難しくなる可能性もある。
それに、マドカの目の前で俺の能力を見せなくてはいけないし、デメリットが大きすぎる気がする。
「ねっ? いい考えでしょう?」
「……うん。いい考えだとは思うけれど一旦落ち着こう。
他の最善手があるかもしれない。」
俺の回答にアデリーの首がコキコキと傾き始める。
「…………なに? ……イチはマドカと子供を作りたいの?そうなの?どうなの?」
「よーし落ち着けマイエンジェル。その目は怖いぞー。
慣れたとはいえ『あれ? 今日が俺の命日かな?』って思っちゃうぞー。」
風呂場が地獄に変わりつつ、なんとかかろうじて天国に片足突っ込んだくらいでアデリーの気を鎮める事が出来た。
が、結局マドカ対策について深く考える事は出来なかった。
そしてアデリーと風呂から出ると、そこにはとても不機嫌そうな顔をしたエイミーが待っていた。
「ご主人様……在庫切れ多発…………納品が…納品が足りませんよぉーーっ!!」
「っひぃ!」
「どれだけ……どれだけ私がアルマン商会やゴードン商会に頭を下げてると思ってるんですか~っ! 商品リクエストめちゃくちゃ溜まってるんですからねー!」
「ああぁっ!」
ただでさえマドカ絡みや俺の退行なんかで適当になっていた物流が、アデリーの監禁により、さらにたまりにたまってしまい、それに対応していたケンタウロスメイドのエイミーが切れていた。
有無を言わさずに体を拭かれ服を着せられ背中に乗っけられ、否応なく日本からの荷物の受け渡し作業に従事させられる事になった。
俺しかできない仕事なので仕方なく作業していると、もし境界が無くなれば誰でも簡単に受け渡しもできるようになるのかと現状からの逃避で思いついてしまう。一度そう思ってしまうとマドカに境界をいじってもらうのも有りなように思えてくる。
それに境界をいじって俺以外が日本と行き来できるようになれば、万が一俺がいなくなったとしても、みんな食っていける。
もちろん『俺にしかできない』じゃなくなる事は、俺そのものの価値が下がるし、最悪不要な存在となってしまうかもしれない事だ。でも、それでエイミー達が幸せに暮らせるのであれば、それも有りなんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら長時間にわたる仕入れ納品を終わらせヘロヘロになると、ようやく食事にありつけた。
ちなみにアデリーは人化したことでアリアに引っ張りまわされていたので、久しぶりにエイミーやアイーシャと一緒に食事をとる。
すると、そこに
「鰻食べにきたよー。」
と、トラブルメイカーがお構いなしにやってきた。
なにやら一度会った事で俺の気配なりを完全に覚えたらしく、一直線に警備をすり抜けて俺の所にやってきたようだ。
マドカのチートっぷりに飽きれながらもエイミーやアイーシャにマドカを紹介し、しぶしぶ日本へ鰻を取りに行く。
アポなしでの突然の来訪に対する呆れと納品作業の疲れもあり、俺の中のマドカの人柄認識がそこそこ緩い物に変わっていたので『もうスーパーの鰻でいいや』と、スーパーの鰻をレンジでチンしてもらったうな丼を持っていく。
案の定マドカはぶーたれながらも「うまいうまい」と食べはじめた。
もちろんアポイントをきちんと取ればちゃんと準備するし、急に来た事が問題だという事を誤解がないように伝えると、なぜか
「いけず~。サービスするからぁ~」
と、またも色仕掛けをされた。
だが残念ながらアデリーの監禁を経ている俺にはそんなモノは通用しない。
なんせカラッカラの上にカラッカラで疲労困憊だからな。もう俺は絞りかす状態なのだ。
ただ折角マドカ本人がいるので、アデリーの案の頭出しとして『日本に帰りたいか』を聞いてみることにした。
厳密には、物語の中の日本と俺の言う日本は違うのだろうが、それはきっと些細な違いだろう。
「帰りたいかと言われれば、それは帰りたいよ。
でも、ボクの生活圏はもうコッチになってるんだよね。
だから、もし日本に行くとしても『旅行』とかそう行った感じの物になりそう。」
ニアワールドと日本を天秤にかけるとニアワールドに傾くようだ。
俺自身もどちらか選択しろと言われるとニアワールドに傾いているのを感じるから、チートを持って好き勝手やってる勇者の意見としては納得できる。
「例えばだけど、マドカの嫁さんとか大事な人達を全員連れていけて、日本での生活基盤が全部揃っているっていう条件だったらどう?
ニアワールドのマドカファミリーの日本移住生活みたいな感じ……」
「それは……うん。楽しそうな気がするね。
……うん。 うんっ、楽しそうっ!
ただ、我ながら日本大丈夫? って心配にはなるけどね。」
「そこなんだよなぁ……自分で心配しちゃうくらいだもんな。
とんでもないことになりそうな気がする……」
「んもうっ! 失礼しちゃうなぁ。
こう見えてもボクは仲間のストッパーになる自信はあるよ?
ボク日本大好きだし。それに日本なら戦ったりだとか危ない事があるわけじゃないし。」
「俺、その日本で結構危ない目にあってきたけどね……それに、俺の周りに限るんだろうけど、他の国も絡んできてるし……そこそこ辛いよ……」
「え? なにそれ怖い。」
「いや、マドカほど怖くはない。」
「ぶー。 でもさ……そういう質問をしてくるって事は、行き来を実現できる可能性があるって事だよね?」
「ゼロではないってレベルでね。
神様が許してくれるかどうかってのも大きい。」
「あ~~神様~。懐かしいなぁ……」
「変わらず元気だよ。」
「え? 最近会ったみたいに聞こえるよ?」
「あっ……」
マドカは神様と会ったのは転生する際の一度だけ。
俺は電話ですぐに連絡が取れるし、こないだの様子を見ている限りだと、神様がここに来ることは容易にできると思ってよいはず……
ここで、ピンと閃く。
俺の問題は『マドカ』と『神様』に鍵を握られているのは間違いない。
さしあたって考えるに今一番影響が大きいのは『神様』だ。
なんせ能力の取り消しなんかが出来るだろうから何を考えるにおいても真っ先に頭を使わざるをえない。
だが……神様は『人間臭い成り立ち』だと自分で言っていた。
それに『マドカが好きだ』とも言っていた。
ならどうする?
もしかすると……
「……マドカ……ひとつ相談があるんだが……乗ってもらえないか?」
「ん? エイミーさんの境界いじりなら、すぐにでもやっちゃうよ? それ~。」
まどかの適当な掛け声で唐突に人化していくエイミー。
「いや違うから! ちゃんとした相談の方!」
「ふぇっ!? ご、御主人様!? これは一体?」
戸惑う下半身すっぽんぽんのスレンダー美人が居た。
「でも、有難うございます!!
とりあえず心からお礼言っておくよっ!」
とりあえず上着を脱ぎエイミーの下半身に巻かせてからアイーシャとエイミーを退室させ、マドカに神様について相談してみるのだった。




