14話 異世界で初の食事
「え? ……オーク食うの?」
「おう。最近じゃあちゃーんと養殖も安定してきてて質もいいぞ?」
「へ、へ~……」
ニアワールドではモンスターの肉や素材の剥ぎ取りが出来る。
人以外の生物に関しては、剥ぎ取りして『物』になった物質以外を野ざらしにしておくと、翌日にはきれいさっぱり消えて無くなるような不思議な世界だ。
モンスターの死骸に対して現実でいうところのバクテリアや微生物のような物が地中からジワジワと分解を始めて魔素へと変換し四散させてしまうシステム。
ただ、例えば剥ぎ取った革なんかを放置しても『物』として認識されて分解される事は無いらしい。流石ご都合異世界。
そして壁の外で5年程前からオークの養殖に取り組み、肉と革の供給を実験しているんだとか。
……とはいえ、オークは人型のモンスターだ。
流石に人の形をした肉は食えないよ。
ちなみに注文したのはオッサンだ。
オッサンに連れられてきた中央広場の一本裏の店で、オッサンに「おすすめなーに?」でこのざま。
初っ端ハードルたけぇよマジで。なんで異世界初の食事がオークなんだよ。
「あぁ。コレうまいわ。」
オークの煮込みは想像していたより絶品だった。
食卓に出てくる時はブロック肉に成形されているから想像さえしなければ普通に食えた。うん。
養殖タイプは臭みが少ないらしく、ほぼ固い豚肉感覚で食える。
トマトを多めに使ってあるのかさっぱりしつつも、きちんと塩味もあり長く煮込んでいるから、そこそこ柔らかい。
まぁ、普段食べる豚肉と比べると厚みも増しているせいか固く感じられるけれども顎の健康には良さそうだ。
ちなみにゆでたジャガイモを主食にオークの煮込みをおかずにして食べている。
二人分で銅貨2枚だって。
一人1000円と考えるとまぁ、そんなもんか。
肉を口に運びながら、オーナーのオッサンに色々聞く事にしよう。
ちなみにオッサンの名前はブライアンだ。メシ屋に向かう道中に自己紹介があった。
「ブライアンさん。気になっている事が色々あるんで教えてもらってもいいですか」
「んが。んぐ。 おう。いいぞ」
肉をがっついているブライアン。太目の理由がすぐにわかるくらいの食いっぷり。
「まずはじめに俺がこの街に来る時、ジャイアントに襲われかけたんですけど、あのモンスターはよく居るんですか?」
「あぁ。それは災難だったな。
………ていうか、なんだ? 一人で旅してるのか?」
「えぇ……まぁ」
「なら腕に覚えがあるんだろうし、ジャイアントくらいどうって事もねぇだろう?」
おや? おかしいな。
ジャイアントが倒せるように聞こえるよ?
「えっと。すみません。
俺は戦うのは苦手で逃げ足で生き残ってるんですけど、ジャイアントって倒せるんですか?」
「ははっ、そうだったのか。いやスマン。
そうだな。ギルドに行けば倒せるヤツラもそこそこいるだろう。
流石に大群で来たらランカー達に頼むしかないけどな」
ランカー。
ギルドランクの格付け上位者の事だ。もちろんこの物語の主人公がトップ独走してるお約束のランキングね。
ただ、イマイチ人間が巨人を倒す姿が想像できない。
「ギルドに討伐依頼を出すとして、ジャイアント一体だと報酬はどんなもんでしょうか?」
「ジャイアントの素材が欲しいのか? 骨くらいしか使い道無いだろうし、なにより解体が大変だろ?」
うわ。飯時に変な想像させるような事を言うのはやめてほしい。
「いえ……単にどうやって戦うのか見てみたいだけなんです。」
「それならパーティ組んでるやつの後を付いて行って見学すりゃあタダだろ。
万が一負けたら大変だけど、逃げ足には自信があるんだろ?」
確かにそうだ……が、ハイリスクすぎるわ。
俺の渋る様子を見たブライアンは、少し考えて別の案を出してきた。
「まぁ、例えばだが『カルガン海岸に魚を取りに行く護衛を頼む』とかなら銀貨2枚もあれば護衛頼めるやつもいるだろう。」
カルガン海岸。 この最初の街の最も近い海岸だ。
漁師が魚を捕る時に利用しているが、もちろんモンスターがいる。
お?
「魚って流通してます?」
「干し魚なんかは時々屋台出てるぞ? まぁ漁師も気まぐれなヤツが多いからな~。
食うのは自分で獲ればいいし、金が要る時だけ売りに来るから希少よ。」
「漁師さんってモンスターどうしてるんです?」
「そりゃあ倒すか逃げるかだろうよ。」
おおっと。
一般市民でも戦えちゃうんですか? どう考えても高レベル帯の地域で?
これは一般市民に絡まれたら撲殺される系? やっべぇ、こえぇ。
もしかしてアイーシャたんペロペロして平手打ちもらったら、俺の首ポキンと折れたりするの? ヤベェ。超こえぇ。
「まぁ、戦えるヤツらが戦えるだけだぞ?
俺なんかはイチと同じように逃げるか護衛を頼むな。」
ほっ。
……ペロペロは『可』と。
「有難うございます。ギルドって相談は無料で使えるんでしたよね?」
「おう。イチも持ってるだろギルドカード。
ギルドは貴族街区に入る手前に有るからな。」
「有難うございます。」
持っていないが、『え? 嘘? 持ってないなんて』の流れがウザイので持ってる事にしておく。
肉を口に運ぶ。
濃い目の味なので芋も齧る。
オーク美味しいよ。オーク。
「あぁ。あと気になってるんですが、この街って奴隷制度ってどうなってるんですか?」
「ん? 普通にあるぞ?
もちろんコッチ用もな」
小指を立てて口角の片方をあげるブライアン。
わかってるじゃないか、この野郎。よし教えれ。
「ちなみにですが、奴隷商館ってどのあたりに有ります?」
「小間使いとかだと雑貨通りの方にもあるし、性奴隷とかになると商店街区の方だな。」
「へ~。
……まあ、まだ金のない俺には程遠い話ですけどね。」
「小間使いならレンタルもあるぞ?」
「マジで?」
「おう。銀貨1枚もありゃあ丸一日イケるだろ。」
人材派遣会社みたいなもんか?
まぁ、小間使いとかに限るんだろうけどな。
「参考になりました。
沢山情報を頂いたので、ここはご馳走させて頂きますよ。銅貨2枚ですよね?」
「おっ? こんなもんでいちいち奢ってると割にあわねぇぞ?
自分の食い扶持くらい自分で出すから気にすんなよ。」
「いえいえ。また色々教えて頂きたいっていう裏がありますからね。
是非奢らせてください。」
「はっはっはー。なら仕方ねぇか、ご馳走になるよ。」
ぶっちゃけおつりの銅貨が欲しいのと、支払方法を知りたいっていうのが大きいんだけどね。
確認するとブライアンが店員を呼び、その場で会計になった。
対応してくれてる店員のお姉さんも可愛いです。クンカクンカ。
もちろん手早く盗撮。
お釣りの銅貨8枚を貰って外に出る。
「いやぁ、思った以上に美味しかったです。
いい店を紹介してくれて有難うございました。」
「俺もご馳走になっちまって悪かったな。
またいつでも店に来てくれ。」
手を振って別れる。
さて。今日やるべきは『アデリーにプレゼント』と『チョコレート連呼作戦』
ここに新しい案件として『ギルドカードを作れたら作ろう』が追加だな。
まぁ、まずはアデリーのプレゼントを取りに一度自宅に帰るとしよう。
……が、その前に寄り道っと。
雑貨通りに戻る前に一度中央広場の屋台を見る。
なんせようやく金が手に入ったんだから『買える』状態で見るのはまた違う景色になる。
鉄銭1枚で果物水を売っていたので、とりあえず買って飲んでみる。
うっすいけど、ほんのり甘い。
……さわやかな酸味があるから、水にレモン……いや、カボスかな? あと、極薄シロップを足したような味だ。
小銭の種類を増やす目的だったから、じゃらじゃら鉄銭が増えて嬉しい。
銅貨は丸型、鉄銭も丸型だ。きっと金貨は四角だな。白金貨はどんなんだろうか。先は長くて遠い。
薄汚い木のコップを返しつつ中央広場を散策していると、奥様集団の子供の一人と目が合った。
俺に向かってブンブンと手を振ったかと思えば、明後日の方向を向いてから何かを叫んでから、こっちに向かって走ってきてる。
……おっと。
これはいけませんね。
大軍になってやがる。




