132話 荷物に話を聞く。
帰りは人探しの魔道具を使って探索しながら進む必要も無かった為、1時間程度で新世界の風本部へと辿り着く事が出来た。
道中、結香子は自由になったのが嬉しいのかニコニコとしていたが、安心して疲れが出たのか途中から船をこぎ始めた。後部座席で横になって休むよう言いつけると、少しだけ渋ったような素振りを見せたが、すぐに眠りについていた。
気丈な結香子が眠る様子を見て多大なストレスに晒されていた事を感じ、その原因は突き詰めれば俺にあるという事に改めて申し訳なく思う。
中村君が運転してくれているおかげで、目を閉じゆっくりと気を落ち着かせることができたので、腕を組み右手を顎に当てて自分のやるべきことを考える。
考え始めてすぐに、心配しているであろうサリーさんの顔が思い浮かんだので、すぐに電話をかけ救出した事と侵入から脱出までを報告する事にした。
サリーさんは2コールもしない内に通話がつながり、結香子を無事に救出したことを伝えると安堵の息を漏らした。その後、報告を進める内に火を放った事を口にすると、我ながら放火はやり過ぎだったと思いはじめ気が重くなり、後悔の念が沸いてきたように感じる。サリーさんも俺が火を放った事について、俺を咎めた。が、すぐに
「やってしまった物はしょうがない。
こっちに手を出すと、誰であれ痛い目を見るって風に活かそう。」
と、切り替えてくれたので、そこまで落ち込まずに済んだ。
サリーさんに荷物も積んでいる事を伝える。
また咎められそうになったが、こればっかりは譲れない。
なぜなら積んである荷物から色々と聞きだし大元を叩いてしまいたいのだ。
何事も根本をどうにかしないと同じような問題が起き続ける。
流石に誘拐までする様なやつらを野放しにはできない。
やるなら根から断つ。徹底的にやらないと何度も同じ事が起きる。
俺の主張を聞いたサリーさんは、しばらくの沈黙の後、ため息交じりに
「……その方がいいかもしれないね。」
と呟き、サリーさん自身も考えをまとめるとの事で為に電話を切った。
俺の言う『大元を叩く』というのは、つまり、大物政治家『宝生 富一』を説得し、俺の周りに二度と手を出させないようにするという事だ。
5億円をポンと出す事ができ、表の権力にも裏の権力にもつながりのある大物を敵に回すと言う事。
常人であれば、まず『やめておけ』というところだろう。
俺だって金や話し合いで解決が出来るのであれば、落としどころの擦り合わせをした方がいいと思う。
だが相手は結香子の誘拐という手段をとってきた。これは、相手が俺達をいいなりにできると判断しているという事だ。
そんな風に上から目線で見ている人間が対等な話し合いをするはずがない。
ヤツラには立場を理解させる必要がある。
それに……結香子の顔の形が変わってしまうくらい殴り、拷問の真似ごとまでしてしまうようなヤツには、何かしらのケジメをつけさせないと俺の気持ちとしても釣り合いが取れそうもない。
目には目を。歯には歯を。だ。
新世界の風本部に帰るとサリーさんと事務員が半分だけが居た。
残り半分の事務員の姿が見えない。
どうしたのかサリーさんに尋ねると、事務員の皆には信者達への一週間の本部施設への立ち入り禁止を告知してもらった後、安全確保・保護の意味もかねて全員本部に泊まり込んでもらう事にしたらしく、今いない半数は荷物を取りに一時帰宅しているそうだ。
とりあえず残っていた事務員達に不便をかける事を頭を下げて謝罪し、そしてすぐに事態を収めることを強く約束すると少し安心してくれた。
また結香子の無事な姿を見た仲の良い事務員が、結香子に抱き着き無事を喜びあっていた。
ややあってその事務員が俺をチラっと見てから、わざわざ俺の近くまで結香子と一緒にやってきて、そして居住まいを正し結香子に向き直り言葉を発する。
「……きょ……教祖様の命で、伊藤さんの宝物は処理と処分をさせて頂きました!」
長く感じる無言の間。
その後、結香子は慌てて自分の机の引き出し『宝物置き場』を開き、そこにあった物がきれいさっぱり無くなっているのを見て、崩れ落ち、さめざめと泣きはじめた。
……本気で泣いているように見えて胸が痛んだので『出来る範囲で何でもしますごめんなさい』と許しを請うと一瞬で許してくれた。
ただ……なんだか言葉を間違えた感は否めない。
そうこうしている間にも若返りを知った狂人が別の手を出してくるかもしれないので、俺は荷物から情報を聞きだす事にした。
荷物とは、結香子を盾に取って俺に土魔法で足に穴をあけられた男のこと。
雷弾を撃ちこんで気絶させ、さっさと脱出しようとしたら、結香子がこの男が今回の誘拐について指揮を執っていた人間で、組の若頭だと教えてくれた。事情を聞くには良い相手だと思い、逆に誘拐してきたのだ。
足の穴については血が止まる程度には回復させてある。
俺がこれから話を聞く事をサリーさん達に告げると、結香子が輝かんばかりの笑顔になった。
「アレに話を聞くのなら、是非私にお任せください。」
嬉しそうな声に若干嫌な予感はしたけれど結香子の鬱憤も溜まっていると思ったので、中村君に手伝ってもらいながら荷物を密室に運んでイスに固定して、スキップしそうな感じでついてきた結香子に向き直る。
「聞く内容は、黒幕が誰かと、黒幕の目的……まぁ目的は長命のカードだろうけどね。
後、黒幕の居場所や預かった持ち物なんかが無いかとか……とにかく知ってそうな情報を取れるだけ。」
「わかりました。任せてくれて有難うございますっ!
えっと……それじゃあ、中村さん! スミマセンが私は今からコレとお話しますので、お手数ですけど倉庫からトンカチと釘とペンチ、あと、お台所にカセットコンロとガスバーナーのセットになっているヤツがあるので、ソレを持ってきてください。
ん~……一応念の為に、回復の巻物がいくつかストックされていたと思いますので、それも1つだけお願いします。
あ、あと水を張ったバケツとビニール袋とロープも。」
結香子はニコニコしながら若頭に向き直り、頬目掛けて平手を勢いよく振りぬいた。
俺と中村君は頬を叩く快音が響いた事に肩をすくめ、顔を見合わせる。
『何に使うかとか……聞かないでおこうね。』
『そっスね……それが健康的ッスね。』
と、目で無言の会話を交わす。
「あ~。俺手に入れた銃を調べなきゃー……じゃあ中村君。後宜しくね。」
「ちょっ!?」
部屋を後にした。
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ヤクザの屋敷から持ってきた銃を調べていると『92式』とかいう拳銃である事が分かった。
残弾は装填されているのが1発と弾倉に14発。2丁目は装填1発、弾倉15発だった。
サリーさんに部屋に来て貰ってどうした物か相談すると、1丁はサリーさんが預り、2丁目は俺が万が一の時に備えて持つ事になった。
「アンタは……もう覚悟を決めたのかい?」
「うん……流石に俺に近い人に手を出されて黙ってられない。」
「そっか。」
サリーさんは軽くため息を付き、痒くも無いだろうに自分の頭をガシガシと掻いた。
「しゃーない……じゃあアタシも腹をくくってやろうじゃないの。
アタシはこれから準備に入る! ちょっと道具取ってくるから席を外すよ!
すぐに戻ってくるけど、その間に何か行動する時は必ず事務の子に伝言を残してからにしな。」
「ん? 何するつもり?」
「あぁ? アンタの手伝いが出来るように準備するんだよっ!
あぁ……そうだ。アンタに一つだけ確認する。アンタは伊藤由香子は信頼できると思っているかい?」
「伊藤さん……結香子は信じられるよ。」
「……そうか。わかった。」
サリーさんが部屋を後にし、それと入れ替わるように結香子がやってきた。
「早々にご報告した方が良いかと思いまして!」
急いでいる様子から、どうやらあまり良くない情報を手に入れた気がする。




