121話 アルマン商会の晩餐会
アデリーはよく食べる。
本当によく食べる。
いつもアデリーの店で俺の4倍くらいの量を食べて満足そうな息を漏らしていたけれど、どうやらそれも本気で食べていなかったらしい。
俺が肌を見せていないのにエロい人ことルマナに晩餐会の行われる部屋に案内されていると、アデリーがエルフの男ヴィニットに案内されているのが見えて合流。
アデリーと一言二言交わすと、なんだかとても機嫌が良さそうにみえた。
その機嫌の良さが少し気になり何があったのかを聞いてみると、内緒と言われ、首を捻りながら晩餐会の部屋に入る。
部屋ではヴィンセントと奥さん、異母兄弟の兄と妹、そして物静かな紳士に見えるヴィンセントの父達と豪勢過ぎる料理が待っていて歓待を受けた。
食事をしながら話を聞くとアルマン商会は、兄弟姉妹で様々な部門と組織を作り、それぞれが独立し採算を取る様な形で動いているらしい。
その中で極めて優秀であったヴィンセントが自薦他薦により総まとめ役を担っており、そしてヴィンセントの父、ジョフリー・アルマンは相談役として一線を引いているが、のっぴきならないトラブルが出た時には解決請負人として活躍するんだそうだ。
ヴィンセント一族は、勇者の街における俺が販売したであろう商品の大半を手に入れて研究をしてくれていて、食事を楽しみながらも、
「あの卓上の時計はおいくら程で卸をされておられます?」
「あの食材も卸して頂く事は可能ですか?」
と、いった感じで色々情報収集をされ、卸値に興味津々なことがよくわかった。
基本的に卸値についてはゴードンと、アドバイザーのアニ、アイーシャ、ブライアンと決めているが、最近は品数が増えた事と、俺が仕入れ値以上にそこそこ儲けられればそれでいいような若干適当な感じで決める事が多くなっていたので、俺も逆に適正な卸値について質問してみて情報収集をした結果。
ゴードンぼったくり過ぎ。
適当な俺も悪いけど、俺から仕入れる価格の3~4倍くらいで売ってるじゃないの。
それなら俺からの仕入れ値もうちょっとあげて利益を頂戴よ。まったく。
俺がこんなことを話している間、アデリーは黙々と食べ進めている。
なんせ通常時でも俺の4倍は食べるという事は常に口を動かしてないと、ものすごく食事時間が長くかかってしまう。
時々アデリーの様子を見るけれど、普段の針子達に提供される食事と遥かにランクが違って美味しいのか一生懸命にナイフとフォーク、そして口を動かし続けていた。
もちろん俺が目を向けると、おしとやかなふりをするけれど、手は止まらない。
がっついているのが自分でも分かっていて恥ずかしいのか
「だって……美味しいんだもの。」
と、少し恥ずかしそうに言うのだから可愛い。
うんうん。よく食べる女の人は素敵だよ。
こんな感じで、食事を楽しみつつも色々と情報収集が出来た。
そして晩餐会の終盤に、俺はアデリーが食べ続けつつも、ちゃんと話を聞いてくれているので、アルマン商会に3つの提案をしてみる事にした。
『提案』と言えば聞こえはいいが、アルマン商会が俺の提案を断る事はほぼ無いと踏んだ上での提案だ。
なんせアルマン商会は俺から商品を買いたいのだから『俺がこういうのはどうだろう?』と提案する事には、よほどの利益を損なうような事でなければ乗らざるをえないはずだ。
そしてアデリーが聞いているから、俺が明らかにオカシイ事や結果として俺の不利益につながるような事を言った場合は止めてくれるだろう。
アルマン商会に俺の伝えた内容は。
・俺からのアルマン商会への連絡方法の確立
・『換金ができない』カジノ『ゲームセンター』の設立
・エステサロンの設立
だ。
『俺からのアルマン商会への連絡方法の確立』については、俺の設立予定の商会『八百万商会』は砦跡で商品を販売する形にしようと考えている。
が、そうなると販売する日にちの調整・連絡などが必要になるはずだ。
その他、アルマン商会で仕入れて欲しい物等の要望があれば聞けるようにもしたい。
全部丸投げするけれど。
『換金ができないカジノ。ゲームセンターの設立』については、これはもちろん、砦跡のカジノへの呼び水だ。
ゲームの楽しさの布教をさせる。そしてゲームセンターで遊ぶには独自通貨を購入する必要があり、その独自通貨を賭けて遊べるようにしたい。
独自通貨は俺が用意するし、そしてその独自通貨の額に応じて、日本の珍しい景品を購入できるような仕組みにする。
……もちろん砦跡まで足を伸ばせば換金できる。くふふふ。
『エステサロンの設立』
……ノースリーブで『ぼーぼー』はイカンて。
ダメ絶対。
なんて気持ちもあるが『市場を回すのは女性』という言葉もあるので、女性をターゲットにした市場開拓の実験をしてみたいのだ。
内容はチケットを購入して、そのチケットでサービスを受ける事が出来るようにし、そのチケットの種類により施術を受ける施設が変わる。
つまり『安い』『普通』『高級』の層を分ける。
エステティシャンについては、日本から道具と設備等を提供する。
もちろん軌道に乗ったらアルマン商会に消耗品を購入してもらう。
そしてそのチケットは、主に男に向けて売る。
男はチケット贈って女に喜んでもらいWIN、女は施術を受けて美に磨きがかかってWIN。
WIN-WINだ。うん。
もちろん貢だけになる男も出てくるだろうし、プレゼントするチケットのランクの差で好感度が変わるような事も考えられるけれど、それはそれで仕方ない事だと思う。
以上の3点を提案し終えて様子を伺うと、アデリーは変わらず食べ続けていたので提案自体に問題は無さそうだ。
アルマン商会としても新事業の展開としてお愛想もあるのだろうけれど終始乗り気で受け入れられ、翌日までにどう対応するかをこれから商会内で話し合う事が決まり晩餐会はお開きとなった。
ちなみにアデリー。
8人前以上は食ってた。
すごく幸せそうな顔。可愛い。
大分夜も更けて来ていたので、ルマナに再度部屋まで案内されたのだが移動中に風呂も用意されている事を教えられた。
いつも日本でシャワーを浴びているだけだったので興味津々で風呂に案内してもらうと、大理石のようなツルツルの石造りの部屋の中央に、これまたツルツルの石造りの4m四方くらいの風呂が作られていて既に湯がはられている。
こんな宮殿風呂に入る機会も早々無いので、お湯を借りたい旨を伝えると、ニッコリ了承してくれた。
……了承してくれたのに、エロい人ことルマナ。
部屋から出て行かないの……
というか逆に俺お付きのメイド達全員が部屋に入ってきてるの。
「……あのー……ひ、一人にしてもらえませんか?」
「あらあら。
私どもはイチ様のお世話をしてご満足頂く事が仕事ですの。
仕事が無いとなると用無しの役立たずとなってしまいますわ……」
と、悲しそうな顔をする。
俺が言葉に詰まった様子を見てニッコリ微笑むルマナ。
「是非お手伝いさせてくださいまし。さ、皆準備を。」
メイドさん達がシュルシュルと衣擦れの音をたてながら脱ぎ始めたので、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけその姿を眺めて、蛇娘はウエストが細いのは、動くときによく捻るからか? と思いながら、ルマナに
「よ、用事を思い出したので、風呂は止めてアデリーの部屋に案内してもらえませんか?」
と、お願いした。
……正直なところ……今はアデリー以外の女を『怖い』と感じてしまっている。
平気な顔で嘘をつける。
俺はソレを見破れない。
その事実が怖くて極端に俺との距離が近くなるのが嫌だった。
アデリーは、俺が部屋を訪ねてくる事が予想済みだったようで、ニッコリ微笑んで
「いらっしゃい」
と迎えてくれた。
この日は結局アデリーの部屋でフニョンに包まれ、ぐっすりと眠りについた――




