116話 スペシャルギフトとは
本日2話目
ムトゥは静かに言葉を紡ぎ始める。
かつてムトゥは栄育院の初代院長を務めていた。
栄育院。それは勇者が作ったモンスターの襲撃により親に先立たれた子供の中から優秀な子供を集めて教育を施す機関。
……そしてなぜかスペシャルギフトのオークションや、スキルの抜き取り。スキルカード生成が行われている施設でもある。
ムトゥの話によれば、そもそもの話として栄育院は元は研究施設であり、教育機関としての形は後付で初代院長といっても役職的には研究所所長の方が正しい。
そして研究所所長時の研究テーマは『強力になったモンスターに対して勇者の導き出したトンデモ理論を活用した人体の強化術を完成させる』だった。
勇者の導き出したトンデモ理論は複数あり、ムトゥはそれらを研究し、スキルとはそもそも何であるのかを突き詰めた。
根本を理解できればより簡易にスキルの習得が出来るのではないかと思い立ち研究を進め、理論を組み立ててゆく。
やがてその理論を基に、スキルそのものの抽出や、他の物質への変換・置き換えが可能なのではないかとなり、それがスペシャルギフトの根幹となった。
ムトゥ辿り付いた解では、スキルというのはイメージで言うところの『才能』『熟練度』『伸びしろ』が組み合わさった物であり、それを魔力と物質に変換させる事で抜き取る事が可能だという結論だった。
例えるとするならば、
才能は『容器』
熟練度は『容器に入った液体』
伸びしろは『容器の空き容量』
が分かり易い。
そして、今のオークションで行われているスキルの受け渡しというのは『容器に入った液体とその液体の分量だけの容器を切り取る』行為なのだとか。
だから伸びしろが残っていれば、熟練度さえ上げれば抜き取られる前に使っていたスキルを再度使える状態に戻す事も可能らしい。
ただし、容器全体の大きさは抜き取った分だけ小さくなっているので、本来極められたであろう最高到達点は低くなる。
俺がスキルカードを手にしスキル吸収した際の体験を話すと、スキルカードを割って気を失うことが無い物については、吸収したスキルが自分の才能内に収まる物であり、気を失ってしまうような物については、元々あった容器を無理やり拡張し始める影響なのだと説明を受け、何となく合点がいった。
そして『割れないスキルカード』については、元々の才能が全くの皆無で、微塵も受け入れる場所が無いから頭と体がスキルを受け入れる事を本能的に拒否してしまい割る事が出来ないのだそうだ。
ムトゥがスキルカードについて関わっている事が分かった俺は、きっと周りにバレバレなくらいテンションが上がっていたんじゃないかと思う。
なぜならそもそもスキル欲しさで始めたのがカジノなのだから。
はしゃぐ内心を押さえながらムトゥの話の続きを聞く。
その話の続きは、とても残酷な物だった。
――仮の理論が完成した当時は、今ほどきちんとしたスキルの抜き取りが出来る程の理論や経験、道具が揃っていない状態で、荒削りのまま手探りで実験を行うことになる。
そして実験には材料となる『試験体』が必要になり、とある貴族が用意したのはモンスターに恨みを持つ孤児達だった。
孤児達の恨みはとても強く、モンスターを倒せるのならば自分はどうなっても良いという子供達が多かった。だが、中には物心がついていないような子供も含まれている。
ムトゥは迷いながらも孤児達の要望、そして新理論実験の機会、人体強化という希望に失敗の可能性を思いながらも実験を進めた。
実験は、まず4人の孤児を被検体としてスキルの抜き取りと移植を実施。
抜き取りと移植は性差の検証も兼ね、男の子から男の子、女の子から女の子へと行われた。
スキルを移植された子供は、スキルを得た直後から目覚ましい才能が見えはじめ、スキルを抜き取られた方については、大きな変化は見られず実験は成功かと思われた。
だが、一週間後に些細な変化が出始める。
貴族の運営する保養所から連れてこられたスキルを抜き取った子とムトゥが面接をして『変化』を確認したのだ。
体術のスキルを抜き取られた男の子は、何もない所で転びそうになっていたり、魔術のスキルを抜き取られた女の子は口数が少なくなり、うまく言葉を探せなくなっているように思われた。
男の子と、女の子はムトゥに心配をかけまいと気丈に振る舞っていた為、ムトゥは細やかな異変に気づきはしたが『些細な変化である』と判断し実験を進めた。
なぜなら実験したい事や検証したい組み合わせは山ほどあったのだ、早く完成させれば人はもっと敵と戦いやすくなり良い世界に繋がる。
熱心に研究を進め、実験を続けた。
ただ『その小さな異変』は心に刺さった棘のように気にかかり、貴族に報告を求めたりもした。
その際に貴族からはきちんと回答があり、その内容は『回復し元気に過ごしている』とあり安心していた。共同研究者達も功名心に駆られ次々と実験を進めていく。
ムトゥが実験が『失敗』である事に気が付いたのは実権開始から1ヶ月が過ぎてからの事だった。
貴族からの報告で元気になったと報告されている子供達を実際に確認しに行く機会があり、愕然とした。
スキルを抜き取られた男の子は寝たきりで動けず、女の子は一言も言葉を発する事が出来なくなってしまっていたのだ。
――当時のスキル抜き取りは『才能』『熟練度』『伸びしろ』この全てを、あるだけ全部抜き取って移してしまうという内容だった。
結果として体術の才能を奪われた子は体の動かし方が分からなくなり魔術の才能を奪われた子は言の葉を理解できなくなり考える事すらできなくなってしまっていたのだ。
そう。
今、街に居るオーファン達は、実験材料として魔術のスキルを抜き取られたが、声を発する事が出来なくなる程度の被害で生き残ることができた子供達だったのだ。
そして栄育院で特訓に励んでいるのは、そのスキルを付与された子供達。
ムトゥはその現実を目の当たりにし我に返り、スキルを抜き取った子供達に対して、なんとか抜き取ったスキルを奪った分だけ元に戻そうと努力し実験を試みる。
だが、抜き取ったスキルカードを戻す事は出来なかった。
才能が一切無い状態になっていた為、受け付けられなかったのだ。
そうこうしている間にも、体術を抜き取られた子も魔法を抜き取られた子もどんどん衰弱していき、貴族が隙を見て彼らを事故に見せかけ『処分』してしまった。
ムトゥは自分のしでかした事が招いた結果に絶望し、必死に被検体達を救う為に行動し続けた。
そして自分の救える範囲を救い、こんな間違いの起きないスキルの抜き取り方法を策定、私財を投げ打って孤児院を設立し残されたオーファン達の過ごせる場所を作り、最後に勇者に罪を全て告白し自ら追放される事を望んだ。
そして、今は不便を承知で砦跡にて自分についてくる事を選択した被検体達の世話と、自分が出来る範囲で無能にスキルを習得させる研究を続けているという事だった。
尚、アトとサトは、第一号と第二号被検体であり、栄育院から出て一緒に来ることを望んだのだそうだ。
そしてムトゥは俺に対して頭を下げる。
「どうか恥を忍んでお願いしたい。
せめて言葉を失った子供達に言葉を取り戻させる実験を……その為のスキルカードを提供して欲しい。」
俺はムトゥが頭を下げ続けている姿を見ながら、腕を組み、顎に手を当てて熟考を始める。




