113話 砦跡先住民たちとお話
ゴルェ……
いやむしろ、アンジェナァ……
白髪オールバックのオッサンの敵意を感じながら、その敵意の原因を作った二人に内心イラつきを隠せない。
いや、アンジェナが波風を起こさないように渡りをつけてくれるのだと勝手に思っていた俺が悪かったのかもしれない。
白髪オールバックのオッサンこと『ムトゥ』は事前に聞いていた通り話せる人だったので、念の為にアリアとアデリーに俺の脇に控えてもらいながら、まずは急に沸いた敵意の原因であるゴルに言われた事を確認してみた。
ゴルの言葉はアンジェナからの伝言を大分オブラートに包んだのだろうが
『この砦跡を使う予定でてきたので不法占拠は止めて出てってね。
不法占拠を止めないなら止めないでいいですけど排除に乗り出さなきゃいけなくなりますよ。覚悟してね。
でも運よく、あなた達が出ていった後の砦跡の使用予定の主も来てるから、なんなら働き口でもお願いしてみたら? 追放者でも小間使いくらいには雇ってくれるかもよ?』
と、解釈できる内容を言われたと。
そりゃあ、まっとうに考えればアンジェナの主張は『正しい』間違いなく。
でも……初っ端からハードランディングを目標にしないで欲しいと心から思う。
ただ唯一の良かった点としては、こちら側の目標とする事が確実に相手に伝わっていること。
目的が正しく理解されていれば、向こうにしても妥協点も見つけやすいはず。
俺はアンジェナの内容に対して一から順にフォローを始める事にした。
ムトゥに俺が勇者の街で商売を始め、その展開のひとつとして娯楽施設を営んでいる事、その娯楽施設はゲームに金を賭ける『カジノ』であり、それによって身を食いつぶし破産する人間が生まれ治安悪化が起き始めた為、ギルドから対応を迫られており、その解決策を検討したところ、街での営業ではなく砦跡を利用しようという案が出た。その案が実現可能かを確認する目的で砦跡を見に来ただけである事を正直に説明する。
続けて実際にやってきて外観を見て、砦跡の利用は楽しいことになりそうだとも感じている事を伝える。
だが俺は基本的に先住民と争う意思は無く、もしムトゥ達が嫌なのであればカジノについては砦跡を諦めて別の方法を探してもいいし、最悪カジノを閉店しても良いと思っている事を話すとムトゥの敵意は大分減った。
減ったことで受け入れる余地も大分あるかなと思い、そのままアンジェナの言っていた案に乗っかる形で提案もしてみる事にした。
その内容は、もし『労働力』として協力してくれるのであれば、働く人間には充分な衣食住を提供し、その働きに応じて賃金も支払う事を考えている事。これを提案すると敵意はかなり小さくなり、柔和な顔を崩さないムトゥからいくつかの問いを貰う。
質問の内容は『自身の利』ではなく、実際にカジノを建造する場合に住人達をどう扱うつもりなのかを調べるような物が多かった。
問いに応答しつつ様子を伺っていると、このムトゥという人間は、自分自身の事よりもアトと呼ばれた青年や、サトと言う名前らしい魔法使いの女の子、その他、砦跡に住まう住人の事を気にかけている好好爺のように思えないでもない。
『悪事に手を染めていない人間で働いてくれる意思があれば大事にする』という事を基本の線として自分の中で決め、それに沿って回答を進める。
悪事に手を染めた人間は考え方なんかも一般とは離れてしまっていると思うし、その他の働く人にも悪影響を及ぼしやすいと考えたからだ。
追放者自体が何らかの悪事を行って街を出禁にされたのだから、その人間を中心としたコミュニティで生活しているのであれば、世間の常識とは大分隔たりがある可能性もある。
そう思い現在の生活についての質問もしてみる事にした。
するとムトゥと砦跡の住人達は近場で農作業をしたり、冒険者を泊めて常識的な護衛代を徴収したり、通行人相手に物品の売買などで生計を立てているらしく、住人達が悪事に手を染めているような雰囲気は無かった。ムトゥは強い言葉で、子供たちはまっとうに成長していると発した。
そもそもニアワールドは善人が多い。
そして悪人はすぐに分かるような人物が多い世界だ。だから、きっとこのムトゥは悪い人間ではないと感じる。
……となると『なぜこのムトゥが追放されたのか』が気になった。
大分敵意の消えた好好爺っぷりを見て、もしかしたら聞けるかもしれないと感じ思い切って問う。
「不躾な質問ですが……ムトゥさんは、どうして街から追放されたんですか?」
ムトゥはチラっとアンジェナを見る。
だがアンジェナは視線に対して何の反応も無い。アンジェナの様子にムトゥは小さく頷き口を開いた。
「そうか……ギルドにも記録は残っておらんのか。単純なことだよ。イチ殿よ。
私は大勢の子供を……不幸にした。」
「子供……ですか?」
思わず眉間に皺が寄る。
加藤さんの趣味の為に、おやつを餌に子供と一緒に遊んだり撮影させてもらったりしているが、慣れてくると、うざいくらいに元気いっぱいの子供達は可愛いものだ。
その子供を不幸にしたというのであれば、流石にどうかと思う。
「あぁ。その罪故に追放された。
が、未練たらしく離れきれずにここで生きているのだよ。」
「……もし良かったらですが、詳しく教えてもらえませんか?」
「昔話をするのは構わない。
私も君の話してくれた事が全て真実だとすれば、きちんと話しておくべきだとも思うしな。」
「一応、嘘を言っているつもりはないのですが……」
「あぁ。そうだと思うよ……だが用心に越したことはないだろう?
申し訳ないが、私はこの砦跡で長のような真似事をさせてもらっているから住人を守らなければならない責任があると勝手に思っている。」
ムトゥが真剣な目を向ける。
「今回の話は……私達に『とても有利過ぎる』。それが怖い。とてもね。
なにか裏があるんじゃないかとどうしても考えてしまうんだよ。そしてただ怖いからと無視する事も出来ないような内容だ。」
俺の事をじっと見るムトゥ。
眼力が強いです。
後、やっぱり微妙に敵意が残っています。
「良い話を持ってきてくれている人物に対して心苦しいのだが一つ我儘を聞いてもらえんだろうか?」
「内容によりますが、とりあえずお話頂けますか?」
「ご存知の通り私は追放者だ。
だから現在の街の事は冒険者達から話を聞いたくらいの知識しかない。
発展している事は知っている。だが詳細は分からない。
だから貴方の営んでいるカジノや、資本力についても信頼できる情報がまるで無い。
貴方の提案してくれている内容は、まさに『大船に乗れ』というような内容だ。
だからこそ、それが『実際に大船なのか』を確かめなくては決断のしようも無い。」
「イチさんの実績や詳細などについてはギルド員である私がお話しますが?」
「私は貴方の言葉を全て信じられる程、私と貴方の間に信頼関係が築かれているとは思ってはいない。」
アンジェナが横から口を挟んだが、ムトゥは軽く一蹴する。
アンジェナは少しムっとした顔に変わったが、ムトゥは気にする様子もなく俺に向き直り言葉を続ける。
「だからこそ街に住んでいる知人から貴方達の実態を確認したいのだ。
手広く商売をされているようであれば、その名声も広まっているのだろう?
何よりそれだけカジノとやらが流行っているのであれば知人も把握しているだろうし話を聞く事で、その実態も確認出来る……心苦しいがその知人を探しだし、ここまで来るように伝えて欲しいのだ。」
「あぁ。確かに当然と言えば当然な事ですよね。
いきなり『信じろ』って言われても俺だったら無視しますもん。
あ……でも追放者に対して、こんな形で街の情報を渡すとかってギルド的に問題は無いんでしょうか?」
アンジェナに向けて問い掛ける。
「追放者が街に入らなければ問題になりません。」
どこか拗ねたような顔だが真面目に答えてくれた。
「ならば問題は無いですね。分かりました。
その知人さんに伝言をしますので、その方の情報を教えてもらえますか?
どこに行けば会えるかとかも教えてもらえると嬉しいです。」
「申し訳ないが私は街の情報は解らんので名前と風貌くらいしか伝えられぬ……探してもらう労力をかける事になるのだが、それでも引き受けてもらえるか?」
「あ~……そっか。探さなきゃいけないのか……まぁでも折角ですし、やってみましょう。」
「有難う。それでは情報を伝えよう。まずは性別だが、男。
特徴としては、筋肉質で白髪、そして白髪とひげが繋がっていて髭も白く、ソレを当人はトレードマークとしておる。名は『ラッサン・ブライ』という。」
『白髭もじゃのラッサンブライ……』と、心の中にメモをして、ムトゥとの話をクロージングさせた。
その後、砦跡を一通り案内してもらい見て回る。
何人かの10~20代の男女の住人達と遭遇したので話しかけてみたが住人達が会話をしてくれる事はなかった。
印象が悪い状態も嫌なので、アデリーに目隠しを作ってもらってチョコを自宅に取りに行き、ムトゥに許可を取った上でチョコやクッキーを配りまくったらアトやサトもかなり喜んでくれて、悪くない空気で帰路につく事が出来た。
勇者の街へと戻りながらムトゥの要望を思い出す。
『髭もじゃラッサン』さん…か。
街は広いしな……どうやって探したものやら。




