103話 アンジェナとデート?
本日2話目
ゴードンと一緒にギルドの外に向かいながら議題を思い出しつつ話をする。
「っていっても……流石にもったいないよね」
「せやなー。対価なく莫大な儲けが消えるっちゅーんは、商人としたら命を削られるくらいには嫌なもんですわ。」
ギルドを出るとすぐにエイミーが俺の後ろにつき、ゴードンの後ろには、ネコミミ護衛と犬耳護衛が並ぶ。
「あ。」
「お? またでっか。」
俺は『気配察知 敵勢発見』というスキルを得ている。
このスキルは剥奪で奪っただけあって非常に優秀で敵対心を持つ者の位置が何となくわかるのだ。
そして分かった事なのだが、俺とゴードンが一緒に居ると時々敵勢反応といっていいのか微妙なくらいの『もや』っとした嫌な感じがすることがある。
大抵の場合は、そのもやっとした方を向くと「ちっ!」舌打ちをされる事が多いので、きっと金持ってそうな二人が美人たちを連れて歩いてる姿に『妬ましい』という感情が生まれ、敵対心を起こしているんじゃないかと思っている。
現に今も、もやっと感のした方に振りかえると憎々しげな目線を送ってきた男と目が合い、そいつが地面にツバを吐きすて「ふん。」とそっぽ向いて歩きだし、敵勢反応は遠くなっていった。
カジノが軌道に乗ってからというもの『娯楽でお金を使う』という人間が増えたせいか、お金にひどく執着する人間が増えてきたようにも感じる。
「まぁ……確かにこのまま行けば治安悪化とかに繋がりそうだしなぁ……お偉いさんに責任取れって言われる前になんかしら対策を考えるのも当然っちゃ当然か……」
「でも、それで儲けが減るんはな~。」
「そこなんだよね~。 お金はどれだけあっても困らないもんね~。」
「そうそう。
ワイらは『楽しみ』をそれ相応の対価を持って提供しとるだけなんやからな。」
「うんうん。まぁ胴元が儲かって当然なのは皆が楽しみの為に運営費を稼がなきゃいけないから当然の事だよね。」
「せやせや。ふっふっふ。イチはんも悪よのぉ」
「何をおっしゃいます。ゴードン様。くっふっふっふ。」
最近俺とゴードンは、山吹色の菓子を囲む代官と越後屋のような感じの悪人ごっこをすることがある。
そう。成金なのだ。
金に成ったのだ。
「って言ってても仕方ないし……一応最悪の場合はカジノを閉めるケースも頭に入れておきましょうか。残念だけど。」
「そか……わかった。
ワイはイチはんがええ言うんやったら、それでええ。なんせ他の事業かて周りの商人が羨んで歯ぎしりするレベルで順調やさかいな。」
「……なんならトランプ売ります?」
「あ~。家でカジノですな。
……なんかソレ……もっとアカンような気もします。が……まぁ、間違いなく売れますな。」
また『もやっと感』が走った。
「あ。」
「またでっか。今日はえらい多いな。」
チラリと見るとネコミミと犬耳を従えるゴードンを妬ましそうに見ている男が目に入った。
「なんだ……ただのケモナーか。」
とりあえず面白半分にエイミーに乗りイチャコラしてみると『もやっと感』が増えるのを感じる。
うへへ。イケメンの嫉妬。おいしいれす。
微妙に優越感に浸りながらゴードンと別れ、家に帰るのだった。
--*--*--
「今日は宜しくお願いします。アンジェナさん。」
「はい。イチさん。
ギルドマスターからカジノについて相談に乗り、私のできる範囲でお答えをするようにと業務命令が出ておりますので今日は宜しくお願いします。」
ちなみにエイミーは午前の仕事が終わった後に、
「あ~。やばいわーラーメン食べたくて仕方ないわ~。
日本に帰ってご飯食べたいわー。」
と、日本に帰った体にして隠密を使って撒いてきた。
なんせアンジェナとデート? だ。チクリ魔はいらないのだよ。
「早速なんですけど昨日は会議室でまったく良案が出なかったので、気分を変えて外の空気を吸いながら相談に乗っていただきたいと思うのですが、それでも良いでしょうか?」
「ええ。問題ありません。」
俺は心の中で『YES!』と叫びながらガッツポーズをとった。
もちろん表向きは何事もなさそうな表情を作り続ける。
アンジェナと初めて一緒に外を歩く。
うわぁい。ウサミミさん可愛いよう。可愛いよう。
浮かれた俺はデートの真似事っぽく、お茶に誘ってみたり買い物に誘ってみたりした。
が。
「あぁ、喉は別に乾いてませんのでお構いなく。」
とか、
「ソレ。今関係あります?」
とかの反応でバッサリ切り捨てられました。
元々豆腐メンタルなのでバッサリ切られる対応を快感に出来る事もなく、デートの真似事を継続する勇気も根性も無くなる。
後、アンジェナは美人の多いニアワールドにおいても美人らしく、一緒に歩いていると通りすがりの男達から、結構な『もやっと感』をぶつけられて、ちょっとどころじゃないストレスが溜まるというダブルパンチ。
なのでアンジェナとキャッキャウフフは諦め、しっかりと本題について考える頭に切り替えて相談に乗ってもらう事にした。
ただ相談に乗ってもらうアンジェナが、カジノを「特に必要なかったので」という理由で知らないらしい。
で、あればアンジェナにカジノを経験してもらった方がいいだろう。
その上でどうするかを一緒に考えてもらう方がいい案もでるに違いない。
もちろん経験の為なので、入場料は俺が払いプレイはアンジェナが行う。
序盤アンジェナは一時勝ったのだが勝った事で大きく賭けるようになり、そして結局全部スった。
結果。
アンジェナは今。
静かにキレている。
「よくよく考えれば、これは胴元が且つ確率がどれも少しだけ高いじゃないですか! 公平じゃない勝負なんて許せませんっ!」
「いや、これ勝負じゃなくてゲームだから。遊びですよアンジェナさん。」
実際のところ少しだけ高い所ではない。
ディーラー達には客から巻き上げた儲けに応じて給料が上がる歩合制の形をとっていて、もし大きく負けるような事があった場合はその加算から目減りし、負け続ければ首になるような体制をゴードンに提案してある。
つまり、ディーラー達にとっては客が給料。
そして生命線。
例えるなら、ディーラーは釣り人で客が魚。
うまく美味しそうなエサをちらつかせるようにして全てのチップを巻き上げ毟り取る。
第一、毎日同じ賭け事をしているプロと、たまに遊びに来る素人。
人間観察も磨かれたディーラーとの勝負で素人が勝つことは元々難しい。
だからこそ俺とゴードンが超儲かっている。
もちろんディーラーがあまりに勝ちすぎても客が離れるので、時々意図的に大勝させるような事も手配してあり、その勝ちは支配人の裁量次第。
大勝ちしている人間は目立つから、人が多い時に大勝させたりと大局を見渡せる人間が決めるのが一番効果的だ。
尚、支配人は高額な給料と引き換えに『契約』で、自己の利益の為の勝敗の操作はしない事をゴードンと約束させられている。破れば即奴隷落ちする強力な契約。
この契約は少し酷いようにも思われるが、高額な給料よりも知り合いを大勝させる方が割が良いのだから当然といえば当然の処置だ。
カジノに入り、俺の顔を知る支配人が『どうします?』みたいな目線を向けてくるが、アンジェナの勝敗に対して何も手を出さない通常の対応をして貰った。
これは負ける人が多いのであれば、その立場を理解しておいた方が良いと思ったからであり、別に微妙に涙目になるアンジェナが可愛いだろうなとか思ったからじゃない。
アンジェナが予想通りにチップを全てディーラーに巻き上げられてカジノを後にし、近くの新しくできた酒場に入って話をする。
テーブルについた途端アンジェナが吠えた。
「賭け事は廃止すべきですっ! あれは害悪ですっ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ。アンジェナさん。」
「落ち着いていられますか! さっきのあの短時間で10日くらい豪華な食事を楽しめるだけのお金を無くしたんですよ!」
「でも俺の金じゃないですか。」
「うっ……それはそうですが……」
少しだけ落ち着くアンジェナ。
「……カジノは『楽しい』と感じてしまうのが非常に問題だと思います。
悪魔的な楽しさがあるから性質が悪いですっ! 狡猾です! 私だってあそこでヒットしなければ勝っていたはずなんです! きっと!」
あっ。アホの子発見。
賭け事で『たられば』の話してる。
こういう話をする人は大概が俺とゴードンの養分だ。
思わず失笑してしまう。
「『悪魔的な楽しさ』ですか……なんとも言い得て妙ですね。」
アンジェナに、運ばれて来た果実水渡しながら相槌を打つと、アンジェナはジョッキをグイグイあおり、ぷいーと息をつき口元をぬぐう。
「……たかが遊びで路頭に迷う人間が出てきているという話は、私には俄かに信じがたかったのですが……体験してみて納得しました。お金を賭けるというのは、ある種自分の糧を差し出す事ですから、とても怖いことです。
アレは悪魔の遊びです。人々の身近に置くべき物ではないと私はイチさんに進言します。」
「身近に置くべきではない……か。
でも、カジノは職も金も生み出していますよ?」
「はい。生み出します。
ですが、それは人から吸い上げた物を別の形にしただけで元々あった総量は変わっていません。
職も賑わう場所が集中しただけで他が寂れます。
なにより……街の人から吸い上げ続ければ、やがて吸い上げる物が無くなるでしょう。そしてその残骸に街が埋め尽くされてしまうように思えて、それが私は怖い。」
まるで吸血鬼みたいな言われようだなカジノ。
でも正しいようにも思える。
ただ楽しんでいただけに見えていたけど、アンジェナは色々深く考えているんだなぁ。
下を向いて、ぶつぶつ喋っていたアンジェナがキっとこっちを睨む。
「それにです! 近くに金貸しも存在するじゃないですか?
これは『限界以上に吸い上げてやる』という意図を感じずにはいられません。」
「うっ。」
図星です……スキルカード狙いで作ってしまいました。
いや作ったのはゴードンだよ。ボクジャナイヨ。
睨みつけられたかと思うと弱弱しい視線に変わる。
「と……言ってみた所で、イチさんの立場に立って考えれば金のなる木が育ったのですから、私がソレを廃止しろだの、どうにかしろと言うのは敵対するような意味になるでしょう。
でも私はこの街のギルド員として見過ごせそうにありません。」
「いやいやいや、俺は別にアンジェナさんと敵対しようなんて考えてないですよ? そこは安心してください。」
ハッとした顔に変わるアンジェナ。
「そう……そういう…事でしたのね。
……あぁ、だから私がイチさんの相手をギルドマスター直々に命令されたのですね。
そん…な……でも…あぁ、だから……できる範囲という指示だったのね……」
悲観に暮れるような表情に変わるアンジェナ。
うん。この顔は俺のセリフは一切聞いてないね。
なんか自分の発言しか頭に入ってない上にそこで何かに気が付いたパターンのヤツや。
お願い。俺の話も聞いて?
「わかりました……ギルドマスター。
納得がいかない部分もありますが……私はこの街の為に覚悟を決めましょう。」
「あ。」
俺は思わず身構える。
アンジェナから敵勢反応の『もやっと感』が発せられたからだ。




