102話 ダブルニックとの会談
ギルドマスターの『ニック・エヴァン』
衛士長の『ニック・ウィン』
この血の繋がりはまるで無いダブルニックと、ゴードン商会代表ゴードン、そして俺ことイチが一堂に会した。
この街においてそこそこの権力を有する者達による第一回会談がギルド内の特別会議室にて取り行われているのだ。
特別会議室の中でテーブルを挟み、ギルドマスター、ニック・エヴァンは目を閉じている。
衛士長ニック・ウィンは顎髭を触り、その表情は不機嫌そう。
ゴードンは渋い顔。そして俺も苦い顔。
会場に漂う重い空気。
……といっても別に険悪なわけではない。
そもそもこの会談も、勇者様や街の長、貴族達といったこの街の上層階級にいるトップ達からクレームが入る前になんか対応策考えておこう的な、心配したギルド側からの親切な呼びかけなのだ。
ギルドマスターはゴードン商会の卸す商品は利便性が高く、そして簡単に金のなる木でもあるから仲良くしておきたいし、商会としても関係は末永く続いて欲しい。
衛士長の立場としては治安が悪くなるのは野放しにできる事ではないが、新しい娯楽ができる事や生活を豊かにしてくれるゴードン商会から生まれる街の利益は甘受したいし、ゴードン商会としても卸先や街への影響の大きい人達と仲良くしておきたい。
そして俺は自分が楽しめる環境を確保しておきたい。
つまり全員が全員、敵対する気は一切無くみんな仲良くしたいと思っているのだから険悪になる事自体が有り得ないのだ。
「いや~! 毎度お買い上げ有難うございます! おかげさまでウチの商会は助かってます~。」
「いやいやいや、こちらこそ忙しい時に悪いですのー。良い物を融通して頂けるからこそ、うちも支部の中では注目株じゃ。あぁ、そちらがイチ殿ですな。お噂はかねがね。」
「へっ!? まさかギルドマスターに知って頂いているとは思ってなかったですよ。」
「ほっほっほ。ボールペンを1,000本持ちこんだ時からギルド全体の注目も集めておるぞ? それに最近はスペシャルギフトも高額を頻繁に落札しておるようじゃしの。落札平均金額が上がっておるのは嬉しい事じゃ。」
「意外と自己評価が低いんだな。アンタはその黒髪と不思議な物を持ちこむ人間って事で、この街では結構な有名人だよ。アンタが街に入った時点で、その髪の色で俺にも報告があったし、それにチョコ配り歩いてたりしてたのは毎回報告に上がっていたからな。
それに俺の部下達が使ってる時計やランプもあんたが持ち込んだんだろ? アレは便利で助かってるぜ。有難うよ」
「あ。なんか有難うございます。ってマジかー。有名人になってたのかー。」
「イチはん。ほんと今更でんな。」
「いや、だって普段街の人に見られても『はいはい、また黒髪が気になるんですね』くらいにしか思ってなかったんだもん。」
「黒髪も目立ちますからの、仕方ありますまい。
さて、早速じゃが本題に入りましょうかの……単刀直入に言うが、最近色々とクレームが上がっておる。あの『カジノ』の事での。」
「俺ん所もあの周辺の警備を多くしたりしとるんだが軽犯罪は格段に増えた。あと大怪我を負うレベルの犯罪もちょいちょいな。原因は言わなくても分かる。」
「このままの状態で放置すれば、その内にワシらより、もっと上から目をつけられかねませんぞ?」
「それは困りますな~……どうしましょうね。イチはん。
ワイとしては、あんま街で波風おこしたくは無いんやけど……でもカジノの売り上げ考えると『ほなやめましょか?』とかは言いた~ないですしなぁ。」
「そりゃあ、俺だってゴードンさんと同じですよ。
あの辺の区画に結構投資しちゃってるし……ぶっちゃけそれの回収はできたっちゃ~出来ましたけど、これから利益になりそうなのに手放せって言われるとちょっと困ります。
……とはいえ『犯罪が多くなる』ってのは、結果として自分達の首を絞めることにもなりかねないってのも分かりますし……ん~……」
渋い顔の俺とゴードンに、衛士長のニック・ウィンが肩をすくめてみせる。
「まぁ? カジノの面白さってのはウチの衛兵共の楽しみと息抜きになってるのも事実なんだよな。
実際バカラは面白れぇ。」
「おー。衛士長さんお好きですね。」
「ワシはアレじゃ。シンプルなルーレットが楽しいわい。 ちびちびやれば長く楽しむ事もできるしの。
……ただ、最近は人が多すぎて狭く感じるのがちょっとのぉ。」
「それは言えてますわ~。最近はほんと人多すぎやでイチはん。」
ゴードンが自分の言葉で閃いたような顔になり続ける。
「せやっ! 少人数だけしか入れんような入場制限かけるのはどうですか?
そしたらゆっくり楽しめるし、遊べる人が減れば犯罪率も減るんちゃいますの? ウチらの実入りも少なーなりますが、まるっきりなくなるよりはマシでっせ。」
「でもソレだと『よっしゃ! 遊ぶぞー!!』って、気合入れて来た人が『今日はカジノに入れない』って言われたら……逆に怒りだしませんかね?」
…………
「楽しさを知ってしまった以上、カジノを完全に閉めたら閉めたで問題が起きそうな気もするしな……」
「それにのう、あのカジノ周辺は新しい仕事も生み出しとるという事実もある。実際あの周辺の金の動きはよくなっとるし、そこで働く者の利益にはなっとるからの。」
「そですな。金が動けば関係者の景気もようなりますわ。うちの新商品もバンバン出てますしなぁ。」
「それ聞くと。尚さらカジノ閉めれないよね。」
…………
「どうしたもんじゃろな」
「頭いてぇな。」
「なんともやなぁ……」
「ん~~……なんかどっちに転んでも難しくなりそうな気がしてきた。」
こんな感じで結局は良案が出ないまま堂々巡りに陥り、みんなの顔が固まってしまっているのだ。
「はぁ……そもそもの話なんじゃが、このカジノは誰の発案から始まったんかの?」
ゴードンがチラリと俺を見る。
ちょっとやめてよ。見んといてー!
俺を売るなよー。
「まぁ想像の範疇。納得だな。」
衛士長ニックがニヤニヤする。
ダブルニックが一度顔を見合わせて頷き合う。
「どうじゃろイチ殿よ。今の状況では堂々巡りに陥ってしまって良案も出ぬ。
今日の会談はこの辺にして、ここは一度カジノを思い立ったイチ殿に良案を考えて頂きたいのじゃが。」
「マジっすか!? まさかの丸投げッスか!?」
「まぁ、ある意味仕方ねぇんじゃねぇかな? カジノの問題が大きくなりゃあ、その時に責任を負わされるのはアンタなんだろうから。」
……え?
ゴードンを見て、ゴードンを指さす。
「運営してるのこの人の商会ですよ?」
「ちょ! イチはんっ!? ここでまさかの裏切りでっかっ!?」
「だって先に俺を売ったのゴードンじゃんっ!」
俺とゴードンとの間で醜い争いが発生する。
「まぁまぁ良案とプレッシャーはかけましたが、まだとりあえずの叩き台の案で良いですから。」
「そうだ。次回の話し合いに向けての解決の糸口くらいでいいんだ。」
「イチはーん。応援しとりまっせ~」
「あ。もう一抜けた気になってるね。ゴードン先生?」
「何言うてますのやー。ワイらは一心同体やでー。
あ~、せやけど残念やー! ご指名があっては任せるしかないわ―。これは残念やわー。」
「ゴードンのトコの羊さんを……アデリーと一人だけで会ってもらうように仕向けようかな……」
「ちょっ! それはアカンてっ!! ダメやってイチはん! アカンアカンっ! またワイから取らんといて!」
「……………」
「黙らんといてっ!! 『冗談でしたー』って言おう!? ねっ?」
「……冗談でしたー(棒)」
「気持ちこめてーっ!」
冗談はこの辺にしておくか。
どちらにしろ、しっかりと考えないと不利益をこうむりそうな状況には間違いない。
はぁ。気が重くなる。
ため息を吐きながら天を仰ぐ。
俺の様子を見てギルドマスターのニックが口を開く。
「おお、そうじゃ。なんじゃったら街に詳しいギルドの人間を数日貸し出しても良いぞ?
ギルドの人間ならこの街のみならず、他の街の事なども知識として蓄えておる者もおるからの。なにかの参考になるかもしれん。」
「あ、ほんとですか? 俺って田舎もんだから他の街とかもよく知らないんですよね。
この街の事にしても表面ばっかり見てるから深い事まで知らないし。
確かに知識が増えれば考えに広がりは出るかもしれないから……せっかくだしお言葉に甘えようかな。」
「ふむ。それでは、そうじゃのう……アンジェナと懇意にして頂いておるようですし、明日一日彼女をお貸ししましょう。
彼女は少しシンプルに物事に向き合う面はありますが、なかなかに博識ですからな。」
「マジでっ!? アンジェナさんを!? いいんですか?」
「ええ、良いですとも。 ……その代わり良案を頼みますぞ。」
「ぐぅっ!
……はぁ……分かりました。頑張ります。」
「では、今日はこれにてお開きという事で。」
ゴードンと一緒に外へと出る。
帰りしなアンジェナを見かけたので手を振ってみると振り返してくれた。
可愛い。うん。
アンジェナ可愛い。
やったぁ。
明日は考えようによっちゃアンジェナとデートなんじゃね?
いや仕事だから仕方ないんだ。うん。浮気とかじゃない。し・ご・と。お仕事♪
あ~~仕事はつらいな~。まいったな~。
「イチはん………その顔はあきまへんて。」
「マジで?」
「…………」
珍しくゴードンがそっぽ向く。
ははーん。
さては俺が羨ましいんだな?
このケモナーめ。うへへっ。




