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「…ところで貴様
世界創造とぬかしているが…
実際に何ができる?」
グローミーの創造力により
体の外傷を完治させたビーチ
だが、世界創造を手伝ってほしい
という頼みをあまり飲み込めていない
「うーん、それが分からなくて
一緒に考えてくれる人が欲しかったの」
「…いい加減なやつだな…」
呆れた顔をするビーチ
グローミーも困った顔で言い返す
「って、いわれてもなにせ私は
生まれたばかりなもんでして…
んぁー例えばこの世界に何か足りないものとか
ビーチちゃんは思いつく?」
グローミーにそう言われて
とりあえず辺りを見回すビーチ
「何か……といわれたら
全部……だろ」
その通りだ
そもそもこの世界はまだ
手鏡と水鏡しか創っていない
「全部って…例えば?」
「うーん……
思いついたこと何でもいいのか?」
「うん!」
グローミーに笑顔で頷かれ
まずビーチは上を向く
「じゃあ…空だな」
「空!」
それを聞いてポンっと手をつくグローミー
続けて喋る
「空ね! それなら知ってる!
ふわふわの雲とかあるんだよね!」
「ま、そうだな…
で、空を創るとでもいうのか?」
後半、ため息交じりで
少し馬鹿にしたように言うビーチ
「やってみよう!
えぇと……空…青…白…」
グローミーは両手を天にかざし
ブツブツと唱え…次の瞬間!
カッ!!!
目を思わず瞑ってしまうほどの
巨大な閃光が上方で発生し
明るさに目が慣れ始めると
そこには…!
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「え……!?」
呆気に取られビーチが柄に無い間抜けな声を漏らす
無理もない
今の今まで四方八方真っ暗闇だった世界が
まるで空の中に浮いているような世界になったのだ!
「きれいーーー!!!」
出来のよさに無邪気に感動するグローミー
確かに先ほどまでの暗闇の世界が嘘のようだ
「な、なるほどな…
世界創造……できるんだな」
到底マネのできない芸当を目の当たりにし
少しずつ整理がついてきたビーチ
しかし同時にふと別の疑問を抱いた
「これが…空なのか、変な色だな」
「え? ちがう?」
青く澄み渡ったグラデーションに
ふんわりと漂う雲の群れ
空であることは認めているようだが
ビーチの思う空とは少し違うらしい
「あぁ、私の世界の空は…暗く、紫だった」
「ふむ? 私の記憶では空は青って感じだけど?
じゃあ紫にもどそっか?」
「いや」
ビーチはポツリとそう呟き
不思議な青空の空間に寝そべる
「…これはこれでいい
…悔しいが少々いい気分だ」
互いの知識と記憶では空の色は異なったようだが
ビーチは青い空をこうみえて心底気に入ったらしい
目を閉じ、大の字になり
不思議な大自然を体全体で受け止めている
「…今、頭の中でシュミレーションしたけど
紫の空とかすっごい陰鬱だったよ
なんていうかストレスになりそう」
不満そうな顔でいうグローミー
「…まぁ、私は好きなのか慣れているのか
あの暗い空も悪くなかったが…青空も新鮮でいい
貴様の世界はこの色でいいんじゃないか?」
「ビーチちゃんもそう思う!?
イェーイ、意見の一致ぃ!」
寝そべっているビーチに軽いノリで
ハイタッチさせようとするグローミー
「うっとしいやつだな…」
それに渋々ビーチも
寝そべりながら片手でタッチをした
「あぁいいなぁ!
背景を変えただけですっごく明るくなったぁ!
なんか私の性格もっと明るくなった気分!」
青空の中、喜びながら踊り舞うグローミー
そして次の創造へ移ろうとした時
ギュルルゥ……
「う……!」
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なにか奥底から訴えるような
不思議な音が空の世界に鳴り響いた
なぜだかビーチが急に三角座りをし
タコのように顔を真っ赤かにしている
「な、なに今の音?」
不意に鳴った音の正体がわからないグローミー
ビーチの方から鳴った気がするので
彼女に歩み寄る
「今のビーチちゃん?」
「ち、ちがう……」
これまでの態度とはうってかわって
小声で否定するビーチ
ギュルルゥ…
また鳴った…
ビーチから
「ごほっごほっ!」
音を隠すようにうそ臭い咳をするビーチ
知識だけはあるが鈍感なグローミーも流石に気付いた
「あぁ! ビーチちゃんお腹減ったんだね!」
「違うって…」
ギュルルルゥ……
否定したがまた鳴った…
いや、今度はグローミーから
「そういえば私、今までずっと何も食べてなかった
不思議なもんでビーチちゃんのお腹の音聞いたら
やっと私もお腹ぺこぺこになってきたよっ」
「グ、グローミーが鳴らしてたんだろ」
「え? ビーチちゃんでしょ?」
腹の鳴る音を隠したがるのは説明するまでも無い
生憎、グローミーには羞恥心も無い
「まぁそんなことより壁紙もできたわけですので
この世界 初のご飯タイムといこう!」
「…悪くない」
実際ビーチもかなりお腹が空いている
素直に提案をのむことにした
「じゃあ今回は特別に創造力でご飯をつくるけど
ビーチちゃんって何がすきなのー?」
「肉」
即答で応えるビーチ
「お肉? じゃあ……
こんなのでどうよ!」
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どーーーん!
グローミーとビーチの前に
漫画のような巨大骨付き肉が降ってきた!
中高年には勘弁してほしいほどの
た~っっ…ぷりの油に艶めく肉の表皮
熱々の湯気がほくほく立ち込め
周囲にはスパイスのきいたにおいが漂う
魅力的なこの肉塊に
ビーチはもはやよだれをたらすしかなかった
「ふふふ、私の記憶によると
巨竜のしもふり肉っていうんだって
竜っておっきいんだねぇ~」
と、説明をしていると
「う…うまい! はふっ…! ジュル!
…ごくっ! はふっはふっ…!」
それはもうエモノをむさぼるピラニアのように
激しく食いつくビーチ
食欲旺盛なのかはたまたは肉の魅力か
グローミーはその様子をみて
ポカンとしていた
「は…はは、すごいビーチちゃん
そんなにお腹減ってたんだね…
私はいいから全部食べちゃって~」
親の気持ちにでもなったのだろうか
あまりにも美味しそうに食べるビーチをみて
腹の減りなど気にならなくなったグローミーだった
それから20分あまり…
およそ一人で食べきるには不可能な量を
ビーチは全て綺麗に平らげた
スリムだったお腹もちょっとぽっこりしている
「……ハッ」
ふと我に返ったビーチ
「す、すまない… その…
久々の飯だったから……」
全部食べてしまったことを
彼女なりに反省し恥らっているようだが
グローミーは何も気にせず
いいのいいのと笑顔で答えた
「…その代わり、世界創造の助手を
引き続きしてもらうよっ!」
「……ふん」
鼻で笑った後、聞き取れないほどの声量で
いいよ といった
「じゃあビーチちゃん
空をつくって私 思ったことがあるのよ」
「…なんだ?」
サっと指で下をさすグローミー
「足場!」
「…だな、大地ともいえる」
ようやく1つの惑星らしくなってきたグローミーの世界
現状、青空のこの世界に見えない何らかの足場があるのだが
目で確認することができない
「私ね、ビーチちゃんと会う前に
あの水鏡で他の世界を観察したんだけど
土だったり岩だったり草だったり
いろんな足場があるのよ
で、この世界にはどれがいいかな?」
「…それは1つに決めなくてもいいだろ
本当にある世界らしくしたいならその…
草が生える場所、岩がそびえる場所
土や砂でできた場所…とか、個性をつければ
……いいんじゃないか? 分からないけど…」
ごく当たり前の、しかしもっともな意見を提案するビーチ
例によってグローミーはまた感動する
「おぉおぉ! なるほど、なるほどなるほど!
そうね! 全部が同じってつまらないか!
えぇと、じゃあね まずは全部草原にしてみるよ!」
そう言って地面に両手をかざすグローミー
空を創った時と同じように
まばゆく発光し…
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「ん……!
………お、おぉ…おぉぉぉ…!!!!」
声にならない感激の声をあげるグローミー
辺り一面 空景色だった世界が
上は空
下は草原 と
絵画の中のような世界へ生まれ変わった!
「…ふむ、とりあえずはこれでいいだろう
ここからどうするかは今後決めていこう」
「そうね!
…いやぁ~! 単純なことなのに
ビーチちゃんくるまで思いつかなかったわぁ!
やっぱ一人じゃダメねぇ、ありがとう!」
グイっと近寄ってビーチに抱きつくグローミー
「しかも"今後決めていこう"
…ってビーチちゃん乗り気になってきたし
なんだか楽しくなってきたねー!」
万能な生命体だからかして
完璧な声真似を披露され
おまけに抱きつかれているものだから
とてもイラっとしているビーチ
しかし、こんな短時間で
プライドも高く目つきの悪い彼女は
どことなくグローミーに対して
不思議な気持ちを抱き始めていた
そして空も大地もできたこの世界は
もはや無の惑星と呼ぶには相応しくなくなった
グローミーたちは引き続き
世界の創造に励む
3話【世界の壁紙を考える】
~Fin~