第2ページ 家族
1歳になりました。
先日ようやく歩けるようになり、言葉も覚えて一安心です。
この一年はずーっと勉強でした!
最初のうちはまったく意味がわからず困ってたけど、日本語と符合させたり、お母さんやメイドさんが物を指して単語を言ってくれたりするのでどうにかこうにかなったよ。
ちょっと覚えてからは楽しく学べたしね!
ただ舌がまだうまく回らないようで、拙くしか話せないのが不満だ。
そして一番困ったのが、最初に誰の名前を言うかということ。
俺が言葉というか、声を発せるようになってからお父さんとお母さんの期待の眼差しがすごかった。
その眼差しの意味が自分のことを最初に呼んで欲しいと訴えてるのだとはわかってた。
でもなかなか選べないよ。
どっちか選んだら片方が落ち込んじゃうと思うから。
だから間を取った。
俺が最初に発声した単語がこちら。
「にーにー」
それを聞いた両親は膝から崩れ落ちた。
兄さんはその幼い顔を満面の笑顔で染め、俺を抱っこしてくれた。
俺の兄。
ヨーゼフ・ソレイユ・フォン・シュレルン。
現在10歳のシュレルン家跡取り息子。
この歳で既に父さんに着いて勉強しているらしいから頭が下がる。
いつもは誰かと一緒だけど偶に一人で来たりもする。
優しく笑う彼が俺は好きだ。
跡目争いで揉めることもないだろう。
とは言え両親も苦笑しながら立ち上がり、そのあとは代わる代わる俺を抱きしめたのでそのときに名前を呼んでやると、とても嬉しそうにしていた。
父さんなんか感極まって泣きそうになり慌てて部屋から出て行ったくらいだ。
なぜか、家族の前では厳粛な父親として振る舞おうとしているみたいんだ。
もう手遅れだと思うけどね。
俺の父。
ジェイコブ・ヴァイスハイト・フォン・シュレルン。
この国に二家しかないらしい公爵家、シュレルン家当主。
王家門外顧問という特殊な役職に就いているらしく、仕事の内容まではわからないけどかなりお偉い立場らしい。
今年で34歳。
そんな父を支えるのが母、レーケル・フォン・シュレルン。
金髪紅眼で、とても二児の母とは思えない美貌を誇る。
年齢はわからない。
誰もその話題を口にしないからだ。
聞こうとも思わない。
本人を前にして心で思っただけなのに感じた悪寒はそれはもうひどかった。
そして、もう一人。
父を支えるのが、執事長ジェームズ・ビヤンネートル。
いつも柔らかく微笑んでいるとてもスマートな男性だ。
執事やメイドさんたちに指示を出す姿はかっこいいし。
立ち振る舞いには一瞬の隙もないように思える。
俺のうちの主要人物はこんなかんじ。
あとはいつもドジをするメイドのカミラや、メイド長のローザがいる。
ローザは正直怖い。
目が完全に俺を監視している目なんだ。
でも、ほんとは優しいのを知っている。
前に俺がハイハイで移動をしていたときローザに見つかりこっぴどく叱られたが、俺がベッドにいないことで探し回ったようで、心配させないでください。と、いつも気丈な彼女が目に涙を浮かべていたのは心が痛んだ。
それから、俺はメイドがいるときにあっちへ行け、こっちへ行けと指示を出すようにしている。
それもどうなのかと思うが、一人で動かれるよりはいいと判断しているのだろう。
苦笑しながらも抱っこして連れて行ってくれる。
カミラは俺付きのメイドだ。
ドジっ子メイドというのはカミラの為にある言葉だと思う。
よく転ぶし、よく物を落とす。
何回か俺も落とされそうになったが、必死にしがみついた。
赤ちゃんの握力はけっこうすごいのだ。
この一年間はそんな感じで情報収集に努めた。
他にできることがなかったというのもあるけれど。
ジェームズや、ローザやカミラに文字を教えてもらったり、この世界のことを聞いた。
父さんの書斎に入り込んで置いてある本を読んだりした。
わかったことはかなりある。
まず、この世界は異世界で間違いないようだ。
地図を見たけど知っている地名は一つもなかった。
ここは、この世界に三つある大陸の一つで、人族が統べる大陸アルクラフト。
大陸の中でも、他の二つの大陸、獣族が統べるバリファルファ、魔族が統べるベスペリアよりも遥かに広大だ。
そして、俺の家があるのはアルクラフトの中でも最も大きな国。
マジェスタ王国の首都、王城のお膝元である王都サンデルス。
そこに俺の家はあった。
窓から外が見えるけれどかなりの敷地を持っているようで、学校の校庭くらい前庭がある。
早く外に出たい。
そう、俺はまだ外に出たことはない。
箱入息子と言うのかはわからないけれど、丁寧に育てられている。
ちょっと過保護なんではないかってくらい。
それでも、うちの両親はかなりの親バカのようだ。
危険なこと以外には寛大というか甘いというか。
普通にこんな育てられ方をしたらどうしようもないバカ貴族になってしまいそうなくらい甘やかしてくる。
逆にしっかりしようって思うから不思議だね。




